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今日は本当に暇だ。
部活もない、学校もない。
私はいつも通りのルーティンで外に出る準備をする。
寝ている父親を起こさないように、そ〜っと部屋を通り過ぎる。
起こさずに通り過ぎることができて少しほっとしながら玄関で靴を履く。
行き場所はもう決まっている。
いつも学校に行くときとは反対の道を行って少し歩いたところにある交差点で曲がり、少し歩くといつも見ている住宅街は少なくなり、あたりが田んぼに包まれていく。
田んぼのわきには川があり、その川に沿ってたくさんの桜の木が植わっている。
春になったときの美しさには息を呑むほどだ。
田んぼを少し行ってまた住宅街が見えて来た。
そして目的の家に着く。
私は慣れた手つきでチャイムを押した。
「いらっしゃい、れいちゃん」
そう言って優しく私を出迎えてくれたのは市原さん。
60代の男性で 私を休日におしゃべりをしてくれる人だ。
彼は、事故で10年前に一人息子と孫をなくしている。
その悲しみからなのか分からないけど、私という赤の他人の世話までしてくれてしかもお小遣いもくれる。大したことはしていないのに。
「じゃあ、れいちゃんいつものお願いできる?」
「はい、わかりました!」
いつものとは、彼の家の家事のことだ。
もともとは私が、ずっと彼と喋って何もしないでいるのは申し訳なさすぎたので自分から申し出たものだった。
それなのに、いつも「お礼だよ」といって3000円を渡してくる。
一番最初は、私が感謝の気持ちでやったものだったので断ろうとしたが「いいのいいの」と頑固で最終的に私が折れた。
それだけでなく、いつもお昼ご飯をご馳走してくれる。
まあ、これは作らせるのは申し訳ないので最近は「料理の練習したいから!」といって自分で作っている。
それでも、材料費をもう一人分出してくれてもいいのだろうか。
「材料費出します!」と言っても頑なに出させてくれない。
いつも「好きでやってることだから」と言われ、いつもただ飯を食べてしまい、少し罪悪感はあるが仕方ない。
「市原さーん、家事終わりましたよ」
いつものように声をかけて家事は終わった。