お婆ちゃん

後２日。

前日、海から帰って車を返して家に帰って来た。

老婆の家と同じく、ソファで丸くなって眠っている。

優しく頭を撫でる手。

渡辺ーお婆ちゃんの手温かいね。

目を開けると、夜だった。

頭を撫でていたのは目黒。

飛び起きる。

「帰って」と言う。

目黒は、「ちゃんと言うって約束したよね」と言い渡辺を抱きしめる。

「お願いだから帰って」と渡辺が泣くので、目黒は帰って行った。

今日は踊る日。

今の自分に踊れるか？

岩本に電話した。

「事務所に呼ばれたから行って来る。」

嘘だが、こう言えば練習休める。

レンタカーを借りて、昨日の老婆の家に行く。

老婆ー何か食べれるけ？

渡辺ー無理、食べれば吐く。

老婆ーお茶飲むけ？

渡辺ーうん。

老婆ーお前みたいな若いのんが仕事もせんと、朝から何しとる？

渡辺ー仕事、もう辞めるかも。

老婆ーどんな仕事か知らんけ、何とも言えんけん、それでよかね？

渡辺ーいやです。でも、もう続けられない。

老婆ー嫌なら、歯ぁくいしばって頑張りんさい。

渡辺ーもう限界なんだ。

老婆ーあんさんはまだやれる。

渡辺ーそうでしょうか？

老婆ーこの婆が言うんやけ、大丈夫。

渡辺ーおばあ・・ちゃん。

老婆ー泣くな、あんさんの目はまだ諦めとらん。

渡辺ーん、がんばっ・・てみる。

老婆ー男は泣くでないぞ。

渡辺ーん。

昼過ぎまで老婆の家にいた。

帰ってくると、家に目黒がいた。

渡辺ー練習は？

目黒ーちょっと抜けて来た。

渡辺ーダメじゃないか。

目黒ーダメなのは翔太くんでしょ。

渡辺ー俺は、事務所に用事で行ってきた。照にも話してある。

目黒ー俺、事務所行って来たよ、来てないって。

渡辺ー・・。

2人とも何も言わない。

渡辺が立ってられなくて、ふらっとした。

目黒が支える。

渡辺ーごめん。

目黒ー何のごめん？

渡辺ー・・倒れそうになって。

目黒ーそれだけ？

渡辺ーん。

目黒ー何かあったの、もう分かってる。何で言わないの？

渡辺ー何もない。