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こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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モブ看護師目線の青桃医者パロです
診察室からがさごそと何かを探す音がする。
引き出しを片っ端から開ける音も。
それに気づいて、私は廊下から慌てて中に入った。
「小林さん、ガーゼなくなったんだけどどこにある?」
鉗子を片手に、外科のナオ先生が引き出しを探りながら声をかけてくる。
「すぐお持ちします!」とだけ言って、私は再び廊下に飛び出した。
備品の保管棚から慌ててガーゼの箱を取って抱える。
そうして引き返そうとした瞬間、隣の診察室からは別の人影が姿を見せた。
ピンク色の髪を揺らしながら、きょろきょろと廊下を見渡している。
「ないこ先生、何かお探しですか!?」
「あー小林さん。ファイバースコープないんだけど…」
「すみません洗浄中です!あと5分でお持ちします!」
「わかった。ありがとう」
頷いて診察室に戻っていったないこ先生に背を向けて、私はナオ先生の部屋へと戻る。
慌ててガーゼの箱を開けて手渡すと、「ありがとう」とそれを受け取った先生は目の前の患者さんに向き直りすぐに処置を始めた。
…ガーゼの補充が間に合ってないなんて、初歩的ミスだ。
しかもファイバースコープの洗浄も追いつかない!
洗浄は機械がやるものだから自分たち看護師のせいではないにしても、今日は何もかもが後手後手に回ってしまっている。
いや、今日だけじゃない。ナオ先生とないこ先生が隣り合う部屋で診察をする外来日は割とこうだ。
全ての手際がよすぎるせいで、補助に回っているはずの私たちの方が先生のスピードに追い付けない。
看護師は1つの診察室に1人というわけではないから、あっちへ行ったりこっちへ行ったり…その間に電話なんかがかかってきたら割ともう逼迫状態だ。
備品の補充もこうしてままならないこともある。
こんなに混み合うというのに、外来時間内にはきちりと終わるんだから本当にすごい先生たちだと思う。
しかも当然診察内容に手を抜くことはない。
最初から最後までテンションが変わることもまずない。どんなに疲れを感じても、それを患者さんに対して態度に出すことはない。
私が見る限り、ナオ先生は14時くらいになるといつも診察の合間に栄養補助食品を口内に放り込む。
後は水分補給とお手洗いに数回立つくらいで、朝から夕方まで休憩なんて呼べるものはほとんどない。
ないこ先生に至っては昼食もその代わりになるものも食べているのを見たことがない気がする。
今日も休憩らしい時間がないまま、夕方まで駆け抜けるように診察を続けていた。
…やっと残り一人。
最後の患者さんを診察室に呼び込む間、私はそれまでの疲れが出たのか大きなため息をついてしまった。
それに気づいたのか、ないこ先生が肩越しに「ふは」と笑ったのが聞こえる。
…う、すみません。疲れてるのは先生の方なのに。
最後の患者さんが、ノックをして部屋に入ってくる。
……あ…この人か…と、顔を見た瞬間に思わず今日の自分の運の悪さを呪った。
最後の一人…早ければ数分で済む診察だと思っていたけれど、きっとこの患者さんは長い。
割と最近うちの病院にかかり始めた人で、今後の治療方針についてないこ先生に随分と食い下がっていた人だ。
患者さんの気持ちも痛いほど分かる。
いきなり病気だと現実を突きつけられ、提示された治療方針を「はいそうですか」とあっさり受け入れられる人ばかりではない。
それが外科で、体の一部を摘出したり切断したりしなければいけないような大手術ともなると尚更だ。
この患者さんもそうだった。
自分の現実を受け入れるのに精いっぱいで、何とか最前の方法を探そうと必死すぎる余り、ないこ先生の提案にことごとく否定的だった。
彼女のように頭がよくて真面目な人は、自分で「インターネット」で調べてしまう。
嘘か真か分からないような情報を鵜呑みにして医師に食い下がる患者は、彼女だけに限らず決して珍しいことではない。
前回の診察時、ないこ先生が勧めた手術に納得がいかず「もう少し考えたい」と言って持ち帰った人だった。
…彼女は考えを改めたのだろうか。
そう思ったけれど、私の願いも空しく散った。
「やっぱり、他に方法があると思うんです。インターネットにはこういう方法があるって書いてありました」
そう言って、彼女は印刷してきた紙をないこ先生に見せる。
それを受け取って一瞥したないこ先生は、紙を机に置いて彼女の方へ少し身を乗り出した。
膝を突き合わせるようにして正面から見据える。
「深見さん、同じ病名でもその人によって最善の治療っていうのは変わるんですよ」
「でも…!このサイトの名医の先生は、この病気には手術よりも薬で抑える方がいいって仰ってて…!」
…この人、ないこ先生の話聞いてる?
