テラーノベル
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再会の日、かなは静かに駅のベンチに座っていた。
横にいるはるは、何も言わずに寄り添っている。ただ手だけはしっかりと握って。
やがて、少し白髪が混じる優しそうな男性が駆け寄ってきた。
「かな……」
その声に、顔を上げた瞬間、かなの目から涙がこぼれた。
「……お父さん……」
迷いも、壁も、もう何もなかった。かなは一歩、二歩、駆け寄って――その胸に飛び込んだ。
優しく包むような腕と、温かい手が背中をなでてくる。
「遅くなってごめんな。やっと迎えに来られた。」
その一言だけで、すべてが救われた気がした。
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数日後、家裁での調停が行われた。
お母さんは最初こそ反発していたが、裁判で明かされたかなの傷や精神的な状態、義父や義弟妹との関係、はるの証言などが大きく影響し――
最終的に、親権は実父に変更されることになった。
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新しい暮らしは、おだやかだった。
木のぬくもりを感じる家。優しくも少し不器用なお父さんとの2人暮らし。はるとも放課後には会える距離。
朝ごはんの匂いで目覚める日常。帰る場所がある安心感。
かなの顔には、少しずつ表情が戻ってきていた。
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放課後、駅のホームで待っていたかなが、制服姿のはるを見つけて手を振る。
「委員会で遅くなるって言ってたのに。」
「心配だったんだよ、今日が新しいスタートだし。」
はるの言葉に、かなは小さく笑って、そっと手を繋ぐ。
「あたし、今……ちょっとだけ未来を信じてる。」
はるはその手を強く握り返しながら、静かに答えた。
「信じていいよ。未来も、あたしも。」
そして、夕暮れの中、2人は並んで歩き出した。
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