戦場の花

🌹 第十八章：団長の「戦略的デート」と秘密の願い抜け駆けと理由付け

リヴァイの過剰な監視と独占に対抗するため、エルヴィンはサクラとの接触を**「戦略的な必要性」**という名目でさらに強化した。

ある日の午後、リヴァイが壁内の治安維持のため、一時的に兵舎を離れた隙を突いて、エルヴィンはサクラを自分の執務室に呼んだ。

「サクラ。緊急で君に頼みたいことがある。それは、戦略上、極めて重要な任務だ」

「はい、団長。何でしょうか？」サクラは緊張した。

エルヴィンは、穏やかな笑みを浮かべ、机の上の地図を畳んだ。

「君の持つ**『異世界の知識』**は、我々の常識と懸け離れている。その知識を、この壁内の生活と結びつけることで、より強固な戦略を練ることができる」

「具体的には…？」

「**『壁内世界への理解を深める実地調査』**だ。これから君を、街へ連れて行く。君の異世界の感覚を、この世界の日常に触れさせ、新たな視点と情報を引き出す。…これは、極秘の『戦略的デート』だ」

エルヴィンは、**「デート」という言葉を、真顔で「戦略」**と結びつけた。サクラは、その大胆な言葉選びに、顔が熱くなるのを感じた。

街での「実地調査」

エルヴィンは、サクラに目立たないよう、団長の制服ではなく私服を着させた。二人並んで馬を走らせ、静かな内地の街へと向かった。

街の中を歩くエルヴィンとサクラ。身長188cmのエルヴィンと150cmのサクラは、並んで歩くだけで人目を引いたが、エルヴィンの威厳ある佇まいに、誰も声をかけることはできなかった。

「サクラ、君のいた世界では、**『愛』**とは、どのような意味を持つ？」エルヴィンは、通りすがりの花屋を指差しながら尋ねた。「この花を贈る行為も、戦略の一つになり得るのだろうか」

「えっと…愛は、戦略では…」サクラは、真剣な顔でそんな質問をするエルヴィンに戸惑った。

「そうか。だが、私にとって、『君への保護』は、人類の未来という最大戦略の一環だ。君を失うことは、人類の敗北を意味する。…リヴァイの、君への過剰な溺愛も、彼自身の精神的な安定という**『内部戦略』**として機能している」

エルヴィンは、あらゆる感情を「戦略」という枠組みで分析しようとする。しかし、彼の言葉の裏には、サクラという存在を、論理的な思考で手放したくないという、強い願望が透けて見えた。

秘密の願いと、団長の抱擁

エルヴィンは、二人きりになれる街外れの古い教会へとサクラを連れて行った。薄暗い教会の中で、エルヴィンはサクラと向かい合った。

「サクラ。今日の**『実地調査』**は、君の安全が最優先だ。もし、リヴァイが戻ってきて、私を責めたとしても、君は何も心配しなくていい」

エルヴィンは、一歩踏み出し、サクラの手を両手で包み込んだ。

「君の持つ『異世界の知識』が、私に確信を与えてくれた。私は、長年の重圧から解放されつつある。それは、君という**『希望』**が、私の傍にいるからだ」

エルヴィンは、サクラの小さな体を、そっと抱きしめた。それは、昨夜の激情に駆られた抱擁とは違う、静かで、切実で、頼りないほどの優しさに満ちていた。

「サクラ。もし、この残酷な戦いが終わったとき、君が願うなら、君を**『戦略の枷』**から解放しよう。そして…そのとき、君には、一人の男として、私の隣にいてほしい」

エルヴィンは、**「一人の男」としての、サクラへの「愛」**という、最も私的で、最も彼の戦略からかけ離れた願いを、初めて口にした。

「リヴァイの感情は、君への溺愛だ。だが、私の君への感情は、人類の希望と、私個人の希望が結びついたものだ。君は、私にとって、生きる理由そのものだ」

サクラは、その大きな胸の中で、エルヴィンの、普段は見せない人間的な弱さと、自分への深い愛を感じた。

（団長は、この世界を救うために、私を求めている。でも、それは、私を愛しているから…）

サクラは、静かにエルヴィンの背中に腕を回し、その抱擁を受け入れた。

彼らの**「戦略的デート」**は、互いの孤独と愛情を確かめ合う、秘密の儀式となったのだった