テラーノベル
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エメラの宣言通りに、アディは毎晩のように魅了の魔法をエメラに使い続けている。
悪夢は見なくなったが、エメラはその日、過去の夢を見た。
それは、まだアディが見た目3歳くらいの頃の記憶。
この頃のエメラは、今と見た目はほとんど変わらない。
「エメラお姉ちゃん、ボク、このイスに座りたい!! ボクの席にしていい?」
「ごめんなさい。これは魔獣王ディア様、アディ様のパパの椅子ですのよ」
魔獣界の玉座の間にてアディは、その煌びやかな魔獣王の玉座に座りたそうにしている。
ディアに似てイケメン男児なアディを、エメラはすでに溺愛していた。
同じ希少種の魔獣『バードッグ』であり、さらにディアの遺伝子を受け継ぐアディに心を奪われるのは当然であり運命。
アディは、キラキラした金の瞳をいっぱいに開いてエメラを見上げる。
「王様しか座れないイスなの?」
「はい、その通りですわ」
「じゃあ、あっちのイスは?」
アディは玉座の横にある、もう1つの椅子を指差した。
「こちらは王妃アイリ様、アディ様のママの椅子ですわ」
「エメラお姉ちゃんはイスに座れないの?」
「そうですわね。この椅子は王様と王妃様専用ですのよ」
「ふーん。ならボク、大きくなったら王様になる!!」
ここまでなら、無邪気な幼児の何気ない発言だと笑って終わるところだ。だがエメラは、その言葉にどこか期待をしている自分の心に気付き始めた。
そして幼児でも聡明なアディは、王になって結婚しないと並んで玉座に座れないと理解した。
「ボク、大きくなったらマジュウ王になって、エメラお姉ちゃんをメトるね! そしたら一緒にイスに座れるよ!」
「まぁ、アディ様ったら……はい、楽しみですわ」
将来、アディと並んでこの椅子に座る姿を想像したエメラであった。
意識は遠い昔の夢から現在へと至る。
朝になってエメラは目を覚ました。
朝に同じベッドで起きる時には、二人の身体は毛布以外に何も纏っていないのが日常になっていた。
「おはようございます、アディ様」
先に目覚めたエメラは、隣であどけない顔をして眠り続けるアディの体をゆする。
本当は寝かせてあげたいが、そうはいかない。魔獣王としての仕事がある。
「うーん、エメ姉……」
ようやく瞼を開いたアディだが、いつもと様子が違う。寝惚けている顔ではない。
「アディ様? ご体調が悪いのですか?」
「うん、なんか疲れた……調子が良くない……」
笑顔のないアディの表情から仮病には見えない。
寝起きなのに疲れているとは……とも思うが、毎晩、魅了の魔法をかけられて激しく愛されるエメラの方こそが、身体的な疲労が取れないというものである。
それはさておき、アディは仮の魔獣王として慣れない仕事を続けている上に、魔法の習得にも励んでいる。日々の疲労が溜まっていてもおかしくはない。
「アディ様はもう少しお休み下さいませ。お仕事はわたくしにお任せ下さい」
素肌が冷えないようにと、エメラは起き上がってアディの肩まで毛布を被せる。
当然、今度はエメラの全身の肌が寒さに曝されるが気にしない。
「朝食はお部屋に運んで頂くように手配しておきますわね」
「うん、エメ姉、ありがと……」
「それまでに服は着ておいて下さいませね」
「うん……」
弱々しく素直に頷くアディが可愛らしくて、エメラは思わずアディの頬にキスをする。
こういう時だけは年下男子らしく甘えてくるアディが愛しい。
執務室に入ると、エメラは久しぶりに中央のデスクに座る。
最近はアディが座っている席なので、ここからの視界が懐かしく見える。
少し遅れて、出勤してきたクルスが執務室に入ってきた。
黒のスーツで仕事モードのクルスは、デスクに座るエメラを見た途端に、わざとらしく驚く。
「おはようございます。あれ? 今日はエメラ様が魔獣王なのですか?」
「おはようございます。アディ様は体調不良でお休み中ですわ。私たちだけでお仕事を始めましょう」
「そうなんですか。珍しい事もあるんですね」
クルスの顔は驚いているものの、なぜか言葉が淡々としていて感情がこもっていない。
そんなクルスが胸元のポケットから手帳を取り出して開く。今日のスケジュールを確認しているようだ。
「午前中は重要な仕事の予定もないですし、ご一緒に魔界に行きませんか?」
「え? どういう意味ですの?」
突然のクルスの提案にエメラは意表を突かれた。二人きりなのをいい事にデートに誘うつもりだろうか。
そんなエメラの疑いの目を表情で読み取ったのか、クルスは苦笑いをした。
「あ、いえ、お仕事ですよ。この前、魔王様にお会いできなかったので、改めてご挨拶に伺った方が良いかなと」
「え、あぁ……そういう事ですの。そうですわね」
確かに、いずれ魔王には直接会ってクルスを紹介しなければと思っていた。だがエメラはアディの事が気になる。
「ですが、わたくしはアディ様の許可なく外出する訳には……」
「大丈夫ですよ。この前だって僕と二人でなら外出してもいいってアディ様が言ってましたよね」
「それは、そうですけど……」
確かにクルスの言い分には説得力があるのだが、強引に外出をしたがっているように見えて余計に怪しい。
寝室で眠っているアディを起こしたくはないので、エメラはアディには伝えずに魔界へと行く事にした。
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