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「……寝たか?」
反応がない。みんな寝たようだ。
今日も安堵する。一体いつまでこうやって皆の顔色を伺わなきゃいけないのか。
別にみんなの事を信用してない訳では無い。が、出会った時から俺はずっと皆の前で『明るく真っ直ぐ』な性格で生きてきた。
最初はちょっと趣味が合うくらいだと思ってた。実際音楽好きなのは本当だったが好きなジャンルは全然違ったからだ。
でも話していくうちにどんどん皆の中身も好きになっていった。
時々ふと思う。なぜみんなでバンドがやりたいなんて思ってしまったのか。なぜ自分の気持ちを抑えられなかったのか。
軽音部の先輩は確かにやる気がなかった。しかしそれでも良かったのではないか?
高校時代の思い出としてなんとなくやってれば楽だったかもしれない。
その程度にしておけば毎日こんなに考え込まなくて良かったのかもしれない。
正直みんなでバンドをすること自体は楽しかった。どんどん伸びていく自分達を誇らしく思っていた。
ずっとこんな感じで続けていくと思っていた。
だから卒業が近くなってルームシェアの話が出た時一瞬冷や汗が背中を伝った。
別にみんなと暮らすことが嫌な訳では無いし寧ろ一緒にいる時間は何もかも忘れるくらいに楽しい。それに一緒に住めば活動しやすいのも事実だった。
しかし一緒に住むということはほぼ24時間365日誰かしらが常にいるということ。バンドの練習をする時も食事をする時もそれから眠る時も。
全てを隠し通さなければ。
初めにそう思った。隠し通せなければもう『明るく真っ直ぐな中野 優』では居られない。
いや、全てを知っても多分皆は俺に対しては何も変わらない。それでも知られたことによって何かが自分の中で壊れるのが怖かった。
築きあげてきた自分の『性格』が変化することも怖い。
今日も長い長い夜にいつ日の光が差し込むのか考えて気が滅入る。皆を起こさないようそっと寝床を離れる。
この館の求人を見つけた時。運命を感じた。
神が俺に一筋の光を差してくれた気がした。
少しくらい休んでもいいよ、そう言われた気がした。
だって衣食住ありって言ったって仕事は仕事だ。きっとみんなバラバラの部屋でそれぞれ朝になったら起きて業務を始める。 そんなありきたりな感じになると思っていた。だからみんなにこの求人を嬉々として提案した。
しかし実際はどうだ。お嬢様とやらの『気遣い』でまた皆同じ部屋だ。やはり俺は神に見放されているんだなと思った。神なんてくそくらえだ。
苛立ちでつい近くの本棚に拳を突き付ける。その途端に衝撃でコトコトと音を立て何かが落ちる。
小さな弾のようだった。しかし完全な丸ではなく少し歪んで尖っている部分がある。
何だかわからなかったがなんとなくそれをポケットにしまった。なんだかそれが自分を救ってくれるように感じた。どうかしてるな。。
コンコン
突然ドアをノックされ思わず身構える。
「あの、どうかされましたか?」
声からして先程のマグという女だろう。 俺は静かにドアを開けて部屋の外に出た。
はぁ。全くめんどくさいな。そんな気持ちが心を取り巻く。
「すみません、お水を飲もうと 下に行こうと思ったら部屋から音が聞こえたので、、」
「いや、全然大丈夫ですよ!実は夕飯があまりに美味しくてちょっと食べすぎちゃったみたいでトイレに行こうと起きたら寝ぼけてて壁にぶつかってしまって!心配かけて申し訳ないです!いやー恥ずかしいな、はは」
咄嗟にそんな嘘をつく。明日からはもっ と静かにしなくては。たまたまとはいえ連日起きているのがバレたら彼女も怪しむだろう。それに一応お世話になっている身なのにあまり心配をかけるのも悪いだろうしな。
それから彼女に2度目のおやすみを伝え行きたくもないトイレに向かう。
先の失態で音を立ててしまったのも含め彼女と部屋の前で話した事でもしかしたら誰かしら眠りが浅くなっている可能性を考えしばらくして部屋に戻ると欠伸の真似をしながら再び布団に潜る。
そして意味もなく瞼を閉じ皆の寝息を聴きながら明日の一日を考える。
明日もみんなにとって変わらない日々でありますように。そう願い再び長い夜を過ごすしかないのだった。