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#年の差
水無月 京
836
鷹槻れん

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鷹槻れん

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#強引
「いただきます」
全員で食卓を囲み、少し早めの夕食が始まった。
食卓には和洋中様々な料理が並んでいて、ほとんどは皐月が作ったものだったが希海も野菜を切ったり材料を混ぜたり調味料を入れたりと、自分にできる工程を皐月や乙哉に教わりながら一生懸命手伝っていた。
料理を口にした昴は肉じゃがを味わいながら感心したように頷く。
「この肉じゃが、美味いな」
すると希海が嬉しそうに身を乗り出した。
「あのね、これ、ぼくがやさいきったし、あじのやつもいれたの!」
「そうっすよ。希海はじゃがいもと人参を切って調味料も入れたんです」
「包丁の使い方も上手で驚きました」
皐月と乙哉の言葉に昴は目を細める。
「そうか、凄いな」
「えへへ。いつもういちゃんがやってるのみてるからできた!」
「希海くん、お手伝いをたくさんしてくれるものね。今度は私とも一緒にご飯を作ろう?」
「うん!」
無邪気な笑顔を見せる希海にその場の空気は自然と和み、想汰との別れで沈んでいた羽衣子の心も少しずつ穏やかさを取り戻していった。
食事を終えて羽衣子や希海がひと息ついていると、昴は乙哉たちをそっと呼び寄せて小声で告げる。
「俺はこれから組長の屋敷へ行く。戻りは明日になるかもしれねぇから、羽衣子と希海を頼む」
「俺も付き添いますか?」
「いや、いい。痛みは薬で抑えられてるし運転にも支障はねぇ。それより羽衣子を気にかけてやってくれ」
昴は静かに視線を羽衣子へ向ける。
「気丈に振る舞ってても、ふとした瞬間に気持ちが沈むかもしれねぇからな」
「分かりました。ちゃんと見ておきます」
想汰との別れを決断したことは皐月や乙哉も知っているので多くは語らず昴の言葉に頷いた。
話を終えると昴は羽衣子と希海の元へ歩み寄った。
「これから出掛けてくる。戻りは明日になるかもしれねぇから希海は羽衣子の言うことを聞いて良い子にしてるんだぞ」
その言葉に希海は見る見るうちに表情を曇らせる。
「えー……パパいないのやだ……」
「なるべく早く戻るから、な?」
「やだ……」
困ったように笑った昴は少し考えると優しく言った。
「じゃあ来週、希海の行きたいところへ連れて行ってやる。それなら我慢できるか?」
「……わかった……」
「良い子だ」
昴が渋々頷いた希海の頭を優しく撫でると、その様子を見守っていた羽衣子も穏やかな笑みを浮かべながら口を開いた。
「昴さん、気をつけて行ってきてくださいね」
「ああ、希海を頼むな」
「はい」
本当は離れることが寂しかったけれど、出掛ける内容を知っている羽衣子は寂しい気持ちを胸の奥へしまい込むと笑顔で昴を見送るのだった。
自宅を出た昴は車のハンドルを握りながら、何度も自問自答を繰り返していた。
高遠と想汰を柳生会へ送る――そう決断を下したはずなのに、それが本当に正しかったのか分からずにいたのだ。
その背景には羽衣子の涙が大きく影響していた。
想汰との決別を選びながらも最後まで泣き続けていた羽衣子。
きっと羽衣子は想汰が殺されることを覚悟している。
けれど、その役目を自分にだけは担って欲しくないと思っているのではないか――そんな気がしてならなかった。
車はやがて亮治の屋敷へと到着し、登紀子に出迎えられて挨拶を交わすと迷うことなく書斎へ向かって歩いて行った。
「すみません。遅くなりました」
昴が頭を下げると亮治は椅子に深く腰掛けながら軽く手を振る。
「構わねぇさ。それで……二人を柳生会へ送る決断をしたそうだが……異論はねぇのか?」
その問いに昴はすぐには答えられず、沈黙が流れていく。
「……何だ。煮えきらねぇって顔してるな」
亮治に見透かされた昴は苦笑にもならない表情を浮かべた。
「……正直、高遠については妥当な判断だと思っています。でも、吾妻の方は……」
そこまで口にした昴の拳が自然と強く握り締められる。
「……この手で殺してやりたいくらい、許せない存在です」
「……だろうな。けどまあ、それをやったところでお前を咎める奴なんざ誰もいねぇ」
その言葉を受けても尚、昴は首を横に振る。
「ですが……羽衣子のことを考えると、それが本当に正しい選択なのか分からないんです…………羽衣子は泣きながら吾妻との別れを決断しました。そして、恐らく吾妻が殺されるんだと思っているはずです。俺が吾妻の処遇を決める権利があると知った時、羽衣子は悲しげな表情を浮かべていました。俺がアイツを許せないことは羽衣子も分かっているから、もしかしたら俺が殺す選択をするのでは無いか、そんな不安そうな表情を浮かべていました」
「…………」
「羽衣子は優しい人間だから、俺が人を……自身の兄を手に掛けたと知ったら、悲しむだろう……そう思うと俺は……自らの手で吾妻を始末することが出来ません。若頭っていう立場に立ちながらこんな甘いことを言って、申し訳ありません……」
黙ったまま話を聞いていた亮治は煙草を一本取り出すとゆっくり火を点け、紫煙を吐き出してから低い声で口を開いた。
コメント
1件
うーん、今回のエピソードは家族の温かい時間と昴さんの心の葛藤が対比的で、胸がぎゅっとなりました…🖤 希海くんがお手伝いを誇らしげに報告するシーン、本当に可愛くてほっこりした反面、昴さんが羽衣子さんの悲しみを慮って「自分の手で兄を♡♡♡ない」と亮治さんに打ち明ける部分がとても重く響きました。羽衣子さんの涙が昴さんの決断を揺るがす、その繊細な感情描写が切なくて…。 亮治さんがどう応じるのか、次が気になりますね。