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「何だよそれ! そんなの納得出来る訳ないだろ!?」
私の言葉に納得のいかない雪蛍くんは声を荒げて反論する。
「仕方ないじゃない! もうこうするしかないの! 私たちは、別れるしか無いのよ……」
私だって、別れたくない。
雪蛍くんの事が大好きだから。
離れたくない。
だけど、
大好きな人の足枷にだけは、なりたくない。
雪蛍くんには才能がある。
これからもっともっと、輝ける。
沢山の可能性が待ってる。
そんな彼の未来を奪うような真似だけは、出来ない。
「……俺は、莉世と別れてまで……夢を叶えようとは思わない」
「雪蛍くん……」
「絶対にあるはずだ! 俺たちが別れなくてもいい未来が。その未来しか、俺は信じない。とりあえず、暫くは距離を置こう。だけど、俺は絶対別れないから、そのつもりでな」
「雪蛍くん!」
結局話は纏まらないまま、雪蛍くんは言いたい事だけを口にして部屋を出て行ってしまった。
「どうして分かってくれないの……」
私たちが一緒になれる未来なんて、そんなの、雪蛍くんが芸能界を辞めるしか無いのに。
私たちの事が明るみに出た今、マスコミはもっと私たちの事を探るだろう。
そうすれば私たちがいつ頃から恋仲だったかも分かるし、世間の雪蛍くんを見る目も変わってしまう。
彼は今、世代問わずに人気で、特に女性からの支持は圧倒的だ。
恋人にしたい芸能人No.1の称号もある彼に彼女がいる。しかもそれがマネージャーだなんて、失望するファンは沢山いるに違いない。
私が叩かれる分には構わない。そんなの覚悟の上だから。
でも世間は名前も分からない一般人の私よりも雪蛍くんを叩くに決まってるの。
マネージャーを降ろされた私はひとまず事務作業をする為に事務員たちの元へと向かう。
部屋に入ると皆が一斉に私の方へ視線を移し、軽蔑の眼差しで見つめて来た。
この反応も当然だ。
皆は今、普段の仕事に加えて苦情や問い合わせの電話対応に追われているのだから。
居場所を無くした私を見兼ねた先輩マネージャーが近づいて来て、
「南田、さっき社長から言伝を頼まれた。お前は暫く自宅待機。裏に車回すから、今日はもう帰るようにとの事だ」
今日はもう帰るようにとの事と、今後暫くは自宅待機をするよう告げられた。
あの日から自宅待機になった私はネットやテレビで連日流れる雪蛍くんのニュースを眺めては、溜め息を漏らす日々。
私の読み通り、世間は雪蛍くんに良い印象を持たず、彼の人気は一気に下がっていく。
ネットでは叩かれ、案の定ハリウッドの話も無くなりかけている状態だと聞いた。
全ては私たちの軽率な行動が招いた結果だけど、一番気を付けなければいけなかったのは私。
雪蛍くんに謝っても謝りきれないくらいに後悔していた。
そんな彼とはあの日以降会ってもいなければ連絡も取っていない。
流石にこんな状況下でそんな事は出来ないと分かっているから納得はしてるけど、本当は会いたいし、声だって聞きたい。
自分から別れを切り出したくせに、そんな風に思っている時点で何の覚悟も出来ていないんだと思い知る。
喧嘩した訳じゃないから、余計に虚しい。
それから更に数日が過ぎた、ある日の事。
社長から連絡があって、今日の夕方雪蛍くんが私たちの件についての会見を開くと聞いた。
内容としては、私たちの交際は事実だけど、今はもう別れた事、私はマネージャー業を引退した事にするという話だった。
雪蛍くんもそれで納得していると聞いた。
きっと周りから説得されたに違いない。
悲しいけど、それでいい。
私は夕方の会見をテレビで観る事しか出来ないので、その時が来るのを自宅で待っていた。
そして、会見が始まるであろう数十分前に、雪蛍くんからメッセージが届く。
別れを告げられるのかと思って開いてみると、そこには一言、【愛してる】の文字が記されていた。
彼の意図がイマイチ分からない私はそのメッセージに返信する事が出来ないまま、テレビで速報が流れ、雪蛍くんの会見映像に切り替わった。
彼は社長と共に沢山の報道陣の前に姿を見せた。
そして、用意された席に着いた彼はこう切り出した。
「本日はお忙しい中、このような場を設けていただきありがとうございます。連日のように報道されている私とマネージャーである彼女についてのお話をさせていただきたく、本日は皆様に集まって貰いました」と。
社長の表情から、そこまでは恐らく用意された台本通りの言葉なのだと思う。
だけど、次の言葉は違うものだったのだろう。
雪蛍くんが言葉を続けた瞬間、社長の顔色が一気に変わっていったのだ。