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🎼📢🌸
「らん様、」
「…聞かれたら勉強しているとでも言っといてください」
「…わかりました。どうか危ないことはなさらないで」
「日付が回るころには戻ります」
現在23時。
24時になればいよいよ18歳の誕生日だ。
私の家系は王族。
私も18歳になったら正式に国を守っていく立場として、国の中枢に関わることとなっている。
本来、その責任は男子が継ぐのが代々のやり方だったけど、父・現王の意向でひとりっ子の私にも一端を担わせることになったという。
正直、あまりうれしくはない。
大勢の人の前に出るのも好きじゃないし、本当にやりたいことだって他にある。
王女という立場でありながら、その名にふさわしい人間ではないと自分を評している。
現に、こうしてこっそり夜に抜け出して桜を見に来てるわけだし。
「いいかんじ…」
18になる前の最後のわがままとして、今日はずいぶん離れた並木にまで歩いてきた。
帰り道がわからなくなっても___どうでもいいや。
桜を下から見上げ、たくさんの木の周りをくるくると回りながらステップを踏む。
今だけはまだまだ子どもだと、のびのびしていられる。
「あの、そこ。それ以上は危ないですよ」
急に腕を軽く引かれ、近くで声がした。
振り向くと、暗い中でもわかるくらい綺麗な黄色の瞳が私を見つめていた。
深い紫色に、シルバーのインナーカラーを混ぜた髪がふわりと風になびく。
同い年くらいの、整った男の人だった。
「あ…ありがとうございます」
驚きつつも、ひとことお礼を伝えると、小さく微笑んでくれる。
それからちらりと腕時計を見た。
「こんな時間になにやってるんですか?女の子ひとりで、危ないでしょう?」
「あー…寝れなくて、桜を見に」
曖昧に笑って適当に誤魔化すしかない。
こんな初対面の人に、ほんとうの理由なんて、言えっこない。
「このこと、家の人は?」
「内緒です」
素直に答えると、彼は呆れたようにふふっと吹き出した。
「やんちゃですね、そんなかわいい顔して」
肯定でも否定でもないその言葉が、何となく心に染みた。
ていうかこの人、もしかして私が王女ってこと、気づいてないのかな?
それならそのほうが都合が良いんだけどね。
再び腕時計を確認した彼がいらずらっぽい笑みを浮かべた。
「せっかくなんで、今日くらいもっと遊びません?」
まさかこんなことを言われるとは思わなかったけど、その言葉にテンションがあがる。
ぱっと目が輝くような気分で、ぴょんと飛び上がった。
「したいっ!」
彼は満足そうに頷くと、自分の上着を脱いで、そっと私の肩にかけてくれる。
「じゃ、ちゃんと着いてきてくださいね?」
そういうと、颯爽と走り去っていく。
「え?ちょっと!まって!?」
「あははっ!ほら!早くしないと置いていきますよ」
遠慮なく全力で走っていく彼の、無邪気な笑顔を夢中で追いかけた。
ようやく止まってくれたころには、すっかり息も髪も乱れてしまった。
「つかれた…」
「ふふっおつかれさま。ね、見て」
いつの間にか砕けた話し方にどきっと胸を高鳴らせつつ、彼が指したほうに目を向ける。
「わあ…!!」
私たちが辿り着いたのは少し高い丘で、街全体が見渡せる場所だった。
夜景がきれいだ。それから、見上げると、空にはいっぱいの星が輝いていて、思わず言葉を失ってしまう。
「こんな綺麗だったんだ…」
今までずっと嫌だと思っていた家のことを、ふと思い出す。
父たちはこれを…守っているんだよね。
それなら悪くないかもしれない…と少しだけ、思った。
「らん」
彼に名前を呼ばれた。
「えっ」
名前は教えていないはず。なのに、この人は確かに私の名前を当てた。
驚いている間に、やわらかく微笑んだ彼はそっと頭を撫でてくれた。
「お誕生日おめでとう」
ぱっと口を押さえる。
びっくりしすぎて、言葉も出てこない。
彼の腕時計をちらっと見ると、確かに0時を指していた。
「気づいてたの…?」
「最初から笑」
そう言ってにこにこ笑う彼には敵わない。
ずっと気づかないふりしてくれてたのか。
「…ありがとう」
彼はひとつ頷くと、最後に送ってくよ、と元来た道を戻り始めた。
今夜限りで二度と会うことはないかもしれないけど、素敵な人に出会えた、特別な誕生日だったと思える。
上機嫌で彼のあとを追いかけた。
翌日。
私の生誕パーティーが開かれると共に、私の専属の護衛と顔合わせがあるらしい。
成人とはいえ、念のため女の子だからと心配性な父が決めていたという。
別にいいのに、なんて思いながら正装に近いドレスを身に纏って、両親と一緒に扉の前で待機する。
まあきっと年上のベテランさんだろうな、って思いつつ、挨拶の手順を思い出していると。
ざわざわと騒がしくなった。
来た、と直感し、改めて姿勢を伸ばす。
扉が開かれ、入ってきた人をみて、
絶句した。
「なんで、」
だってそこには。
今日、いちばん最初に誕生日を祝ってくれた___
「はじめまして。本日より、らんさまの護衛を務めさせていただきます」
にこっと笑った。
「いるまと申します。」
____彼がいた。
…なんこれ。
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