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カナンちゃん救出の話し合いの翌日、私は新装備を得る為に仕方なくヤマトの部屋を訪れた。
「ヤマト! 仕方ないから買い物に付き合ってあげる!」
しかし、そこに居たのは休憩中の男性騎士だけだった。
「あ……ヤマトくんのパーティの……」
ノックもない乱雑な扉の開け方をしたせいか、男性騎士たちは困惑を露わにしていた。
「す、すみません! 皆さん、復興作業で、ヤマトしかいないかと思っていたもので……」
「ハハ、大丈夫ですよ。ヤマトくんたちのパーティが居なかったら、生徒を守り切れなかった。あなたも、立派なこの国の英雄ですから」
そう言うと、騎士たちは朗らかに笑った。
英雄……か……。
えへへ……なんだか照れてしまう。
「ヤマトくんは今朝方、カズハさんに連れられてどこかに行ってしまいましたよ? 何か用事でも?」
「えっと……新装備を買いたくて……。それで、お金もないし、ヤマトに付き合って貰おうかと……」
すると、騎士たちは大きな声で笑い出す。
「アハハハ! 救世主にタカリですか! 本当に仲の良いパーティなんですな!」
仲が良いって言われると、照れてしまう……。
「お買い物なら私と一緒に行く?」
背後から声を掛けてきたのは……
「あ、カナンちゃ……大人カナンさん……」
カナンちゃんとは仲が良い自信がある。
自由の国へ向かう船内で出会って、一緒に遺跡探索もして、ホテルでも元気を分けて貰って、自由の国でドレイクの罠からみんなを助けた仲だ。
二人きりの女子メンバーでもあるし、カナンちゃんは幼いこともあって、正直、一番素直になれる。
ここにいるのは、カナンちゃん……。
だけど、私が知ってるカナンちゃんではないから、どう接すればいいのか分からない……。
「私と接し辛いわよね。セーカちゃん……」
「ちゃん……?」
「あ、ごめんなさい。今の私は、まだ幼いから呼び捨てだったわよね……」
困った顔を見せる大人カナンさん。
やっぱり、どこかカナンちゃんだ。
「行きましょう。お買い物……!」
そう言って、私は大人カナンさんの手を引っ張った。
「セーカちゃん、お金ないって本当?」
「えへへ……実は……」
本当にお金は持ってない。
ヤマトは国を救ってるし、なんか報酬金とか感謝料とか貰ってそうだから、本当にタカろうと思ってた。
「じゃあ、今回は私が出したげる」
「え……いいんですか……?」
「うーん、そうだなぁ」
そう言うと、人差し指で顎を指す。
そして、私の前に指を掲げウィンクをした。
「敬語を外してくれたら、奢ってあげる!」
むむ……。
大人とは言えカナンちゃんのくせに……。
「そんなの! 簡単なんだから!」
「ふふふ、ありがとう」
そう言うと、大人カナンさんは歯に噛む様に笑った。
守護の国は七国の中でもトップを争う程、商業や冒険者育成が盛んな国でもある。
その為、下級装備から、お高い上級装備までより取り緑だった。
「す……すごい……。ゴーエンは『腕っ節で装備の差なんか埋めろ!』とか言って、最低限の装備ばかり取り入れるから、こんな素材の装備見たことないや……」
鋼鉄にも様々種類があり、当然だが、その価値によって壊れやすさも断然変わってくる。
物理防御に優れたタイプか、魔法防御に優れたタイプかでもまた様々変わってくる。
「ミラー越しに眺めてないで、中入ったら?」
大人カナンさんはキョトンとした顔で指を指す。
「む、無理だよ! そんなお高い装備……私なんかが身に付けられるわけないじゃん!!」
「私なんかって……。ふふ、炎の神に鍛えてもらったお弟子さんのセリフとは思えないわね」
言われてふと思い出す。
自分のプライド……。
「ち、違うわよ! ゴーエンの弟子だからこそ、装備の価値なんかに拘らないって話!」
しかし、長年使っている、特に敵と接触の多いグローブには、小さな穴がポツポツと開いていた。
「あの、この防具を頂けますか?」
「ちょっと、何勝手に選んでるのよ!! この腕の防具はグランとお揃いの……」
すると、薄い生地のグローブを手渡した。
「え……グローブ……?」
