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台所に立ったまま、咲は動けなかった。
手の中の茶碗をスポンジでこすりながらも、頭の中はさっきの声でいっぱいだった。
(……無理すんなよ、って)
何気ない一言のはずなのに。
低くて優しいその響きが、耳の奥でずっと鳴り続けている。
(悠真さん……やっぱり、少し前と違う気がする)
胸の奥が熱を帯び、顔まで赤くなるのを感じて、咲は慌てて蛇口の冷たい水に指先を沈めた。
けれど冷たさはすぐに温かい鼓動にかき消されてしまう。
リビングに戻る勇気が出ないまま、咲はそっと深呼吸を繰り返した。
たった一言で、こんなにも心が揺さぶられてしまうなんて――。