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ポッドは門の一件から数日後、町にある市民図書館へ来ていた。

市民図書館は、パルベニオン帝国が東西南北で分かれている区間に一個ずつ、合計4ヶ所存在している。割と大きい建物で3、4階建てほどの高さがあり、外観はお城のような建物である。内部は木目調なので、建物の中に入ると温室の植物をここで育てているかと錯覚させるほどに自然的で、落ち着いた空間だった。なんともお洒落な図書館なのである。



僕がここへ来た目的は2つあった。1つ目が、例の門で見た怪物の正体を知る事だった。

2つ目は、借金の事で誰にも相談できないため、どうにか返済できる方法はないかと、知恵を探しに来たのだ。


ポッドは広い図書館を歩き回り、最初は動物のコーナーにたどりついた。動物図鑑を見ても、あの怪物と似たようなものは見当たらなかった。パタンと本を閉じ、結局、次の目的であるお金の稼ぎ方を探しに再び歩き出した。


「(地道に稼いでいても、到底払い終わることはない。かと言って僕が死んだら、母さんや弟に連帯責任を追われる。それだけは避けなきゃ……)」


何とか打開策がないか思考する。


「(はぁ、億万長者になれたらいいのに……)」


「(僕って、ほんとなんの取り柄もないな……)」溜め息が辺りに広がる。

さっと、視線を本棚に戻して再び背表紙を眺めて興味がある本をとって開いてみる、の繰り返しだ。 金儲けの本には、成功者の方法がみっちり書いてあるが、どれもポッドとの共通点がないものばかりで、再現性がないものばかりだ。よさそうな本を見つけは、ペラペラ、とページを捲る。

――この先は有料です、と明記されている本。裏表紙には金額が記載されており、10000ペクタと記されている。手持ちは、なけなしの500ペクタ。ポッドは眉を顰めて、何度目か分からないため息をついた。


「はぁ……」


パタンッと本を閉じる。


図書館には、いろんな人が静かに本を読んでいる。ポッドは奥の方の本棚へ歩き、また探す。本の背表紙を眺めながら、どんどん奥へ進んでいく。


ふと、図書館の一角の、ある本に目が留まった。その場所は人気がなく、窓際の方に人が1人居るくらいだ。



――探検記 真理の追究 前編――



「……たんけんき?」


面白そうな本を見つけたので、ポッドは手に取って中身を確認し出す。ペラリ、と1ページ紙をめくった。



ここに記されている事柄は、全て私が体験したものである。


その本の冒頭は、そうやって始まっていた。その文に興味を引かれて、ポッドは次から次へ、文字を目で追っていく。


――私は嘘を綴らない。この話を信じるか信じないかは、君の判断に委ねる。

*だがもし君の手に、この本が渡っているのなら、おそらく記していい事象だけを見せているのだろう*。




前置きが長いな、とポッドは思った。


――結論から言おう、この世界は××××××であり――。



「何だよ、これ、」


ペラペラと、次のページへと紙をめくっていく。

――であるから××××××××××。

ペラペラー。

――*我々が理解するべき事は×××××××××で、×××××である*。




その1ページだけに留まらず、あらゆるページに文字を読めない細工がしてあったのだ。その事にポッドは不信感が募っていく。所々に挿絵が載っているページがあり、それらに図示されているほとんどが、この世のものとは思えない化け物や妖精のようなものが描かれていた。


作者自体も不明と書かれており、探検記と言いながら結局、何も分からないじゃないかとポッドは思った。


「ん?前編ってことは、後編もあるのか?――王立図書館にて保管。――これらの本を読むには『王印の申請』が必要です?……」



王印とは、王しか持っていない印鑑の事だ。

つまり、この本は、王のハンコをもらった申請書が必要と書かれている。本の裏に作者と同じところにそれは書かれていた。


また王立図書館とは、市民図書館とは違い、市民図書館にある本より更に危険な本や専門的な本が多く保管されている。そのため、王族が直轄で管理しているのだ。王立図書館へ入る場合、一般人は申請なしにそこへ入れない。

