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『猫みたいな君』
「蘭ー」
レッスン終わり、誰もいなくなりかけたスタジオで、カイリュウが後ろから蘭の服の裾をちょこんと掴んだ。
「ん?」
振り返ると、カイリュウは目を合わせない。
「……なんでもない」
「なんでもないなら呼ばんやろ」
「……呼びたかっただけやし」
ぼそっと呟いた声に、蘭は思わず笑ってしまう。
「何笑ってんねん」
「いや、かわいいなって」
「は?」
カイリュウがぱっと顔を上げる。
「どこがやねん」
「全部」
「……ほんま、そういうこと平気で言うよな」
そう言いながらも、離れる気はない。
むしろ、さっきより少しだけ蘭の近くに寄っている。
蘭はそんなカイリュウを見て、また笑う。
「今日、疲れた?」
「……ちょっと」
「珍しいね」
「別に。ちょっと疲れただけ」
「そっか」
蘭がそれ以上聞かずにいると、カイリュウはしばらく黙っていた。
そして。
「……蘭」
「ん?」
「ちょっとだけ、ここおって」
「うん」
その返事を聞いた瞬間、カイリュウの表情がほんの少し緩んだ。
まるで安心した猫みたいだった。
⸻
「蘭、これ飲む?」
「俺の?」
「うん。買っといた」
「ありがとう」
「……別に。余ってただけやし」
「でも俺が好きなの知ってた?」
「……知らん」
「嘘やん」
「知らんって!」
蘭が笑う。
カイリュウはぷいっと横を向いた。
けれど、その耳は少し赤い。
メンバーの中では、誰よりも周りをよく見ている。
誰かが疲れていればさりげなく声をかけるし、飲み物がなくなっていればいつの間にか用意している。
蘭は、そんなカイリュウの優しさを知っていた。
「カイリュウ」
「なに?」
「俺にもなんかしてほしいことある?」
「……ある」
珍しく素直な返事。
「なに?」
カイリュウは少し迷ってから、蘭の肩に頭を乗せた。
「……これ」
「これ?」
「ちょっとだけ」
蘭は何も言わず、そのままにしてあげる。
するとカイリュウは満足そうに目を細めた。
「……落ち着く」
「猫みたい」
「誰が猫やねん」
「でも今めっちゃ猫」
「……うるさい」
そう言いながら、離れない。
むしろ少しだけ頭を預ける重さが増した。
⸻
「カイリュウってさ」
「ん?」
「俺にだけ甘えるよね」
「……」
「図星?」
「ちゃうし」
「じゃあ離れる?」
「……それは嫌」
即答だった。
蘭は吹き出す。
「かわいすぎるって」
「ほんまやめて」
「なんで?」
「……恥ずかしいから」
いつものツンとした態度からは想像できないほど、小さな声だった。
蘭は少しだけ姿勢を変えて、カイリュウが楽なようにする。
「じゃあ、俺だけ知っとく」
「……何を?」
「カイリュウが甘えんぼなこと」
「……蘭だけな」
「うん」
「他の人には言わんといて」
「言わない」
「絶対やで」
「絶対」
少しの沈黙。
「……蘭」
「ん?」
「好きやで」
あまりにも自然に言うから、蘭の方が一瞬固まった。
「……今それ言う?」
「言いたくなったから」
「ずるいなぁ」
「何が?」
「そんな顔で言われたら、もっと好きになる」
カイリュウは顔を上げた。
「……ほんま?」
「ほんま」
するとカイリュウは、照れ隠しみたいに蘭の腕を軽く掴む。
「……じゃあ、もうちょっとだけここおって」
「もちろん」
「あと……」
「ん?」
「帰るとき、一緒に帰ろ」
「うん」
「……手も繋ぎたい」
蘭は笑って、手を差し出した。
「はい」
カイリュウは一瞬だけ迷ってから、その手をぎゅっと握る。
「……あったか」
「カイリュウの手もね」
「……ふふ」
その笑顔を見て、蘭は思う。
やっぱりこいつは、猫みたいだ。
気まぐれで、素直じゃなくて。
でも、心を許した相手には驚くほど甘える。
そしてそんなカイリュウが、自分だけには懐いてくれていることが――
たまらなく嬉しかった。
帰り、扉が閉まる直前。
「……蘭」
「ん?」
カイリュウが、もう一度だけ蘭の袖を掴んだ。
「……まだ帰りたくない」
「さっきもうちょっとって言ってたやん」
「……うん」
少し俯いたカイリュウが、そっと蘭の胸元に額をつける。
「もう一個、お願いしてもいい?」
「なに?」
カイリュウは答えずに顔を上げる。
目が合う。
いつもの強気な表情とは違う、少しだけ不安そうな瞳。
「……キス、してほしい」
蘭が一瞬黙る。
「カイリュウから言うん、珍しいね」
「……嫌ならええよ」
離れようとした手を、蘭がそっと握った。
「嫌なわけないやん」
そう言って、蘭がゆっくり顔を近づける。
触れるだけの、短いキス。
離れた瞬間、カイリュウは目をぱちぱちさせた。
「……終わり?」
「え?」
「……もう一回」
蘭は思わず笑ってしまう。
「ほんま猫みたいやな」
「うるさい……」
そう言いながら、カイリュウは蘭の服をまた掴む。
今度は自分から少しだけ顔を寄せた。
もう一度、唇が触れる。
今度はさっきより少し長く。
離れたあと、カイリュウは照れたように視線を逸らした。
「……これで満足?」
「うん」
「ほんま?」
「うん。めっちゃかわいい」
「……もう知らん」
そう言ってそっぽを向くカイリュウの手は、まだ蘭の手を握ったままだった。
そのまま二人は、ゆっくり歩き出す。
帰り道も、カイリュウは手を離さなかった。
#ご本人には関係ありません
#MZ
コメント
1件
あ〜もう、めっちゃ甘いやつやった……! カイリュウのツンデレ具合と、蘭にだけ見せる甘えんぼな姿がギャップ萌えすぎる。「キスしてほしい」って自分から言うシーン、めっちゃドキドキしたわ。最後まで手を離さないとこも猫みたいでかわいかった。続きが気になる〜🐱