『ノボリって人、知らない。
僕は知らない。ならそれでいい。』
クダリはそのまま電車に乗る。
影から出てきたノボリは驚きを隠せない表情をして、トウコは暗い顔をする。
すると噂を聞きつけたカズマサが来て、
状況を察したようでノボリに説明を始めた。
「黒ボス、スマンなあいつ…
アイツ、何故か黒ボスの記憶失っとるん」
「…ふむ」
「前思い出させようとしたら発作見たいなん起こして倒れて…
俺らにはどうにもできんのや」
『ノボリさん…』
ノボリは顎に手を当て数秒考える。
「…わたくしブラボーなことを思いつきました!!」
「うぉ!声のデカさは変わらんな」
『ホントですね…』
ノボリは目を輝かせカズマサの方を向く。
「カズマサ、わたくしのスペアのコートは残っていますか」
「え?あぁ…俺らのロッカールームにあるはずや
まだ結構新品っぽい見た目やで」
「そうでございますか」
「黒ボス?何を…」
「…」
ノボリは珍しく口角を上げて
「あの子がわたくしを受け入れないのならば、
わたくしじゃなければ良いのです」
「…?」
ぽかんとする駅員たちを置いて、
ノボリはロッカー室へ。
髭を剃り、ほぼ新品同様のスペアのコートを着た。
そして3つのモンスターボールを腰につける。
その姿はまるでX年前のノボリのようで駅員は驚きを隠せない。
「では…いってくるね」
そういうノボリの口角はまるでクダリの様に上がっていた。
ノボリはロッカー室のドアを後ろ手で閉めた。
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クダリはシングルトレインを運行していた。
今挑戦者は19車両目。もうすぐ来るだろう、
と身構えておく。
するとドアが開いた音がする。
クダリは前を向き、
『やぁ、よく来たね…っ、て』
そう言いかけたクダリの顔が凍りついた。
クダリの目の前にいるのは、“クダリ”だった。
逆三角のように上がった口角。
それが“クダリ”を物語っていた。
その“クダリ”は黒いコートを着ていた。
クダリは少し後ずさりして尋ねる。
『君は…だれ?』
すると、“クダリ”は表情を変えず言った。
「ぼく?ぼくはクダリ。」
自身と似た声。
そしてその発言にまたクダリは後ずさる。
『君は誰なの?ぼくもクダリ。でもぼくはぼく。
きみ、ぼくじゃない。』
そう言うが“クダリ”は続ける。
「うん。ぼくクダリ。でもきみもクダリ。
ぼくもきみも、クダリ。でも、ぼくらは違う。」
戸惑い声が出せないクダリに“クダリ”は続ける。
「きみはぼくだけど、ぼくはきみじゃない。」
『…?』
「きみ、まえのきみとちがう。
変わっちゃってる。残念。」
『…どういうこと?』
「きみ、だいじなもの、なくしてる。」
『…なんの話なの、分からないよ。』
「きみがいちばんわかってる。
だって、ぼくだから」
『……?』
訳が分からずクダリは混乱する。
「…ここはバトルサブウェイ
ポケモンバトル、しよう」
『……うん』
ボールを構える自分自身を飲み込めないままクダリも構える。
「それじゃあ、出発進行ーッ!!」
クダリはダストダスを繰り出し、
“クダリ”はドリュウズを繰り出した。
クダリはすぐ違和感を覚えた。
目の前の“クダリ”が出したドリュウズは、
紛れもない自身の手持ちのドリュウズだった。
スーパーダブルの時に使っている手持ちは、
今置いてきているはずだ。
それじゃあ、なんで?
「ドリュウズ!ドリルライナー!」
ダストダスはドリュウズのドリルライナーが急所に当たったようで、力尽きてしまった。
『ダストダス!
……アイアント!お願いっ!』
“クダリ”はドリュウズがやられると、
次はオノノクスを繰り出してきた。
やはり、スーパーダブルのときの手持ちだ。
攻防を続けるが、
戸惑いのせいかクダリは押されていく。
なんとかギギギアルでオノノクスを倒すと、
次はシャンデラが。やはり自分の手持ち。
シャンデラはなぜか、
紫の炎が前よりも一層強く揺らいでいる。
この前まで、元気がなくて炎も弱かったのに。
「これで終わり!!
シャンデラ!オーバーヒートッ!!」
「シャン!」
効果抜群の技を受けたギギギアルは、
そのままボールへと戻る。
しぃん、とトレインの中は静寂に包まれた。
クダリはまだ頭の整理が追いついていない。
目の前の人は誰?
どうして手持ちを持っている?
どうして既視感を感じている?
分からない。
クダリは思わず膝をついて頭を抱える。
『わかんないよ、ぼく……
きみ、誰…?僕は…』
そうクダリが呟くと、
“クダリ”はクダリの前に立ち、
上を向いたクダリと目を合わせた。
自分と同じ顔。だが目の中に宿る何かがある。
クダリの目の前の“クダリ”は、
まっすぐとクダリの目を見て言った。
「双子ですが、わたくしはあなたではありません。
あなたとわたくしは違います。ですが、
わたくしたちは、2両編成の双子でございます」
そういう“クダリ”の口角は、
三角形のように下がっていた。
でも、笑ってる。
とても優しい顔で、笑っている。
「貴方の大切なものが、わたくであると願いたい
また、笑顔を見せてくださいまし」
クダリは訳のわからない暖かさと、
体の奥から、まるで“それ”を拒絶する様な
嫌悪と暗い感情が襲いかかる。
『あ…ぁ、い、いや…』
また夢かもしれない。
嫌だ。
もうあんな思いしたくない。
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めっちゃ長くなりましたね
あ、あと多分新しいサブマス小説書きます
これ完結したら書き始める予定です
まぁ暇があったら見てください
こっちもあと2話くらいで完結だと思います
それでは
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