そう思って苛立ちかけたけれど、それはダメだと自分に言い聞かせる。相手は患者さんだ。
「深見さんの場合、色々と検査をした結果薬が効きにくいことが分かったんです。前回もお伝えした通り、手術が最善だと僕は思います」
「でも…!手術したらもう喋れなくなるんですよね!?」
それは確かに受け入れがたい事実に違いない。
泣きそうになりながら、まだ若い患者さんは潤んだ目でないこ先生を見据え返した。
後ろでは付き添いの彼女の母親も涙ぐみ、縋るような目で先生を見ている。
彼女の訴えに、ないこ先生はもう一度人体図を絵に描きながら手術内容の説明を始めた。
病気の場所、大きさ、様々な要因でこの手術が一番最善の方法であること。
声を失ってしまうのが受け入れられない気持ちは当然で、最終的に決めるのは彼女自身であること。
冷静にとても分かりやすく説明してくれたと思ったけれど、彼女の目からはついに大粒の涙が零れ落ちた。
「…先生は…っ、自分の家族にも同じことが言えますか!?自分の恋人にもこんな手術を…非情な現実を、そんなに淡々と突きつけられるんですか!?」
彼女の言葉を耳にした瞬間、私は思わず息を飲んだ。
同じ診察室にいたアシスタントの子も、PCに向き合ったまま患者さんにはバレないように目を瞠ったのが分かった。
…診察室に入ったことのある関係者なら、たまにこんなセリフを耳にする。
こういう言葉を患者さんが医師に叩きつけるのは、決して珍しいことではない。
「大事な人になら、もっと…もっといい案がないかって模索したりするんじゃないですか!!?もっと抗おうとするんじゃないですか!?」
彼女が声を荒げた後、ないこ先生は一呼吸置くようにあえて口を噤んだ。
彼女が肩を上下させて息を繰り返す間、黙したまま待つ。
それでも決して目は逸らさなかった。
その射るような視線を感じた彼女が我に返って居ずまいを正してから、先生はようやく静かに再び口を開いた。
「『家族に同じことが言えるか』? …僕の一番嫌いな言葉です」
深見さんの言葉を復唱してから、冷静な口調でそう告げる。
その瞬間、彼女の大きな目が更に見開かれた。
「僕は患者さんを家族や恋人より下だなんて思ってない。患者さんも同じくらい大事で、常に最善の治療方針を全力で模索して提示しています。それは相手が誰だろうと変わらない」
ないこ先生がそう続けた瞬間、深見さんがハッと息を飲んだのが分かった。
聡明な彼女らしく、その言葉にすぐに思い直しようだ。
「…失礼なことを申し上げました」と、俯き加減になりながら呟く。
それを見やってから、ないこ先生は今度は穏やかに微笑を浮かべた。
「声を失った人がどうやって生活しているか、動画で見てみましょうか。意志の疎通を図る手段は1つじゃないんですよ。一緒に考えましょう」
続いた先生の言葉に、深見さんは今度は別の意味でまた泣きそうになった。
その潤んだ目が肯定の返事だと受け取ったらしく、小さく頷き返してからないこ先生は私の方を振り返る。
「小林さん、お願いします」
「はい。すぐにご用意しますね」
タブレットを引っ張り出し、該当の動画を用意する。
再生ボタンを押すと、深見さんと母親は身を乗り出すようにして真剣な面持ちで画面を見据えていた。
瞬きすら忘れたかのように集中して数分の動画を凝視する。
見終えた時に彼女の中にどんな感情が芽生えたのかは分からない。
だけど再びないこ先生が話し始めた時には、頭ごなしに否定するような姿勢でなくなったのは感じ取れた。
きっと彼女の心のどこかで何かが揺り動いたのだろう。
もちろん今日すぐに決断をすることはできないに決まっている。
最終的な判断は再び持ち帰ることになって、彼女は今日のところは帰っていった。
ここまで数十分。長い診察を終えて、今日の外来予定が全て消化された。
「おつかれさまでした、先生」
