テラーノベル
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「った、大変ですーー!」ガラッ!とドアを開ける鈴木が、起きているスミスを見て「お、おう」と頷く。やあ、といいだけにスミスは手をあげた。
「なんだ?」と目を細める降谷に、鈴木は汗を拭って唾を飲んだ。
「誘拐ですーー」
「それは我々の領分じゃ…」と風見が言いかけて、鈴木は首を振った。
「わたしね!」と碧斗の前を行く女子が言う。「お誕生日に、こーんな!」と両手を広げる。「おっきなくまさん!モナコ製なのよ!」「いいなぁ!」「でも俺は、パパからロレックスもらったぜ」「見に行っていーい?」「碧斗はぁ?」と男子が振り向く。
「僕このあとヴァイオリンのレッスンがあるんだ。だからまた今度ね!」
校舎を出ると、それぞれがそれぞれのSPの元へ走っていく。ベンツ、リムジン、様々な高級車のドアが開かれ、彼らは乗り込んでいく。
碧斗は辺りを見回した。「あれ?」迎えがいない。教師らが確認するように聞く。「碧斗くん、迎えは?」「ーーあ!」と碧斗は校門の向こう側をさす。
「じゃあ、また明日ね」
「はーい!」碧斗は手を振って走り出す。
校舎から見えない位置に止まるいつもの車に、碧斗は駆け寄っていく。ドアから出てきた知らない人物に、碧斗はすぐ止まり、後ずさる。
「せんせーー」
がっ、と口元を押さえられ、碧斗はそのまま車に押し込まれた。
「誘拐!?」と佐藤らはひとつのテーブルに集まってくる。
「あぁ、しかも」とバタバタと走り回る所轄内は騒がしい。「誘拐されてからもう3日経ってるーー」警部はこちらも見ずに顎でドアをさす。
「【合同】捜査本部が立つ!」「はっ!」全員はぞろぞろと走っていく。
「ねぇ、合同ってどことなの?」佐藤は走りながら尋ねる。
「さぁ?」と白鳥。「埼玉県警とか?」
「いやーー」と千葉が首を傾ける。
まるで大学の抗議室のような本部内には、真ん中に大きな画面と、右と左にある長テーブル。
コードを用意する刑事らが駆け回っていき、パソコンをひと席ずつ置いていく。
佐藤は適当に座り、パソコンを開いた。
「なーー」
「これは…」
「スライド写します!」と刑事。
「誘拐されたのはーー現外務省職員、成田久彦氏のひとり息子……」
ぱっ、とサッカーボールを持つ少年に画面が変わる。
「成田碧斗くんですーー」
ざわざわと本部は騒ぎ出す。ばん!とドアは再び開き、皆は後ろを振り向き目を見開いた。
早足で階段を降りてくる風見に続き、ぞろぞろと公安の刑事が続く。
「な」佐藤が立ち上がろうとした。
無理もない。風見の後ろにはーー「名前さん…!」彼女は佐藤を目だけで見て風見に続く。
「この誘拐事件はーー」と風見はテーブルにいき、前を向いた。「我々公安部と所轄の合同になります……」
す、とスミスは隣に座るが、がん!とテーブルに足を組んだ。
「態度でかっ…」素直に高木は縮まる。
「そうじゃないでしょ!」と佐藤。「なぜ彼女が……」白鳥が近づく。「これで確定しましたよね」
なんらかの理由で、彼女は公安とつながっていると。
「外務省職員の息子ということは…」
