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私は屋敷に帰ると両親に柚瑠木さんとのお見合いが上手くいったことを伝えました。父も母もそれは喜んで「よくやった、月菜」と褒めていただきました。
「ありがとうございます。お父様、お母様」
私は両親に契約結婚に話をしようか迷いましたが、止めておくことにしました。
きっとこの婚約が契約の上で成り立ったものだとしても、父と母は私に『それも一つの夫婦の形だよ』と、柚瑠木さんとの結婚を進めるでしょうから。
バックの中に入れられたままの、柚留木さんに頂いた契約内容が書かれた数枚の用紙。後でしっかりと確認しなくてはいけません。
父と母の嬉しそうな顔を見て、私も安心して自分の部屋へと戻る事にしました。席を立ち、両親に頭を下げる。
「お父様、お母様。今度こそ上手く相手に気に入られるように私、頑張りますから……」
「ええ、そうして頂戴。相手は二階堂財閥の御曹司、こんないい話は月菜さんには二度と来ないでしょうから」
母の言葉に胸がズキンと痛みます。
そうですね。こんな私にはもったいないお話だとちゃんと分かっています。私にこれ以上失敗することは許されない。
柚瑠木さんがどんな人だろうと、私はあの人と契約結婚をして妻として頑張るしかありません。
私は部屋に入ると机に向かい、バックから柚瑠木さんから渡された契約書を開きました。これはもしかして柚瑠木さんがご自分で書かれたのでしょうか?
綺麗な文字で丁寧に書かれた契約書、柚瑠木さんが私と真剣に向き合ってくれてこの話を提案してくれたということが分かりました。
「きっと見た目通り、真面目な方なのでしょうね」
契約書に目を通す。丁寧に書かれたうちの幾つかは普通の夫婦でも当たり前の事でしたが、そうでは無いものもいくつかありました。
例えば……
6.結婚してもお互い相手に特別な感情を持たない努力をする
7.相手に特別な感情をもっても、伝えてはならない
8.夫婦生活は必要に応じて行うこととする
9.決して離婚や別居はしない事
結婚するのに相手を好きにはなってはいけないとはどういうことなのでしょうか? ほとんどの方は恋をし愛し合い夫婦になるものだと私は思っていたのです。
契約結婚とはいえ、私は柚瑠木さんのことを愛する努力をしようと思っていたのですが……
それに夫婦生活も必要に応じてという事は、どういう事でしょうか?
柚瑠木さんがそれを決められるというのなら、私は従うしかありませんが詳しいことは書いてありませんでした。
私はもう一度契約書を読み直すと、そっと机の引き出しへと仕舞いました。
私は今日まで一度も開くこともしなかった柚瑠木さんのお見合い写真を見ました。
昼間に見たのと変わらない、綺麗な顔に氷のように冷たい瞳。写真の柚瑠木さんも何を考えているのか全く分かりません。
「それでも、私は頑張らなければ……」
私は小さい頃から『会社のため、家のために月菜はお嫁に行くんだよ』と言い聞かせられて育ちました。自分でもそのつもりで、覚悟をしていたはずだったのです。
……実は私には幼いころから決められていた婚約者がいました。
その方は私よりも随分年上の熊のように大きな男性で、初めて会った時私は恐怖で大声で泣いてしまったのです。
その方と結婚できる年になっても、私は何かと理由を付けて先延ばしにしてしまいした。
そんな事が続き……とうとう三か月前、婚約者の男性は別の女性と恋に落ち恋愛結婚を……
結果として、父と母をひどく落ち込ませてしまいました。私は二度とこんな風に父と母を失望させてはならないと思ったのです。
そんな時に二階堂財閥の御曹司、二階堂 柚瑠木さんとのお見合い話を受けることになりました。
会社にとっても十条家にとってもとても良い話なのです。だから――柚瑠木さんがどんな人だったとしても、私は頑張らなくてはいけないのです。