声をかけて、使った器具を片付ける。
「うん、おつかれさま」と答えたないこ先生は、背もたれに仰け反るように身を預けた。
ぎぃと椅子の音を立てながら、先生はカルテで別患者の情報を開き始める。
…何か気になることがあるのか、まだ仕事を続けるらしい。
ほぼ休憩なく最初から最後まで同テンションで駆け抜けたとは思えない。疲れたりしないのだろうか。
そんなことを考えながら片づけを進めていた時、廊下から診察室をひょいと覗き込む一つの影に気づいた。
向こうも私の視線に気づき、ぺこりと頭を下げる。
それからそのまま中へと入ってきた。
「ないこ先生、外来終わりました?今ちょっといいですか?」
青い髪を揺らしながらないこ先生の背中にそう声をかけたのは、小児科のいふ先生だ。
白衣の前のボタンは全て外し、ポケットには両手を突っ込んでいる。
長身を猫背にかがめながら診察室の奥へと進んだ。
「…何かありました?」
背を向けたまま、マウスをかちりと鳴らしながらないこ先生は応じる。
私からしたら何気ないそんな応答だったけれど、いふ先生はないこ先生の近くまで行って足を止めるとぱちぱちと瞬きを繰り返した。
それからふっと笑みを漏らすと、座ったままのないこ先生の頭に手を伸ばす。
「なに、めっちゃ機嫌悪いやん。どしたん」
いきなりとも言えるようないふ先生の言葉に、私は「え」と声を上げかけてしまった。
何とかこらえて目線だけを先生たちの方へ移す。
いふ先生の大きな手は、ないこ先生の頭に置かれた後、そのままがしがしと髪を掻き回すように乱雑に撫でた。
……機嫌が悪い……? そんな要素あった?今。
そう思った私だったけれど、そんなこちらの思考なんて知る由もなく、ないこ先生がさっきまでより少し低い声で呟いた。
「最後の最後に地雷ワード飛び出した」
「『地雷ワード』…? ふは、『病気なのが家族だとしても先生は同じこと言えるんですか!』ってやつ? ないこの嫌いな」
言葉通り、斜め後ろから盗み見たないこ先生の表情はさっきまでの対応が嘘のように曇っている。
機嫌が悪そうに眉を寄せ、唇を少しだけ歪めていた。
「患者さんの気持ちも分からんでもないけどなぁ、俺は」
「いや、分かるよ。だから患者さんに対してどうこう思ってるんじゃなくて、そのワードが嫌いなだけ」
「んーでもちゃんと冷静に対応したんやろ? えらいえらい」
更に頭をぐりぐりと撫でるいふ先生の手を、ないこ先生は勢いよく払いのける。
「子ども扱いすんな!」なんて喚くように言って更に唇を尖らせた。
それから、立ったままのいふ先生を睨むように見上げて言葉を継ぐ。
「そんでお前は何でそんなに機嫌いいんだよ」
尋ねられて、確かに機嫌が良さそうないふ先生は、青い瞳を嬉しそうに細めて「聞いてくれる?」と少し身を屈めるようにして乗り出した。
「みきちゃんの抗がん剤がさ、めっちゃ効果出てきてさ」
「みきちゃん……? あぁ、あの肺転移の5歳の子か」
小さく頷くないこ先生の後ろで、私も以前見たカルテの記憶を手繰り寄せる。
…そうだ、癌の再発でこの外科で手術を検討しようとしていた小さな子だ。
再発以外に肺転移が見つかって、小児科での抗がん剤治療が優先になったんだった。
「正直あの薬であそこまで効果出たことなかったから、嬉しくて」
「そうなんだ、良かった」
小さな患者さんを思い出しながらなのか、ないこ先生も少し表情を緩めて同調する。
そんな彼の頭に置いていて手を引き戻しながら、いふ先生はそのまま白衣の裾を翻した。
「それ言いたかっただけなんよな。まだ外来残っとるし、戻るわ」
「はぁ!? まじでそれだけのために来たのかよ」
後でいいだろ後で、と笑いだしたないこ先生は、もうさっきまでの不機嫌さなんてなくなったかのように楽しそうな表情だった。