ざわめきはおさまらない。「警察には何も連絡がありませんが」とひとりの刑事が言う。「翌日から学校へ来ない碧斗くんを変に思った教師が、家へ連絡するも出ず。そこから連絡がつかないことを不審に」「また、迎えに来た車が駐車場に停まっていなかったことなどーーおかしな点が多いことから通報!現時点に至ります」「待ってください!」佐藤は立ち上がる。
「こ、公安部と合同!?なぜ!?」
「佐藤くん」と警部が首を振る。
風見は眼鏡をあげた。「また【失態】されては……」佐藤を見る。「我々の仕事が増えるんでね……」
「…っ」佐藤は食い下がる。「彼女は!」とスミスを指差す。「わたしの知る限り一般市民です!なぜここに!?それを…」
風見は足をすっとどかして手を組んだ。
「彼女はこちらの【協力者】です。それ以上を知る義務と権利は、あなた方所轄にはありませーー」
「海兵よ」と言うスミスに、風見は目だけ動かす。
「かいへい?」佐藤は高木と白鳥を見た。
「それも……」にや、とすると碧い髪が垂れる。ゆっくり人差し指を向ける。「スナイパー……ふふふっ……」
「な…」佐藤は後ろによろけそうになり、高木に腕を引かれ座った。
「ふぅん?」と降谷は腕を組んだまま言う。
「なぜ警察に言わなかったんでしょう?」と風見。「ばか」とスミスに言われて「んぇ」変な声を出してしまう。
「そんなの」スミスは斜めにしたベッドに背を預ける。「脅されているか…」
「信用してない」と降谷。
「成田一家は元々、そういう家系じゃない。議員の息子は議員、大臣の家は大臣……」
「ブルーブラッドじゃないってことね」
ふぅ、とスミスは横に顔を向けた。
「成り上がってきた一家なんだよ。1からな。だから……そういう」と降谷は振り向く。
「【穢れた】組織とはつるまない…」スミスはゆっくり言う。「呆れた」
「誘拐されてから3日、というのは?」
スミスは起き上がり、風見に肩をすくめる。「少しは自分で考えてよ。風見刑事」
む。と風見も眉間に指を当てる。
「…身代金の準備だとしたら……」
降谷とスミスは声が揃う。「そう」風見は続ける。「警察にも頼らず、銀行から金をかき集めるのは至難だ。そのくらいはかかるだろうな」
「肝心の彼の行方は?」
存在を忘れていた鈴木が頷く。「スマホのGPSで。海辺の倉庫の横にーー夜警のやつらの宿舎が2階立てであって」
「あぁ」とスミスは頷く。「じゃ簡単じゃない。犯人バカなんだから」
「たしかに…普通はすぐスマホの電源は落とすよな…」
「もしくは…」と降谷は窓辺に立った。
「急いでいるか……」ちらとスミスを見る。スミスは肩をすくめた。
「現職の外務省職員の息子を傷つけることは許されない。所轄どころか警察組織自体が激しく非難され責任が問われる……風見の仕事が増えるのは別に構わないが」
風見は眉をひそめた。
「SITやら何やら突入させるのは1番最後だ。碧斗くんが傷つかない、のが最優先ーー」
スミスにはわかった。
「…狙撃するのね」
はっと風見はベッドに寄る。「バカな!降谷さんっ!」激しく首を振る。
「スミス」と彼も同じようにベッドに寄った。
「君は……目がいいな…?どれくらい遠くから……」
「降谷さんっ!」
風見はまだ激しく首を振る。「犯人が何人いるのか……どこに碧斗くんがいるのかもーー」す、と風見に指差す。
「風見。それは所轄にやらせろ」
「はあ?」風見は本気でそう言った。やらせろ?
