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#年の差
水無月 京
836
鷹槻れん

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鷹槻れん

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#強引
「そうだな、羽衣子さんからすりゃ、愛する男に罪を背負ってほしくねぇと思うのは当然だ。現に登紀子もそうだ。どんな理由があろうと人を殺めちゃいけねぇって考えの人間だからな」
昴は黙って耳を傾ける。
「だがな、それが出来ねぇからって全てを柳生会に任せるってんなら、それは違う」
亮治の声が少しだけ厳しくなる。
「それはただの責任逃れだ。心の底から納得してその結論を選ぶなら構わねぇ。だが納得しねぇまま人任せにすりゃ……お前は一生後悔する」
その言葉は昴の胸へ深く突き刺さった。
亮治は灰皿へ灰を落とすと静かに話を続けていく。
「……お前は知らねぇだろうが、慶太はな、香恵ちゃんの父親を手に掛けた」
「……え?」
俯き加減だった昴は顔を上げた。
兄のように慕ってきた男が人を殺めていたという話は一度も聞いたことがなかったからだ。
「香恵ちゃんとの出会いの話は聞いていたろ? 付き合ってた男が最低だったって話は」
「はい、勿論」
「彼女はな、父親にも恵まれなかった。当時はもう縁は切っていたらしいがな……香恵ちゃんの父親はどうしようもねぇクズだった。借金を娘に押し付けて自分だけ逃げ回る。羽衣子さんの兄、吾妻と同じような人間だったんだ」
「…………っ」
「この話を知ってるのは俺だけだ。香恵ちゃんにも話してねぇ。……まぁ、彼女は勘づいてたかもしれねぇがな」
亮治は遠い昔を思い出すように目を細めていた。
「慶太は苦しむ香恵ちゃんを見て見ぬふりができなかった。何度も父親に接触して更生させようとしたんだが……奴は改善するどころか香恵ちゃんがキャバクラで働いてたことを嗅ぎつけると金の無心に現れやがった」
「…………っ」
「それだけならまだよかったんだ。断られて逆上した父親は借金のカタに香恵ちゃんを差し出そうとしてチンピラ共を雇って襲わせた」
昴の拳に力が入る。
「幸い慶太が気づいて助けたが、アイツは父親を許せなかった」
亮治は煙草の火を見つめながら静かに言った。
「父親が生きている限り、香恵ちゃんは何度でも狙われる。そう判断した慶太は自らの手で決着をつけたんだよ」
そこで言葉が途切れたけれど、その先を語る必要はなかった。
話を聞き終えた昴は目を閉じる。
尊敬し、兄のように慕ってきた慶太も自分と同じ場所に立ち、愛する人を守る為に究極の選択を迫られていたという事実を知った瞬間、自分が抱いていた迷いや覚悟の甘さを痛いほど思い知らされたのだった。
「だからといって、お前も同じ道を選べと言ってるわけじゃねぇが……よく考えて、覚悟を持って自分で答えを出して欲しい……俺から言えることはそれだけだ。吾妻については柳生会へはまだ何も言ってねぇ。もう一度よく考えろ」
「…………はい」
それだけ言うと昴は書斎を後にした。
亮治との話を終えた昴は登紀子に挨拶をしてから家を出た。
そして、車に乗り込むと自宅には向かわず別方向の道を走っていく。
暫くすると辿り着いたのは高台にある展望台だった。
ここは慶太と何度も訪れた場所。
仕事終わりに缶コーヒーを片手に七鳳組の未来や他愛もない話まで語り合った、昴にとって特別な場所だった。
車を停めると昴はシートベルトを外してシートをゆっくり倒す。
そして深く息を吐きながら目を閉じると、先程亮治から聞かされた話が脳裏に蘇った。
――慶太さんが香恵さんを守る為に人を手に掛けた。
その事実は昴の胸を重く締めつけた。
「……慶太さん……」
思わず漏れた声は静かな車内に虚しく響く。
昴にとって慶太は、いつだって頼れる兄貴分だった。
どんな仕事もそつなくこなし、部下には気さくで、時には厳しく、誰よりも七鳳組のことを考えていた。
弱音など滅多に吐かず、唯一弱気な姿を昴が見たのは、香恵にプロポーズすると打ち明けた日くらいだった。
そんな慶太が人を手に掛ける決断をしていた。
尊敬していたからこそ、昴にはその重みが痛い程よく分かる。
「……生きていたら、きっと組長と同じことを俺に言ったんだろうな……」
昴は窓の外へ視線を向けた。
暗闇にポツリと光小さな星を眺めながら、昴は思う。
「……羽衣子が悲しむからとか、そんなの、都合のいい言い訳だな。本当は俺自身、人を手に掛ける覚悟が出来てねぇだけなんだ……情けねぇ……」
守りたいモノがあるなら、時には非情な決断を下さなければならない。
綺麗事では済まされない世界に身を置く者の運命だと改めて思い直す。
羽衣子や希海、そして七鳳組の未来を守る為、その全てを背負う立場にある以上、いつまでも迷い続けることは許されない。
誰かを守るということは、その覚悟を背負うということなのだ。
昴は何度も自問自答を繰り返し、そして静かに答えを出した。
ゆっくりとシートを起こし、シートベルトを締め直す。
「……慶太さん。俺も、覚悟を決めます」
誰に聞かせるでもないその言葉を残した昴は再び車を走らせて行った。
コメント
1件
亮治さんの「納得しないまま人任せにすれば一生後悔する」って言葉、グッと刺さりました。慶太さんの過去を知って、昴くんが自分の迷いを「言い訳だ」って認めて覚悟を決める流れが泣ける…。展望台で星を見上げながら慶太さんに別れを告げるシーン、静かで切なかったです😢