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若井とのあの真面目な話の後、
少し空気が重くなったままだったから、
涼ちゃんがやたらと明るく振る舞い始めた。
「元貴、今日は元気出すために“特製スタミナ鍋”作るよ!」
「おお、いいじゃん。…でも涼ちゃんの“特製”って、たいてい地雷じゃない?」
「失礼な! 今日はちゃんとレシピ見たから!」
そう言って鍋のふたを開けた瞬間、若井が眉間にシワを寄せた。
「…なんで真っ青なんだ、そのスープ」
「ほうれん草と、ブルースポーツドリンクを混ぜたから!」
「混ぜるな!!」俺と若井のツッコミが完全にハモった。
涼ちゃんはむっとして、味見のスプーンを俺に差し出す。
「ほら、元貴。勇気を出して」
「…命をかけるほどの勇気が必要そうだな」
仕方なく口に入れたら、案の定、舌がバカになる味だった。
「…あー…うん、うま…い……いや嘘だわ。めちゃくちゃまずい」
若井は肩を震わせて笑いながら、涼ちゃんの頭を軽く小突く。
「お前、スタミナ奪ってどうすんだ」
結局、その日の夕飯は急遽、俺がスーパーに走ってカレーになった。
けど、こうやって3人でわちゃわちゃしてると、不思議と薬のことを考える時間が減る。
…いや、それでもふとした瞬間、あの衝動は顔を出すけど。
でも今は、この馬鹿みたいに騒がしい日常の方がずっと心地いい。
実は…
カレーを作ってる最中も、ギャグは止まらなかった。
涼ちゃんは玉ねぎを切りながら、なぜか急に歌いだす。
「♪た〜まねぎ切ったら〜涙が止まらな〜い〜」
「いや、それ普通だから」俺がツッコむと、
「でも僕、涙じゃなくて鼻水出るんだよね」
「情報いらん!」若井まで吹き出して、玉ねぎの皮を落とす。
さらに、じゃがいもを剥きながら涼ちゃんが真剣な顔で、
「元貴、カレーにはジャガイモ? それともサツマイモ派?」
「そもそもサツマイモ派って初めて聞いたわ」
「だって甘い方がおやつにもなるじゃん!」
「いや、夕飯だっての」
若井は静かに包丁を動かしていたが、急に手を止めて、
「…涼ちゃん、ジャガイモ芽取ってないぞ」
「え、芽って食べれないの? 芽が出たら栄養満点って…」
「それ、危険な方の栄養だからな!!」
結局、芽だらけのジャガイモは全部俺が下処理することになった。
そして完成したカレーを3人で食べながら、涼ちゃんがドヤ顔で言う。
「やっぱ僕って料理の才能あるな」
「一番何もしてないやつが何言ってんだ」俺と若井がまたハモった。