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アゲルは、徐に一枚の大きな紙を広げた。
「それでは、改めて確認しましょう」
それは、この世界の地図だった。
アゲルの案内任せだったから、地形も何も把握しておらず、東西南北の何も分かってはいなかった。
しかし、この世界の地図を見て、僕は驚愕に声を上げることとなる。
「ちょっと待って!? ほぼ日本列島じゃないか!」
そう、そこに描かれていたのは、殆ど日本列島をモチーフにしたような地図となっていた。
真ん中に大きく自然の国が広がり、南の孤島には自由の国、その西方の海に航路を挟んで楽園の国。
そして、中央の自然の国から少し離れた東方に、この小さな守護の国が記されていた。
「にほんれっとう? 地図、見たことあるのか?」
僕の声に、アズマは返す。
「あ、いや、こっちの話……」
「そうか! アゲルから聞いてたのか! そう、この世界の名前は『ニホンコク』って言うらしいな! なんか変な名前だよな!」
そう言うと、アズマはふふっと笑い声を溢す。
ニホンコク……?
じゃ、じゃあ本当に日本がモチーフにされ、この世界は創られているってことか……?
そこで、一番最初にアゲルに言われたことが脳裏に過ぎった。
(日本人の貴方にしか出来ないことなんです)
もしかして、バベルは……。
「はい、話が進まないですよ!」
そう言うと、アゲルはパンパンと手を鳴らした。
「この地図を見てください。大人カナンさんの話では、カナンちゃん、及び龍族の一味の現在のアジトが『雷龍島』だと言うことが分かりました。雷龍島とは、こちら」
そして、アゲルは小さな島を指差した。
「以前行った、自由の国と楽園の国の奥にあります」
そして、全員に視線を送った。
「名前の通りですが、雷龍の住処です。前回、この国に炎龍が襲撃してきたこと、炎龍の動きが活発でなかったことを踏まえ考えると、全ての七龍は、龍族の一味に操られている可能性があります。それなら、まだ龍の本来の力が出せないので龍の脅威に怯えることはないでしょう」
龍の住処と言っても、確かに僕は炎龍の上でカズハさんと戦ったし、龍もあまり動かず、操られている様子なのは僕にも理解できた。
それなら、龍が猛威を振るうことはない……。
「ただ……」
しかし、アゲルは俯いた。
「この本島と違い、冒険者が足を踏み入れない孤島には、数え切れない程の魔物がいるはずです。僕たちの力がある程度付いているとは言え、数には敵いません。そこに龍族の一味からも襲撃があったら、手に負えません」
そして、僕たちは問題とされる部分をまとめた。
一に、龍族の一味は全員いるのか否かである。
大人カナンさんの視界は、捕えられているカナンと繋がっているらしいが、“カナンの見えるもの” しか見ることが出来ない為、全員が揃っている最悪の可能性もあるのだ。
二に、魔物のレベルとその数。
魔物に時間を掛けすぎていたらそれこそ龍族の一味から急な襲撃に遭ったら手が負えない。
そして、今回の戦いに引き分けはないことだ。
更に言えば、僕たちはフライドラゴンで孤島に行く為、フライドラゴンに乗らない限り帰還が出来ない。
それは、龍族の一味に勝たなければ帰れない、と言うことになる。
でも、カナンは絶対に助けたい……!