手をひらひらと振って本当にそれだけで診察室を出て行くいふ先生の後ろ姿を、笑いながら見送っている。
「はー、あいつなんなんまじで」
「よっぽど嬉しかったんでしょうね、患者さんに治療が効いて」
アシスタントの子が同じように笑ってないこ先生の独り言に応じた。
いふ先生ってまだ若いのに落ち着いていて多少のことでは顔色を変えない…なんてイメージがあったから、あんなに無邪気に笑うのが意外だった。
3歳になる私の子どもが「聞いて聞いて」と目を輝かせて言ってくるときみたいでかわいらしい…なんて言ったら、成人男性に対して失礼だろうか。
「いくら嬉しいからって、外来診察残してるのに来るかね」
鼻で笑うように言ったないこ先生だけれど、言葉とは裏腹に声音は嬉しそうに…いや、どこか愛しさや慈しみみたいなものを含んで響いたように聞こえて、私は思わず口を開いていた。
感じたままのことを声に乗せてしまう。
「ないこ先生といふ先生って、仲良いんですね」
多分年齢も同じくらいだし、仲が良くてもおかしくはない。
おかしくはないけど、あんなからかうような口調で会話したり頭を撫でたりするような関係だとは知らなかった。
「…あー…幼馴染みなんだよね。ちっちゃい頃から一緒にいるから」
「へぇ! そうなんですね!」
子供の頃から知っていて、就職先も一緒だなんて本当にずっと近い存在なんだろうな。
もうそれは家族と同義くらいなのかもしれない。
そんなことを考えて、ふと思考が止まった。
私のそんな様子に気づいたのか、ないこ先生が「どうかした?」と座ったまま見上げてくる。
「私も幼馴染みいますけど、幼馴染みの機嫌の悪さなんてよっぽどじゃなきゃ気づけないなぁって思って」
少なくとも私からしたら、今日1日を通してないこ先生は「普通」だった。
テンションの浮き沈みも見られず、淡々と一日の外来をこなしていたはず。
それをあんな一声かけただけのタイミングで見破るなんて、自分なら幼馴染み相手でも気づけない気がする。
「私ならせいぜい旦那くらいですねぇ、機嫌の悪さに気づけるの」
何気なく口にした言葉だった。
だけどそう言った瞬間、今度はないこ先生がマウスを操作していた手をぴたりと止めた。
今日一日留まることなく動き続けていた先生が、初めて止まった瞬間かもしれない。
それに違和感を覚えたけれど、それと同時にないこ先生が再び手を動かし始めた。
違和感はそのほんの一瞬。
マウスをまた操作した先生は、今度はそのままカルテを閉じた。
それからすっと椅子から立ち上がる。
「仕事思い出したから、病棟戻るね。おつかれさま」
「あ、はい。お疲れさまです」
急に踵を返して、長い足で大股に診察室を出ていく。
…まるで逃げるようだと思ったのは気のせいだろうか。
首を傾げて「…私何か変なこと言ったかな?」とアシスタントの子を振り返ると、向こうも同じように「…さぁ?」と首を捻っていた。
コメント
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医者パロや別サイトにもあるジャズ作品等を何度も愛読する度に思うのですが、その豊富な医療や音楽知識はどこから得ているのでしょうか…?✨✨ 将来医療系を視野に入れつつあるので読む度に病院ってこんな感じなのかなぁと想像しながら読んでます🫶🏻︎💕︎︎ 「地雷ワード」の青桃さんの絡みが好きすぎます!小林さんの夫婦発言と桃さんの退散っぷりに悶えっぱなしでした…!癒しをありがとうございます·͜· ❤︎
毎回このお話を読む度に、小林さんに叫んで事実を伝えたくなるんですよね🙂↕️🙂↕️ 長野さんもいたら、横で悶えてるんだろうなとも考えつつ。 地雷ワードの一言で以心伝心できる青桃さんはほんとに好きです😭😭 なんでこんな作品を毎度毎度作れるんですか……✨✨ほんとに尊敬です💕💕次回もまた楽しみにしてます💖