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「えっ、四谷先輩ってプロレスラーなんですか!?」
「うん。と言ってもテレビとかに出るような大きな試合はまだだけどね」
「ケガとか大丈夫なんですか?」
「するよ。去年だったかな、腕がぽっきり折れてさ」
「あー、あの時は凄かったよね。ギブス付けて学校に来て、卒業するまでは試合は控えた方が良いんじゃないかって教師と散々揉めてたからね」
「全然先生が納得してくれないから、大丈夫なところ見せようと、折れた腕で先生持ち上げてぶん投げたら停学食らったんだよね」
「当たり前だっつうの」
クソゲー研究部の部室で、机を囲み、談笑する栄太郎、大倉さん、四谷、そして浜口。
今は四谷が学生プロレスラーをやっている話題で会話の花を咲かせている。
四谷がガタイの良い理由を知り、納得の栄太郎だが、そこでもう一つの疑問が浮かぶ。
プロレスラーをやっているような人が、なぜこの部に?
そんな疑問も、会話の中で解けていく。
高校生でプロレスラーをやっている。そんな話を聞けば面白半分で絡む人は多い。運動部なら尚更。
そんな相手を全て返り討ちにして来たせいで、彼女は運動部から出禁を食らったと。
絡んだ相手が悪い事は分かるし、それは少々四谷に対し理不尽だと思う栄太郎。
だが、同時に絡む人たちの気持ちも分からなくはない。栄太郎の男心が騒ぐのだ、強い人間に絡んでみたいと。
もし元の世界で、学友にプロレスラーが居たなら自分もふざけて絡んだりしていた可能性は捨てきれない。
男の子というのは、強いものが好きだから。
先ほどの大倉さんにかけられてたコブラツイストも、相手がプロレスラーと知ったら、ちょっとだけ自分も掛けられてみたいと思う栄太郎。
残念ながらここは貞操が逆転した世界。
四谷に「コブラツイスト」をかけて欲しいとお願いしても、四谷は困るだけだろう。女が男に手を上げるなんて出来ないと言って。
そう思うと、少しだけ大倉さんが羨ましいとまで感じてしまう。
(せめて、どんな感じだったか感想だけでも聞いてみたいな)
そう考えて、とある事に気づく。
先ほどから大倉さんがとても静かな事に。
四谷からかけられたコブラツイストのダメージは、もう回復したはず。
それなのに、大人しくしている大倉さん。
不思議に思い、隣に座っている大倉さんを見る栄太郎。
「あっ……へへっ」
栄太郎と目が合い、少しだけ照れたように「ヘヘッ」と笑う大倉さん。
そして目をキョロキョロと動かし、挙動不審な反応を見せる。
「あっ、栄太郎君。どうしたの?」
「いや、なんでもない」
会話に混ざらず、相槌を打っては「ヘヘッ」と笑う大倉さん。
そんな大倉さんの反応に、栄太郎はある事に気づく。
今の大倉さんは1対1なら喋れるけど、3人以上のグループになった瞬間に全く喋れなくなる陰キャ特有の現象だと。
陰キャだから分かる、今だって自分は四谷や浜口と話せているが、それは向こうが話を振ってくれているから。
多分四谷と浜口が二人の世界に入ってしまったら、自分は会話に混ざれず、大倉さんのようになってしまうかもしれない。
大倉さんが栄太郎を部に誘ったのは、四谷と浜口の会話に混ざれない時があるから、そこに栄太郎を加えれば1対1の2ペアに分かれることが出来る。
そうすれば、会話の相手に困らない。だから大倉さんは自分と西原の会話にあんな無理やりな割り込みをしたのだろう。
だが、蓋を開けてみれば自分は四谷と浜口と喋ってばかりで、その一歩後ろで相槌を打つだけの大倉さん。
せっかく部に誘ってくれたというのに、誘ってくれた大倉さんがこれでは居たたまれない栄太郎。
「そういえば、クソゲー研究部って部活名よく通ったよね。他の名前とか無かったのかな」
ねっ、と言って大倉さんに話題を振る栄太郎。
「あっ、ほら。うちの学校って似たような名前の部活って確か校則でNGだったはずだから」
「そうそう。昔部室や部費を多く取るために第2⚪︎⚪︎部とか乱立した時期があったらしくて、それ以来同じような名前の部は禁止されてるんだよね」
「漫画研究部もゲーム研究部も文芸部も既にあるから、クソゲー研究部は部活の名前決める時に色々大変だったって先輩から聞いたなぁ」
「へぇ、大倉さんは知ってた?」
「あっ、うん。確か当時の生徒会メンバーにクソゲーをやらせて『私たちはこれに青春をかけているんだ!』って言ったらしいよ」
「それで生徒会のメンバーも『これは、ゲームと認め難いです。これがクソゲーか……』とカルチャーショックを受けてクソゲー研究部が認可されたってわけ」
「へ、へぇ〜」
思った以上にくだらない理由に苦笑いを浮かべる栄太郎。
栄太郎の苦笑いに、大倉さんも苦笑いを浮かべ「冷静に考えると意味わからないよね」と返す。
まだまだピッチは上がらないものの、段々と会話に混ざれるようになってきた大倉さんを見て安心する栄太郎。
(大倉さん、これで人見知りが少し和らいだかな)
残念だが、それは栄太郎の勘違いである。
別に大倉さんは人見知りなどしていないし、普段の部活なら四谷と浜口と混ぜた3人でも普通に話すことは出来ている。
ではなぜ大倉さんが、今日に限って大人しいのか?
