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「……雪蛍くん」
久しぶりに感じる、雪蛍くんの温もり。
涙が溢れ出るくらい嬉しかった。
「ううん、私の方こそ、ごめんね……」
「莉世は悪くない。あれは俺が悪かった。お前を信じきれなかった俺が悪いんだ……」
「雪蛍くん……」
抱き締めていた腕を一旦離すと私の身体を自身の方へ向け、雪蛍くんにってよって向かい合う形に直される。
「疑ったりしてごめん。莉世が俺を好きな事は分かってるのに、本当にごめん……」
「もういいの、私が悪かったの。元カレと連絡なんて取らなければ良かったんだから。もう絶対しない。不安にさせたりもしないから」
「莉世……俺も、もう疑ったりしない。莉世を悲しませる事も、しないから」
「うん。私はね、雪蛍くんとまたこうして居られるだけで、充分だよ」
「莉世――」
そして、私たちは自然と唇を重ね合わせ、互いを求めるように貪り合う。
ようやく仲直り出来た。
その事が何よりも嬉しい。
これでまた元の日常に戻れる。
どんなに忙しくても頑張れる。
そう思っていた。
だけど、そんな私たちに新たな試練が訪れる事になる。
仲直りをしてから数週間が過ぎた、ある日の昼間、私と雪蛍くんが社長に呼ばれて共に出向くと、いつもは優しい社長が冷ややかな視線を向けて私たちを見た後で、一冊の雑誌のあるページを開いて机の上に放り投げる形で置いた。
「私は何度も注意したはずだ。くれぐれも気を付けるようにと。雪蛍、お前は今が一番大切な時なんだぞ? それなのに、どう責任を取るつもりだ!?」
その言葉にただならぬ事態を悟った私と雪蛍くんが差し出された雑誌に視線を移すと、そこには、【渋谷雪蛍に新たな熱愛発覚!お相手はマネージャーのAさん】という見出しと共に、私が一人で雪蛍くんのマンションに入って行く写真や共に行動する写真、それから、ほんの少しの逢瀬を重ねていた時にも撮られた数々の写真が掲載されている。
ただ一緒に居るだけならマネージャーだし疑われたりはしないのだけど、その写真の中には夜の駐車場の車の前でキスをしている決定的な場面もあったのだ。
勿論、いつもは気を付けていた。この時も周りを警戒はしていたはずだ。
だけど、恐らくこれは仲直りをした日の物で、仲直り直後とあって気持ちが舞い上がっていたのだろう。
帰る間際のほんの一瞬、触れるだけのキスで、運悪くそこを撮られてしまったようだ。
これには弁解の余地すら無い。
社長が怒るのも無理はない。
散々、気を付けるように言われていたのだから。
「社長、申し訳ございません! 私がいけないんです……」
謝ったところで今更雑誌の記事が無くなる訳じゃない。
それは分かっているけど、謝らずにはいられなかった。
そんな私を前にした雪蛍くんもまた、
「莉世だけのせいじゃない。俺だっていけなかった。すみませんでした」
頭を下げてひたすら謝罪する。
「お前たちが謝ったからと言って今更どうにもならない。南田くん、悪いけど君にはもう今日限りで雪蛍のマネージャーを降りてもらう」
「何だよそれ!」
「いいの、雪蛍くん。社長、分かりました。今日限りで彼のマネージャーを降ります」
「莉世!」
私や社長の決定に納得のいかない雪蛍くんが声を上げるけれど、私はそれを制して話を続ける。
「やっぱり、雪蛍くんと交際を始めた時点でこうするべきでした。私の我侭でこのような大事になってしまい、本当に申し訳ありませんでした」
「もういい、とにかく私はこれから対応せねばならない。お前たちは事務所から出るな。外にはもう、マスコミが既に集まっているからな」
どんなに謝っても社長の怒りは収まらず、対応に追われているのか私たちに事務所から出ないよう言いつけると部屋を出て行ってしまった。
残された私と雪蛍くんの間には気まずい空気が流れていく。
「莉世……お前本当に……」
「雪蛍くん、私はね、雪蛍くんにこれからも夢を叶えて欲しい」
「そりゃ、俺だって……」
「このままじゃ、ハリウッドの話も無くなっちゃうかもしれない。そんなの、私は嫌」
「今回は無理かもしれねぇけど、また一生懸命頑張って実力でもぎ取る。だから――」
多分、雪蛍くんは私が何を言おうとしているのか気付いてる。
気付いているから、焦ってる。
だけど、私はそれに気付かない振りをして言葉を続けた。
「私はね、雪蛍くんの夢の邪魔にだけはなりたくない。今回の事でこのまま私と付き合い続ける事は明らかに印象も悪くなる。嘘をついて離れたとしても、マスコミは私たちを追い続けるだろうし、いつかボロが出る。これ以上社長にも迷惑は掛けられないし、雪蛍くんのファンを減らしたくも無いの。だから……別れよう、私たち」と。