「そう、グローブ。ゴム質のものより、鋼素材の方が更に強力な雷になるでしょ? それに、グローブだけなら腕の防具もそのまま身に付けていられるわよ」
正直、夢にまで見ていた、鋼素材のグローブ……。
腕輪のようにガッチリと嵌め、手の甲は鋼素材で、指は曲がりやすく部分部分にゴムが付けられていた。
「それから、これ……」
「何よこれ、弓じゃない」
大人カナンさんは、私に弓を手渡した。
「私、弓なんて使えないわよ」
「ううん。明日、幼い私を救出できたら、新装備としてあの子にもプレゼントしてあげて欲しいの」
その弓には、私のグローブと同じマークが記されていた。
「きっと、そのマークに気付いたら、お揃いだって大喜びしちゃいそうね」
「分かった……ちゃんと渡しておく……」
「それとー……」
大人カナンさんは、一度物品を見出すと止まらないタイプだった。
次から次へと試着やら購入をする。
「はい! 最後にこの指輪! そのグローブに嵌める感じで付けられるはずよ!」
「そんな……戦いにオシャレとか、私には不要だし!」
「年頃の女の子なんだから、いいじゃない!」
言われるがままに、私は指輪を嵌めた。
「うん。とても似合ってるわよ」
こう言ったアクセサリーの類は身に着けたことがない。
正直、少しだけ小っ恥ずかしかった。
「それとねー、じゃじゃーん!」
大人カナンさんは、背後に回り込むと、器用な手付きで素早く私の髪を纏め上げてしまった。
「ちょ、ちょっと……!」
「ふふ、戦闘において、その 長髪は弱点と思わない? 括ってあった方がきっと戦いやすいわよ?」
そう言って、また朗らかに笑った。
暫くベンチに腰掛けていると、全ての店は一斉に戸締りされ、みんなどこかへと行ってしまった。
「なんだろう? お祭り……ではないわよね?」
「行ってみる?」
「何かあったら大変! 私たちも行こう!」
向かった先は騎士団本部裏のトレーニング区域。
ヤマトが騎士や生徒たちから頭を下げられ、たくさんの声を上げられていた。
そして、ヤマトは叫び始めた。
「ヤマト……」
すると、私たちの着いて行った店の人たちは、元々話し合っていたかのように声を上げ始めた。
「な、なんなの……!?」
「ふふ」
大人カナンさんは隣で静かに笑っていた。
カズハさんは涙を溢れさせていた。
「セーカちゃん、さっきの言葉、蒸し返すようで悪いんだけどね」
長い切れ目は、真っ直ぐヤマトを見つめていた。
大歓声の中、肩を組む、岩の神とヤマト。
「 “私なんか” の行いが、この人達を救ったのよ」
私は、自分の軽率な発言に何も言えなくなる。
でも、だからって……ヤマトみたいに私は強いわけじゃないから……。
「あれ? その金髪! 生徒たちから守って騎士団まで送り届けてくれた、ヤマトさんとこのパーティにいた子じゃないの!」
「え、あ、あの時の!」
ヤマトたちと離れた後、私は騎士団の外に出て、雷魔法のスピードを生かし、逃げ遅れてる人たちの救助に向かっていた。
その時に助けた八百屋のおばさんだった。
「あの時はありがとね」
そう言うと、私の手を無理やり握った。
「あら、綺麗な指輪! その蒼色の瞳にすごく似合ってるわね〜!」
「ちょっと! その子、私のことも助けてくれた子よ! 雷魔法で生徒たちに外傷を負わせないように気絶させて、私のことも助けてくれたの!」
「おいおい、俺もだぜ! その子、女の子なのにこんな太ってる俺のこと抱き抱えちまって、騎士団まで雷魔法で一っ飛びよ!」
あわ、あわわわわわ……。
こんなの、慣れてないからどうしたら……。
その時、無言で大人カナンさんは頭を撫でた。
『どーしたー? セーカ元気ない?』
自由の国のホテルで、カナンちゃんが暗い私の空気を察して撫でてくれた手と同じ……。
少しだけ、涙が零れてしまった。
そして、夕焼けの街に私たちは帰って行った。
「ふふ、あそこで泣いちゃうなんて。まだまだ英雄様とは程遠いかも知らないわね」
そう言って、また静かに笑うカナンさん。
いいえ、
「私の実力があれば、あんなチート野郎のヤマトなんかすーぐ追い越すんだから! カナンちゃん!」
そう言って、私は満面の笑顔を向けた。