詳しく読んでいくと、職員を通じて王宮と手続きをする必要があるらしい。更に、この本の申請を通るためには、ある条件が必要なようだ。


「『この書籍を読むに当たり、王印申請の条件 ・年齢制限なし、但し王立博士号の資格を有する者』……って、絶対僕じゃ読めないや……ん?」


上記の資格は取得困難と呼ばれているもので、この国でも両の手で数えられるくらいの人数しかいない。そして、次の文に疑問を抱く。


「『・外部で発生した特異点を発見、又は経験した者の場合、その限りではない』……何だそれ?」


初めて見る「特異点」という文字。それが何の事なのかポッドはさっぱり分からなかった。それに、どうやらこの本はサンプルらしい。


「はぁ……(てか、外部って探検家とかじゃないと外にすら出られやしないや……でも、――もしも叶うなら、外の世界を見てみたいな。いろんな物を見て、新しい物を作って……それでお金を稼いで……そしたらリクにいい医者を診せてあげられるかもしれない、母さんをもっと楽にできるかもしれない。……あ、そうだった、僕の夢は)」



――探検家になる事だった。



ふと、昔の夢を思い出したポッド。

ゆっくりと幼き日の記憶を振り返る。



(記憶)

豪快な音と共に、門の外へ出ていく軍人と思わしき人々は、勇ましく、何よりかっこよかった。ひどく単純な理由だが、そんな彼らの勇姿を見てから、僕も将来なりたいと思ったのだ。

小さい時から探検家になりたいと思っていたポッド。あの頃は希望と夢に溢れていた。

「(外に出るとしたら、まず探検家の試験を受けないと話にならないし……そもそもなれない、僕じゃ……)」


――――――――――――――――――――

探検家、この国でその職は『特殊外交特攻部隊』とも言われる。

特殊外交特攻部隊は2つに分類されている。

1つ目の分類が、ちゃんとした養成施設で、試験や訓練を受けてきた者だ。主に軍人を目指したりする者が進路変更などで、探検家の道へ行く人も少なくない。ここから出身の人たちは外を探検する際は、チームを編成し行動する事が義務づけられている。

2つ目の分類は、一般人からなる者たちだ。

「一般人からの募集」は常にかかっている。試験を受けるにあたり危険を伴うが、その分合格したら、特殊外交特攻部隊と同じようにお金を稼ぐ事ができるのだ。

ある試験をクリアし、契約を交わす事で就く事ができると言われている。その試験も、普通に死ぬ事があり得るらしい。



参加資格はただ1つ。




*未知との邂逅を恐れず、死ぬことを厭わない者だけを求む。*



正規のルートで特殊外交特攻部隊となった者とは違い、一般募集で晴れて探検家となった者は、単独での行動が許可されている。


一般募集で集まる奴らは、イカれた奴らがくると陰で言われており、死ぬ者のほとんどは遺体が残らない。その者の名も明かせず、外部で見た事や体験した事は一切口外できないという。その為に「契約」を交わすのだそうだ。

――どちらにしろ、彼らのお陰で未知の領域を明かせるのは事実――。

その危険性と崇高な行動から、旅路は同盟国やその他の補助は手厚い。

一般人でこの職に就くほとんどの者が、未亡人や独身の者、貧民街出身の者、……あと本当なイかれた変態なやつ、などさまざまである。

一般募集は金はかからない。なぜなら、命が対価となるからだ。そんな試験、普通の人ならまず受けない。養成施設からなるにしても、一人前と認められるまでに莫大な資金がかかるのだ。


「(まぁ、そんな唯一の夢も、叶えられないな)」とポッドは今までの現実を振り返った。

――借金まみれの自分、生活するのがやっとの家。仕事場も苦痛だけれど、何とか生活できていて。やつれた母、目の見えないリク、クズの父親、いじめっ子達、家にくる取り立て人、冷酷な王宮の人間。


