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青天の霹靂という言葉の意味が理解できなくなるくらいの衝撃を、昨夜体験した。
友人の宮本に、いきなり唇を奪われただけじゃなく―――。
『陽さんが好きです』
予想していなかった愛の告白を、唐突にされてしまった。これぞまさに、青天の霹靂といったところだろう。
生あくびを噛み殺しながらベッドから起き上がり、目覚まし代わりにしているスマホを手に取って、アラームをオフにする。あまりに突拍子もない出来事のせいで、一睡もできなかった。
画面をタップしてアプリを起動し、昨夜遅くに送られてきた、宮本からのメッセージにふたたび目を通す。
『今日はありがとうございました。タイヤの話や一緒に服を選ぶことができて、とても有意義な一日になりました。それと告白の返事はしなくていいです。おやすみなさい』
(告白の返事はしなくていいですって、なんだそりゃ? 俺に拒否権を行使させないようにした、雅輝の先手なのかよ!?)
「……このまま知らん顔して、友達でい続けさせる気なのかアイツ――」
それは現在進行形で、恭介との関係を維持している、橋本の状態と同じだった。ただひとつ違うのは……。
「雅輝の気持ちを、俺が知ってしまったってことだろうな」
(アイツを意識せずに、今までどおりに過ごせるほどの強靭なメンタルなんて、こっちは持ち合わせていないというのに)
「なんで告白なんていう、無駄なことをしやがったんだ。片想いだってらわかってるくせに」
ハイヤーのドライバーという接客業をしているからこそ、お客様が何を求めているのかを表情や仕草から読み取り、手厚いサービスを橋本は進んで施していた。
ほぼ外さないその読みに、お客様から賛辞をいただくことで、橋本の仕事に対する自信につながった。
(自分の読みは絶対に外れないという驕りが、今回の敗因になったんだろう――)
自身の恋愛に無理やり目をつぶって、仕事に没頭していたせいで、恋愛に関するアンテナが嫌ってくらいに機能していなかった。
宮本との出逢いからこれまでを振り返ってみて、違和感を覚えた場面があったことを、橋本は改めて思い出した。
出逢った当初のアイツの態度は、友人として接していたものだと記憶している。居酒屋で酔っ払って寝てしまったあとに担ぎ込まれたホテルで、宮本を襲いかけたことがあった。
非難する言葉を吐き捨てながら、橋本を見つめる宮本の眼差しからは、『最低』や『大嫌い』という感情が露になっていて、橋本は手を出したことを心底悔やんだ。
強いその気持ちを表すように、いつの間にかアプリでブロックをされてしまい、仲良くなって飲み合った後だからこそ、結構傷ついた。
この一連の流れを考えると、あのときの宮本は間違いなく、自分に対して好意を抱いてなかったと自信を持って言える。
その後、勝手に橋本の想いを恭介に暴露されたことに怒り、感情に任せて宮本を殴ったりといろいろあった。
『俺は知ってるんです。好きなのに諦めなきゃならないことがあったから。どんなに好きでもそれを口にしたら、正晴を傷つけてしまうことがわかったから、必死になってそれを我慢して、俺から別れました』
いつもは江藤ちんと言っていた宮本が、はじめて元彼の名前を口にしたことについては、かなり驚いた。
あのとき橋本が黙ったまま見送った背中と、今日見送った背中は、明らかに違って見えた。恋が含まれる気持ちが雰囲気から橋本に伝わってきたゆえに、その違いに気がついた。
(気がついたからって、今更なんだよな。返事はしなくていいんだから、放っておいてやる。もう知らねぇ……)
考えるのも面倒くさくなり、手にしたスマホをその場にぽいした。よいしょと掛け声をかけながらベッドから腰をあげるなり、急いで着替えを始める。
「くそっ、目覚ましのアラームより早く起きたのに、時間がギリギリなんて笑えないぞ。ハイヤーをぶっ飛ばして、恭介のマンションに向かわなきゃな!」
こうして、橋本の慌ただしい一日がはじまったのだった。