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水虹ひにゃ@リムらないでほしい
思えば、入学式のあの日から、舜太はずっと分かりやすかった。わかりやすすぎた。ただ、わかりやすいことと、当の本人にちゃんと伝わるかは、また別の話である。
隣の席が空いていれば必ず座る。荷物を持てば真っ先に手を伸ばす。話しかける時はいつも一歩、他の誰より距離が近い。目が合えば、迷わずまっすぐ笑いかける。
本人としては、これでもう十分すぎるほど伝わっているはずだった。少なくとも舜太自身は、そのつもりでいた。
ゴールデンウィーク明け、いつものように特に用事も口実もないのに、「おいしいプリン食べよー」と舜太がコンビニの袋を下げて柔太朗の部屋にやってきた。
柔太朗は、授業の課題をしようと机に座ったところだった。特に、許可など返事した記憶はないが、「おっけー」と部屋にはいってくる。
まぁ、いいかと柔太朗は課題に取り組むことにした。
しばらく課題に向き合い一区切りしたところで、顔を上げれば、携帯片手にこちらを見ていた舜太と視線がかちあった。
柔太朗がふと、思いついたように尋ねる。
「――ねえ、舜太って、僕にそういうことするの、どういうつもりでやってるの?」
「え?」
「距離、近いなって前から思ってて。他の人にはそこまでしてないみたいだし」
あまりにも素朴な問い方に、舜太は一瞬、本気で言葉に詰まった。それから、心底驚いたように目を丸くする。
「――え、こんなにわかりやすくアタックしてたのに、気づいてなかったん?てっきり、わかってて、試されてんのかと思ってたわ。」
「……アタック?」
「好きやから、構いたいんやろが。柔太朗のことが」
飾り気のない、まっすぐな声だった。冗談めかす様子も、恥じらう素振りもない。
柔太朗は、しばらく言葉を失った。
特別な好意を向けられていること自体には、実のところ薄々気づいていた。ただ、それはあくまで友情の範囲のこと。
ここまではっきり、しかも当然のことのように口にされるとは思っていなかった。
それに――相手が、男性であるということ。
これまでの人生で、一度も選択肢に入れたことのない可能性だった。頭の中で、戸惑いがゆっくりと渦を巻く。
けれど、目の前の舜太には、その戸惑いを共有する素振りが欠片もなかった。悩む様子も、変に気負う様子もなく、ただまっすぐにこちらを見つめている。彼は小さい頃からアメリカで育ったという。自由と平等の国で育てばみなこうなるのだろうか。……いや、きっと彼の性格だろう。
屈託のなさが、その瞳の奥に透けて見えるようだった。
(――まあ、いっか)
深く考える前に、そんな言葉が自然と胸の内に落ちてきた。舜太のあまりの自然体さに、いつの間にか引っ張られていたのかもしれない。
そして、その「まあ、いっか」がすんなり出てきたということ自体が、答えだった。深く考えるまでもなく、自分はきっと、とっくにこの人のことが好きだったのだ。
「――僕も、舜太のこと、好きだと思う」
腹が決まれば、そこから先は早かった。柔太朗は少し頬を赤くしながらも、まっすぐにそう言葉にした。
「――ほんまに?」
「うん」
「――やった!」
舜太が声を上げて破顔する。その素直な喜びように、柔太朗はつられて小さく笑った。
浮かれたような沈黙の後、舜太がふと思いついたように言った。
「――なあ、これからは、柔太朗のこと『柔』って呼んでもええ? なんかそう呼びたい気分」
「……柔?」
「特別な呼び方、みたいな。俺だけの」
柔太朗は一瞬きょとんとしたものの、口の中でその響きを確かめるように、小さく繰り返した。
「柔、か……」
不思議なことに、初めて呼ばれたはずなのに、どこか懐かしいような、しっくりくるような感覚があった。うまく説明はできなかったが、悪い気はしなかった。
「――じゃあ、僕も舜太のこと『舜』って呼んでいい?」
「おう、望むところや」
「舜、か……うん、なんか、しっくりくる」
その日から二人だけの間で、その呼び方はごく自然に定着していった。
その夜、勇斗の部屋に集まった三人に、舜太は開口一番、これ以上ないほど誇らしげに報告した。
「聞いてくれ! 俺、柔と付き合うことになってん!」
「――あーーね、ついに」
勇斗が声を上げると、太智も横から茶化すように、
「はやっ! おめでとうやん、柔太朗!」
当の柔太朗は照れくさそうに顔を伏せている。仁人だけは、腕を組んで小さく頷いた。
「まあ、時間の問題だったよな」
「仁人、冷静か」
その後も、舜太は相変わらずだった。
……いや、よりひどくなったかもしれない。
数日後、勇斗の部屋でいつものように五人が集まっていた時のことだった。話の弾みで、舜太が何の前触れもなく、隣に座っていた柔太朗の頬に軽くキスをした。
「――は?」
固まったのは柔太朗だけではなかった。太智も勇斗も、一瞬時が止まったように黙り込む。
「な、なにするの!?」
真っ赤になって声を上げる柔太朗に、舜太はきょとんとした顔で、
「え、あかんかった?」
「あかんかった、じゃなくて! みんな見てるところで……!」
「ごめんて〜。可愛かったから、つい」
悪びれもせず甘えるように謝る舜太に、柔太朗はしばらく睨みつけていたものの、結局それ以上強くは言えず、ため息交じりに矛を収めた。
「……次からは、ちゃんと聞いてから」
「はーい」
素直に頷く舜太を見て、太智が諦めと達観を含んだ声音でぼやく。
「これ、絶対これから何回もあるやつやんな」
「あーーね、目に見えてるわ」
勇斗は笑った、笑うしかなかった。仁人はやれやれと肩をすくめるだけだった。
「……先が思いやられるな、これは」
窓の外はもうすっかり暗く、五階の窓から見えるキャンパスには、ぽつぽつと明かりが灯っている。賑やかな笑い声が、狭い部屋の中にいつまでも響いていた。
コメント
2件
多分初コメ失礼します!みんな前世のこと気づいて‼️‼️😭😭お願い‼️