テラーノベル
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鉱山で挨拶を終えたあと、私たちはアドルフさんの武器屋に向かった。
……今日も今日とて、お客はおらず。
経営、大丈夫なのかなぁ……。
「こんにちはー」
「いらっしゃい。
おや、アイナさんか。今日はどうしたんだ?」
「明日の朝にミラエルツを発つので、最後のご挨拶にきました」
「おお、そうか。わざわざありがとよ。
……って、今日は何だか一人増えてるな?」
「ああ、そうですね。えーっと……」
「どうも初めまして。ジェラードと言います」
「あん? 何でナンパ師のジェラードがアイナさんと?」
……ジェラードのことは知ってるんだ?
そういえばジェラードのナンパは酒場で有名だったし、アドルフさんは普通に酒場に行ってそうだし。
「アイナちゃんは錬金術師で、僕の動かなかった右腕を治してくれたんです。
その恩返しに、しばらく一緒に旅をさせてもらおうと仲間にしてもらったんですよ」
「ほう……。お前さんの噂も聞いてはいたが、なるほどな……。
コンラッドのところでも何かやったって話だし、アイナさんは凄い御人だったんだなぁ」
「私の知人も2人、治らないと言われていた脚を治してもらったんですよ」
しれっとルークも話に乗っかってくる。
「ガルーナ村では疫病の人を、200人以上も治しましたしね!」
負けじとエミリアさんも乗っかってくる。
……いやいや。
でも何だか、今までのものが積み重なって凄いことになってるぞ。
「はぁ、それはすげぇな。
そういえば俺も、最近ちょっと腰が痛むんだよ。
何か良い薬はないかな……なんてな!」
ええ? この流れでそういう?
えい、かんてー。
──────────────────
【状態異常】
腰痛(小)
──────────────────
そんな急に言われても、作れるわけ……あるけども!
バチッ
「はい、どうぞ。お薬です」
私がアドルフさんにできたてほやほやの瓶を差し出すと、さすがにこれは笑って流された。
「ははは、アイナさん。さすがに冗談がきついぜ!」
「まぁまぁ。無料ですから、どうぞどうぞ」
「それじゃありがたく頂くよっと。
……ごくり」
「いつもの展開ですね」
「まったくですねー」
「僕もこの前、経験したけどね……」
はい、かんてー。
──────────────────
【状態異常】
なし
──────────────────
「いかがですか? 腰痛はもう治ったみたいですけど」
「はっはっはっ、アイナさんも冗談が好きだな!
……あれ!? 本当に傷みが取れたぞ!?」
「とまぁ、こんな感じでクレントスからやって参りました」
ルークとエミリアさんとジェラードは、うんうんと頷いている。
さすがに仲間内からいちいち驚かれるのは面倒だから、これくらいがちょうど良いよね。
私もこのパターンは、薬を作るのを含めて慣れてきちゃってるし。
「はあぁ……、何ともすごいな……。それじゃコンラッドの噂も本当なんだろうな……。
いや、俺もこんな御人に剣を作ってやれて、運が良かったなぁ……」
「剣? アイナちゃん、剣を作ったの?」
「はい。見ますか?」
そう言ってから、私はアイテムボックスから『なんちゃって神器』の剣を取り出した。
出してから思い出したんだけど、この剣は重くて――
「むおぉ、重い――
……っと。ルーク、ありがと」
「アイナ様、出すときは私がお持ちしますので」
「……むーん。
さりげに助ける当たり、ルーク君はやっぱりアイナちゃんの騎士サマだよねぇ」
「俺は今回、助けてやれなかったな。
うん、位置が悪かった。位置が悪かったんだ」
アドルフさんはさりげに対抗意識を燃やしている。何でだろう。
「というわけでジェラードさん。
この剣をアドルフさんに作ってもらいました」
ルークは剣を鞘から抜いて、ジェラードに見せた。
「なるほど……。
うん……素晴らしいね。とても繊細で美しい」
「ははは、ありがとよ。
ただ魔法剣が専門なんでな、普通の剣は作ってないぜ」
「おっと、ここは魔法剣のお店でしたか。小さいナイフみたいのはありますか?」
「うん? お前さんは魔法剣使いなのか?」
「専門ではないですが、多少は使えます。
僕はアイテムボックス持ちだし、何かのときに1本欲しいなって」
「おう、それじゃ適当に――
……あ、いや。折角だし、あれを譲っちまうか!」
アドルフさんは何かを思い付いたような顔をしたあと、お店の奥から細長いケースを持ってきた。
「俺の腰痛も治してもらったしさ、お礼にこのナイフのセットをやるよ。
暇なときに作った自信作なんだぜ」
……アドルフさん、暇を持て余しすぎじゃないですかね……。
開けられたケースの中を見てみると、ナイフが5本入っていた。
「このナイフは何ですか?」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれた!