「熱探知で犯人が何人か、碧斗くんは子供だ。見ればわかるし何も変なことじゃない」
「しかし!狙撃したら犯人は死っ……」
がん、と降谷の拳が胸元に当たる。「それは……お前の仕事だ。風見刑事……」
「…っ」風見は顔をそらした。
「スミス」
ふ、と顔が近づく。
「もう隠してはおけない。日本は、君がテロリストかどうかを疑ってる」
「降谷さん!」
「だが、違うな?」降谷は確かめるように言う。
「君は……」
「ただの女よ」ふさ、と前髪が垂れて、スミスは前を向いたままはにかむ。
降谷は風見の横で囁く。「日本に有利なようにスミスが動けば……疑いが完全に晴れるわけじゃないが、【上】は信用しだす……時間がかかるが…」
「降谷さん…いつもそうですけど」風見は降谷を見下ろす。
「わたしはあなたが恐ろしい」
彼女を生かすなら誰かを殺してもいいというのか。
降谷は風見を見上げた。「そうだ」まるで返事のようだった。
「バカなことを!」佐藤はまた立ち上がる。「狙撃するですって!?相手は碧斗くんに危害を加える気はないかもしれないのよ!」
「もう加えてるじゃないか」とスミスは面倒くさそうに言う。「…家に帰れないんだから」風見は目をそらし続ける。
「すでにSITを向かわせていますね」
「はい」千葉が立ち上がる。「熱探知状況、出ます!」
画面には白い塊が部屋の真ん中にある。その前をひとりがうろうろ。部屋の外にひとり。動く人間はたった2人だ。
だが「武器を持ってる…」高木は呟く。
「決定だ」スミスは首をまわす。
「危害を加える【可能性】がある時点で、我々は対象者の保護を優先します」
「でもーー!」という佐藤に、白鳥が囁く。「公安は恐らく別の目的があります…成田一家に…【恩】を売りたいのだと思います…」
「はあ?」佐藤は素直に言った。「警察に連絡していない時点で成田一家は警察との親交はない…あれば真っ先に連絡がくるでしょう?でもない。だからこそ」
「碧斗くんを無傷で帰宅させれば…」
「やり方が汚い!」佐藤はブンブン首を振った。
気高さなどなくても構わないーー
風見の言葉が浮かび、ぐ、と膝のスカートを握りしめる。
「どこから狙撃するか、マスコミにも犯人らにもわからない場所から…所轄の皆さん。町に詳しいですね?」
千葉が地図を持っていくのに、ぞろぞろみんなスミスのいるテーブルに集まる。
「宿舎はここ」
「すでにSITが狙撃の許可を待っています…彼らではなぜだめなのですか?」
高木が至極普通の質問をした。
「背負わせられない」と言うスミスに、佐藤だけははっとした。
この女……。
「理由はそれで十分だ。それで?」とスミスは地図を見る。
「狙撃できるような、前に何もなくて、高い建物……」
スミスはテイムズ川を指差す。「ヘリは出せるか?」「ヘリ?」皆はざわつく。
「まさかヘリから狙撃するつもりですか?」白鳥が一歩前に出た。「待ってください、3キロ以上離れていますよ!?」
「あのな」とスミスは立ち上がり、人差し指を向ける。「日本警察はよほどのことがない限り人間を殺したりはしない。だがな…武器を持ってる。しかもあれは大きさからライフル。向こうは交戦する気が満々なんだよーーんなやつらの、肩とか…足とかだけ撃ってどうすんだよ?」
誰もスミスと目を合わせない。
「心臓を撃っても20秒程度は動ける。その間に?あ?碧斗くんはどうなるんだよ?責任とれんのかよ?亡骸を両親に引き渡す覚悟がお前らにはないくせに!」
「スミス」
「ないくせに誰も殺さないで助けられるなんて、甚だしいんだ!恥を知れよ!日本警察めーー!」
「もういい」風見が立ち上がる。「言われた通りに」「あぁ」と目暮が電話を取る。
「ヘリには風見」と風見を見る。「あと女」と佐藤は見られて睨み返す。「それから…」と白鳥と高木に指をやる。「お前たち」
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コメント
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第27話、読み終わりました。冒頭の鈴木の慌てた入室から一気にスミスと公安の緊張感が走る感じ、すごく好きです。特に「ただの女よ」と前髪を垂らしてはにかむスミスのシーン、あの強さと脆さが同居した表情が頭に焼きつきました。狙撃の是非をめぐる所轄と公安の温度差、そして降谷の「そうだ」という返し——あの一言で彼の覚悟の重さが伝わってきて、ゾクッとしました。続きが気になります。