(島田君に頭撫でられた、もう一回撫でてほしい!)
先ほど栄太郎に頭を撫でられた余韻に、未だ浸っているからである。
軽いおふざけのノリで言っただけだと言うのに、本当に頭を撫でてくれた栄太郎。
栄太郎の頭を撫でる妄想なら何度もした事がある大倉さんだが、まさかその逆の展開で受けた衝撃は計り知れない。
もう一度頭を撫でて欲しい、だが、頭を撫でて欲しいと言うのは本来男側。
だから言い出せず、それでも諦めきれずタイミングがないかと見計らっていたのだ。
そして、そのせいで会話にうまく入り込めず、ついつい相槌を打つだけになっていた大倉さん。
栄太郎が何度も自分に話題を振る事で、会話に入ってなかったことに大倉さん自身も気づく。
(島田君、もしかして私が会話に混ざれていないと思ってわざわざ話題振ってくれるなんて。私の事好きすぎない!?)
見事な勘違いである。
栄太郎をみて、思わずニヤける大倉さん。
そんな大倉さんを見て、機嫌が良くなったんだなと笑顔で返す栄太郎。
(さっきから大倉が島田君をずっと見ててキモッとか思ったけど)
(今度は2人でニコニコしながら見つめ合ってるんだけど)
((もしかしてこの2人、付き合ってるの!?))
その態度が、周りを巻き込み勘違いを加速させていく。
「先輩?」
「ん、あぁ。ワイトもそう思います」
「せやな」
栄太郎と大倉さんが付き合っているのか、気になって仕方がない四谷と浜口。
今度は彼女たちが相槌を打つ置物に変わっていた。
多少ギクシャクする会話もあったが、女の子だけのグループに自分が入ったのだから、まだ遠慮されているんだろうなと勝手に納得する栄太郎。
クソゲーをして盛り上がったり、バランスのおかしいボードゲームでゲラゲラと笑いながら、楽しい時間はあっという間に過ぎ、気がつけば下校を知らせるチャイムが鳴り響く。
「栄太郎、いる?」
軽いノックの後、クソゲー研究部のドアが開かれる。
顔を出した西原に対し「誰?」と言いたげな四谷と浜口。
「もう帰るのか、あっ、彼女は西原京って言って、幼馴染です。最近は何かと物騒だから家まで送り届けてくれてるんですよ」
「へぇ、そうなんだ。大倉、戸締りはうちらがやっとくから、一緒に帰るならお前も一緒に行っていいぞ」
「あっ、はい。それじゃあお言葉に甘えて、よろしくお願いします」
四谷と西浜にお礼を言ってもう一度頭を下げ、部室を後にする栄太郎と大倉さん。
そして、3人が居なくなり、部屋の片付けを終えた四谷がポツリとつぶやく。
「あの2人、付き合ってるのかな」
「頭、撫でてたよね」
四谷が無言で立ち上がると、それに続き浜口も立ち上がる。
無言のまま、微笑み合い、そして大きく頷く。
「羨ましい!!! 大倉が羨ましい!!!」
「私もあんな風に頭を撫でてもらいたい!!!」
「オタクちゃんに優しいギャル男はいたろう? 年下のお兄ちゃんもそうさ!! 必ず存在する!!」
「何がお兄ちゃんだ。島田君は私のパパになってくれるかもしれない男の子だ!! 島田パパァァァ!!」
帰り道、大倉さんは自分がもう2人居るようななものだと言っていたが、全然普通の先輩だったなと安堵する栄太郎。
残念だが、四谷も浜口も大倉さんに近い存在であること、彼はまだ気づいていない。