「(これ以上、どうすればいいか……分からないや)」


いっそ、死んだ方が楽になれると思っていた。



そんな陰を纏っていたポッドの真横から、その憂を蹴散らすように、すっ、と人の腕がポッドの顔の真横を横切った。


ポッドは本棚に正対していたので、横から伸びてきたその手の人物に気づかなかった。近くにある本を取ろうとしていたらしい。弾かれたように手の主を真横からそっと覗いた。



「!(この人、窓際に座ってた人だ)」


黄金色の綺麗な瞳と、フードからはみ出ている茶髪の髪がそこにあった。顔を隠しているのだろうが、僅かにみえる鼻筋や口元のつくりから伺える横顔が、とんだ美形だった。

ポッドは、横にいるその美しい人物の珍しい瞳の色を凝視していた。


「……何か?」


こちらを覗く黄玉の宝石


「え、あっすみません」


咄嗟に顔を逸らし下を向いた。自分が相手の目をじっと見ていた事に、相手も分かっていたので恥ずかしくてたまらなかったからだ。

視線を泳がせていると、声がかけられた。

「……君、この近くにあった本を知らないかい?」

「え?……あ、もしかして」


急に話しかけられてポッドは少し驚いたが、少年が探している本に心当たりがあった。そのため、自分が持っていた本を、体の前へ持ってきた。


「この探検記かな?」


そして、未だ手にもっている探検記のサンプル本の表紙を彼に見せた。

すると少年は、ゆっくりと視線をその本へ移した。そして、ポッドとその本を交互に見た。


「そう、それだ」


――どうやらこの人は、ポッドが見ていた本を探していたようだった。


「今読んでたかい?それとも、これから読む予定だった?」


その質問に、ポッドは頬をぽりぽりと掻きながら答えた。


「えっと……ううん、読まないよ。興味はあったんだけど僕じゃ読めそうにないから見てない。……君が読んでくれて構わないよ」

「そうか。なら失礼する」


ポッドはそっと手に持っていた本を、相手に渡す。

相手の声色や見た目からだが、ポッドと同い年くらいの少年だと推測した。


「(僕と同い年くらいかな?にしても随分大人びてるな)」


ページを捲る所作からも、どこか気品を感じさせる。


「(あれ?その本、申請が必要だったような?)その本を読む為には、確か申請書が必要らしいよ」

「ん?……あぁ、これはサンプルか」

彼も同じように本の裏を確認して答えた。

「そうか……問題ない。教えてくれてありがとう」

「あ、いや……」


ポッドは正直驚いていた。あの条件を満たしている人がいたなんて、いったい何者なんだ?すごいなあ、と。


その少年は、本を持つとカウンターまで行き、何やら受付と話をして、また戻ってきた。そして、先ほどの窓際の椅子に腰かけて、別の本を読みだしている。


「(絵になるな~)」


彼の一連の動作を、まじまじと見てポッドは思った。ふと、少年がポッドへ向けて声を発した。

「……君は、探検家になりたいの?」

「え?」


少年が僕に話を振ってきたのだ!


突然のことだったので、変な声がでてしまった。ポッドは、同い年くらいの友達が周りにいなったので、美少年が自分に話しかけてくれたことに、体へ緊張が走った。


――でも内心では嬉しかった。


そのまま少年は、ポッドに話を振った。


「さっきの本……あれは探検家用の本だったから、もしかして外に興味があるのかと思ったんだ。違ったかな?」

「う、うん!そうだよ!偶々通りかかって見てたら題名が面白そうだったから!でも僕じゃ読めないし。……他にも探したいのがあったからいいんだ」と濁した。


――まさか借金返済のために知恵を図書館で探しているとは、出会って数分の子に言えるわけがなった。それに、ポッドは嬉しかった。

――もしかしたら、このままこの子と友達になれるかも!と。


「へぇ、そうだったのか」

「うん……」


……沈黙。




――まずい、このままではこの子との会話が終わってしまう!


「そ、そうだ!君の名前は?なんて言うの?僕はポッド!」



彼は、本のページをめくる指を一瞬とめた。けれど視線は本のままに、ポッドの問いかけに答える。



「……ハルト」



間をあけて少年はそう答えた。ハルトは、また本のページをめくり出す。



星ノ日記 星の鼓動、壮途につく

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