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城を出たエメラとクルスは魔獣に変身して飛び立つ。
今回は障害もなく順調に飛行して数十分後、無事に魔界の城へと辿り着いた。
二人は玉座の間にて魔王に謁見する事になった。魔王オランは、偉そうに玉座にふんぞり返って二人を迎えた。
数万年生きても見た目は20代。そんな魔王はクルスではなく、まずエメラを見て一言。
「おい、魔獣女」
「はい、悪魔男さん」
この二人は元々、仲が悪い。顔を合わせただけでも何かと言い合う。早くも恒例の子供のケンカが始まりそうな雰囲気である。
すると魔王は、今度はクルスの方をチラリと見て意味深に笑った。
「なぁにアディに似たガキを侍らせてんだよ」
魔王は顔はいいが口は悪い。いつものふざけたノリなのだが、それはエメラが一番触れられたくない領域。いくら魔王でアディの祖父でも、冗談では済まされない。
「……彼はアディ様の新しい側近、クルスさんですわ」
「へぇ、やっぱ、てめぇの好みか」
「お選びになったのはアディ様ですわ」
エメラはいつものケンカ腰の反論ではなく、本気の嫌悪感を滲ませている。
クルスがアディに似ている事をネタにされたくはない。
冷たい空気が二人の間を流れていく。
そんな険悪な二人の間に割って入るようにして、自主的にクルスが一歩前に出た。
「初めまして、魔王オラン様。アディ様の側近を務めております、クルスと申します」
今回も礼儀正しく完璧な自己紹介である。
魔王は悪魔の赤い瞳を細めて、クルスを見定めるかのように凝視する。
「てめぇも魔獣か」
「はい。バードッグです」
最強の魔獣と言われる希少種の魔獣・バードッグ。
だが魔王が気になるのは、そこではない。ふっと魔王から笑みが消える。
「どこかで見た顔だなぁ?」
クルスは動じないが、エメラは再び違和感を覚える。
以前にディアに紹介した時も『どこかで会ったような気がする』と言っていた。アディと容姿が似ているのは確かだが、他にも何かあるのだろうか。
今回もクルスは笑顔で否定する。
「いいえ。お初にお目にかかります」
魔王の前でも緊張せずに落ち着いた態度なのも気になる。魔王はその返答に納得していない様子だが、再びニヤリと笑った。
「まぁ、それでもいいぜ。オレ様には関係ねえ」
魔王は何かを知っているような素振りだが、クルスに関してそれ以上は突っ込んだ話はしない。そして、やはり話はエメラに振る。
「おい、魔獣女」
「はい、悪魔男さん」
先ほどと全く同じ前振りを繰り返す二人。決して名前では呼び合わないが、実は息ピッタリなのかもしれない。
魔王は玉座で足を組むと、今度はエメラを凝視する。魔王に見つめられるのは気味が悪いと、エメラはあからさまに嫌そうな顔をして返す。
「てめぇからアディの魔力を感じるぜ?」
「えっ……!?」
エメラは反射的に腹部を両手で押さえた。
アディの魔力を体に宿す事の意味は限られる。魅了の魔法は相手の体内に魔力を注ぐ事で発動するが、今は違う。
残る可能性はアディの魔力を持つ子を宿す事。つまり『懐妊』しかない。
エメラは目を閉じて、両手で触れた腹部から魔力を感じ取ろうと意識を集中する。
「す、すみません、少々お待ち下さいませ……!」
しかし体内からアディの魔力は少しも感じない。かと思うと、別の所からアディの魔力が感じられた。
それは、いつもエメラの胸元を飾っている『婚約ペンダント』の青い宝石であった。
その宝石にはアディの魔力が込められているので、魔力を感じるのは当然。
エメラは悔しそうに奥歯を噛んで壇上の魔王を睨みつけた。
「くっ……からかいましたわね……!!」
「ヒャハハハ!! なぁに勘違いしてんだよ、そんなに身に覚えがあるのかぁ?」
身に覚えなら充分にあるので否定できない。実際、いつ懐妊してもおかしくない状況なのだから。
「まぁ、本当にデキた日には祝ってやるぜ」
それは当然だ。アディの子という事は、魔王にとっては曽孫。この魔王はあと何万年生きるつもりなのだろうか。
これ以上、魔王を相手にしても腹が立つだけである。エメラは何も言い返さずに魔王に背中を向けた。
「クルスさん、帰りますわよ!!」
「え、はい」
魔王にクルスを紹介するという目的は果たしたので長居の必要はない。エメラは一刻も早く魔王から離れたい。
それに……急にアディの事が心配になってきた。
結局は魅了の効果ではなくても、エメラの心身はアディから離れられないのだ。
まともな挨拶もせずに玉座の間から出たエメラと、後に続くクルスであった。
そのまま早足で魔王の城を出ると、城門の前でふとエメラが立ち止まる。
そして振り返ると、後方で立ち止まったクルスと向かい合う。
「あの、クルスさん」
「はい? どうかしましたか?」
相変わらず邪気のない爽やかな笑顔だ。いや、邪気どころかクルスには感情すら感じられない。
「あなたは一体、何者なんですの?」
あまりにも突然で単刀直入。エメラらしく凛とした表情でシンプルな疑問を素直に口にする。
今まで何度もクルスに感じた違和感。おそらくクルスは真実を語らないと予想はできるが、何かのヒントくらいは得られるかもしれない。
クルスはやはり笑顔を崩さない。その笑顔の裏に何を隠しているのだろうか。
「え、なんですか突然? 僕はずっとエメラ様を追い続けている、ただの魔獣ですよ」
予想通りの答えにエメラは落胆する。感情は見えないが嘘を言っているようにも見えない。エメラを想っているのは真実なのだろう。