これぞ『五属性ナイフセット』だ!」
そのネーミング、安直にして明快ッ!!
「これは装飾のところに、属性石を入れてあるんだ。
対応する属性の魔法を使うと、属性石が良い感じに制御してくれて……刃にその属性を宿すことが出来るんだ」
「へぇ……。
それってすごいんですか?」
「アイナちゃん、魔法剣というのはそもそも、それ専用の魔法が必要なんだ。
でもこのナイフはそれ以外の魔法でも刃に属性を宿せる……ということみたい」
「おう、それそれ! つまりはそういうことさ」
「ふむー。
例えばエミリアさんのシルバー・ブレッドを使うと、光属性が宿る……みたいな?」
「そういうことになるね。
エミリアちゃん、やってみない?」
「え? 分かりました、できるかなぁ……。
えっと、それじゃ光属性は……これですかね」
「おう、それだ。
シルバー・ブレッドは射撃系の聖魔法だから……撃ち出すイメージをそのままナイフに渡せば良いぞ」
「ふむむ……。
えーっと……シルバー・ブレッド!」
エミリアさんが魔法を使うと、一呼吸置いてから刃に光が宿った。
微かに白い光を放っていて、何とも幻想的だ。
「わー、すごいですね!
アイナさん、わたしは光属性が欲しいです!」
今までに体験したことが無い感触に興奮しながら、エミリアさんははしゃいでいた。
「……えっと、アドルフさん。本当に頂いても良いんですか?」
「おう、構わないぞ。ただし条件がある!」
何と、ここに来て条件とは。
あれ? さっきはくれるって言ってなかったっけ? あれぇ?
「は、はい。条件ですね、何でしょう?」
「火属性は俺にくれ!」
「……へ?」
「いや、ほら。こういうセットは仲間内で分け合うものだろ?
俺もアイナさんの功績に感動しちまってさ。俺は旅には出られないけど、ついでに仲間にしてくれよ。な?」
「え、ええ。分かりました。
それじゃ私のパーティの5番目のメンバーということで……」
……突然だけど、思いがけない仲間ができたぞ……?
でも一緒に来れないなら、すぐにお別れになるんだけど……本当に仲間になるの?
「ははは、ありがてぇ!
アイナさんの頼みなら優先してこなすからさ、また何か仕事ができたら教えてくれよ!」
「はい、分かりました!」
実力は『なんちゃって神器』の剣で折り紙付きだから、そもそもそのつもりだったけどね。
もしも第二、第三の神器を作ることになったら、アドルフさんに相談することにしよう。
「……ねぇ、アイナちゃん。
僕は風属性が良いな。扱えるのがそれだから」
「分かりました。それじゃジェラードさんは風属性で。
とすると、残るのは水属性と土属性かな」
「それでは土属性は私が頂きましょう。
アイナ様は水属性がお似合いです」
「あー、確かに。アイナさんは癒し系ですからね」
「……ポーション的な意味で、そうですかね。
ルークは土属性でも良いの?」
「私はそもそも魔法は使えないので、何でも大丈夫です」
……おおう、何てこったい。
「っていうか、私だって魔法は使えないからなぁ……。
でも折角だし、覚えることがあったら水属性の魔法を覚えようかな?」
「それは良いですね。アイナさんのイメージにぴったりです!」
「イメージから入るのもどうかと思いますけどね……。
そういえばアドルフさん、闇属性は作っていないんですか?」
「ああ、闇属性はなぁ……属性石が高いんだよ……」
「そうなんですか?
そういえば『闇の石』は先日買いましたけど、確かに高かったですね……」
「……そんなものまで持っているとは」
「アドルフさん、アイナさんはそういう方なんですよ」
「ははぁ、おみそれいたしました」
……そんなこんなで思いがけず5番目の仲間ができて、挨拶まわりは終了した。
しかしこんなタイミングで仲間になるだなんて……。
これがゲームだったら、見逃す可能性が高すぎだよ。
まさに隠れキャラ……みたいな感じ、っていうか。
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