「そこで、僕に一つ提案があるのです」
そして、アゲルは一本指を上げた。
「『魔物を引き寄せる部隊』と『龍族の一味からカナンちゃんを取り戻す部隊』に分けませんか?」
確かに、ここに挙げた危険なものはそれで解消は出来るのだが、最悪なパターンも想定できる。
純粋に戦力が半減するのだ。
魔物と交戦する部隊も、龍族の一味と交戦する部隊も、半減した戦力で戦うのはとても危ない。
かと言って、全員でいるところを一網打尽も……。
「ヤマト、どちらにせよ危険なんですよ」
アゲルは、僕の表情を読み取ってか、言及した。
「俺も……ちょっと怖いけど、二手に分かれる案に賛成だな……。そもそもこの作戦自体が賭けみたいなモンだし、そもそも、カナンが捕えられた時点で、俺たちが来ることは読まれてる可能性の方が高い。だったら、全員いるところでまとめて襲撃に遭う方を避けた方がいいと思う」
そう言うアズマは、いつになく真剣な表情で、身振り手振りをして僕らに説明をした。
「そこで、もう一つ提案があります」
そして、アゲルは僕の目を見つめた。
「水の神 ラーチと、その守護神 ロロさんに救援をお願いしてみるのはどうでしょうか。結局、自由の国の上空を飛んで行くんですから。それに、あの二人は既に禁忌を犯して国の外に出てしまっているので、この作戦に組み込める唯一の神にもなるのです」
確かに、この編成に神と守護神を交えられるのは成功率が格段に上がる……。
「おい、確かその国じゃったな? ガロウがいるのは」
口を挟むのは、寅の仙人 ディムだった。
「そうですね……。この地図の、自由の国の更に南の……この辺りの洞窟に住んでいるかと思います」
少し悩むと、閃いたかのように答える。
「なら、ワシとリオラも行き、ガロウも連れて行こう。ワシら三人は魔物如きにやられんからな。別部隊として、魔物の引き付けをしてやる。それが終わったら勝手に帰還しても良いな?」
数の分からない魔物相手だ、三班に増えるのはとてもありがたい。
しかし、アゲルは気乗りしない顔を浮かべていた。
「どうした? アゲル、何か不安要素が……」
「いえ、ヤマト。大丈夫です。まずはカナンちゃんの救出と、この作戦の成功が優先。僕も賛成します」
話し合いの末、魔物部隊には、対象を止められるアゲル、自衛防御が出来るアズマ、何かあった時の為の戦力として水の神 ラーチと守護神 ロロが加わることとなった。
別動部隊として、寅の仙人 ディム、ディムに仕える闇魔法使いのリオラ、無理やり連れて行かされるのだろう午の仙人 ガロウも加わることとなった。
そして、龍族の一味アジト潜入は、僕、万が一カナンを抱えて一番早く逃げられるセーカ、道案内役として大人カナンさんの、小規模潜入チームとなった。
「ヤマト、今回は僕のサポートが出来ません。先に光剣を渡しておきます。ヤマトが生き残れば、まだこの世界の救済は可能です。何かあったら、一人ででも仙術魔法 神威で逃げてくださいね……」
そんなことは絶対に出来ないと知っていても、アゲルは言っておいたのだと思う。
勝たなくていい、逃げてもいいのだ。
全員無事に。
そして、正午の鐘が鳴る。
「では、行きましょう。ヤマト、カナンちゃんを救出できたら、この龍咆銃を上空に向けて発射してください。島全体を覆う程の爆発を起こします。それを合図に、一度、全員で楽園の国に逃げましょう。もしかしたら追撃の恐れもあります。楽園の国に行けば、ゴーエンやダンさん、グランさん達の増援にも期待できます」
龍咆銃。
守護の国に売られている、通称 “龍の声” 。
本来の用途は、冒険者の必需品で、魔物に囲まれた際、これを上空に向けて爆破させると、龍の咆哮だと勘違いして、大抵の魔物は混乱して逃げていくらしい。
尚、爆音に技術を詰め込めている為、この銃を相手に向けてもあまりダメージはない。
「フライドラゴン、人数分の調整できたぞ!」
カズハさんの合図で、僕たちはフライドラゴンと言う小型のドラゴンに跨った。
細い二本足で立つドラゴンで、翼の筋力に優れている魔物。馬のようなカバーの上に座り、口元に筒が噛まされており、そこから垂らされている紐を引くと簡単に言うことを聞いて操縦できるらしい。
「よし、行ってこい!」
僕たちは、カズハさんの掛け声に背中で答えた。
「はい!」
そして、全員はフライドラゴンで浮上した。