テラーノベル
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「狙撃対象は定期的に1階に降りてきて食事しますーー」
「時間はそろそろです!」
「了解!」とヘリの中で高木が叫ぶ。出入口を開けているせいで風がひどい。
目の前には腹這いになるスミスが、小さな丸の中心を覗いている。
「ほ、ほんとに…」
「今はそれを信じるしかーー」
「だめだ」とスミス。「は?」全員口にする。
「まずい、誤算だったな。これが邪魔で」とその真ん丸な胸を持ち上げて見せる。男らはみんなさっと目をそらして佐藤は頭を下げた。「うまくうつ伏せられない、これでは照準がズレる……子供の時は平気だったからな…」
「子供のとき?」と佐藤は素直に聞き返す。
「対象!1階に移動!」と通信が入る。
スミスは顎を引いた。
「はしごから狙撃するーー風見!」と風見を見る。「抱いてくれ」「はっ?」男らは全員同じことを考えたのが互いにわかり、互いに目を合わせてそらす。
違う。そういう意味ではない。
「はしごはかなり風で揺れる!」佐藤が言う。「なら下にできるだけ重心をつくれ!」「やるしかない!」白鳥が言った。「名前さん、男性2人でぶらさがればなんとかなりますか?」「なんとかするんだ」とスミスは白鳥を顎でやる。白鳥ははしごを降りていく。
「風見!」とスミスが言うと彼は頷き、降りていく。
「上はわたしが押さえる」佐藤が頷く。「僕も」と高木。
ガチッ、と弾を装填する音に、2人は息を飲んだ。
スミスも降りていき、ぐっと風見に身を寄せて見上げた。「離さないで」その碧い目が言う。
「わたしは銃を構えたら両手を離す。だからーー」
「ああ」風見はさらに腰に深く腕をまわす。「死んでも離さないーー!」
がし、と佐藤がはしごを押さえる為に手を伸ばす。「もっと前に…」ずる!とからだが滑りそうになるのを、後ろから高木がからだを倒してくる。
「大丈夫ーー」高木は頷き、佐藤の手の上からはしごを掴んだ。
「死んでも離しませんーー!」
「高木くんっ」
スミスは長い銃を構える。ぶわ、と風が吹く。「うわあっ」「大丈夫!?」
「大丈夫ーー」
1発ずつでーースミスは息を吐き出す。
「仕留めるーー!」
ロイが走っていくのが見えた。
「大丈夫、今助けてあげるから……碧斗!」
ダン!と銃口が上を向く。次の瞬間にスミスはまた息を吐く。同時に銃口はまた上を向いていた。
火薬のにおいが佐藤に届く。「突入せよ!」という言葉が聞こえ、佐藤はだらりと力を抜いた。
「成田碧斗くんだね?無事です!無事に保護しました!」
「これは…」と通信が聞こえる。「ありえない…」「こめかみに1発ずつ…」「いったい誰なんです?」という声に風見は通信を切る。
「ありがとう」とスミスは下にいる白鳥に言う。白鳥は笑って頷いた。
「あなたたちも」とスミスは上を見上げる。すっ、とあがっていく前に、スミスは風見に口付けた。何事もないようにスミスを上に押す彼に、佐藤と高木はお互いをちらと見て赤くなった。
「おじさんだぁれ?」
千葉はしゃがみこみ、頭を撫でる。
「今、お母さんとお父さんが来るからね…」
「あ!」と碧斗は近づいてくるヘリを指差す。「僕はね、おっきくなったらパイロットになるんだよ!」満面の笑みの彼に、千葉はヘリを見上げる。
「手を…」と開いた入り口から風見が言う。「振っています」
スミスは顎をやった。少し、はにかんでいるように見えた。
風見は勢いよくドアを閉めた。
ヘリポートに着き、高木は佐藤の手を取り降ろす。白鳥が飛び、風見が飛び両手を出す。スミスは素直に脇に手を入れられ下ろしてもらう。
高木はくるくる指を回した。離れていくヘリ。
「よかった」がくり、と高木は首を垂れる。「碧斗くんが無事で」「だけど…」佐藤は今だでかい狙撃用のライフルを持っているスミスを見た。
特殊部隊が使うやつと少し違う気がするし…。
「名前さん」という白鳥に、「あなたは……」と後ろに立つ風見を見ていると、佐藤が動く。
「おや」とスミスは目の前に来た佐藤に首をかしげる。
「…あなたは……背負わせられないと」
ヘリが完全に離れていく。
「そう言ったでしょ」
スミスは顎を引く。
「それは……」
「人を殺す重さは」というスミスに、全員が少し目を開く。
「【男】には無理だーーふふっ…」スミスは高木を見て笑う。「わかるだろ?」
「付き合ってるの?」と佐藤は素直に尋ねて、風見を見た。
「そうだ」と答えるスミスに、風見は驚いたが眉をひそめただけで反応しなかった。「だがーー」と高木を指差す。「お前」「えっ」さらに白鳥も指差す。「お前も…」ふさ、と碧い目にかかる髪が、風で揺れる。
#女主人公
如月 久柚⌛🍊最近復活(?)
3,010
花梨
72,833
「皆……」とスミスはライフルを風見に渡して歩き出す。「わたしの……だんな様、だ……ふふふっ…」
「ーーっ待って!」佐藤は風見とスミスの背中に叫ぶ。
「あなたは……だれなの?名字名前……」
「聞きたいことが山のようにっ!」高木も叫ぶ。
「だれ?」スミスは肩越しに言う。「わたしは【ニトロ】だ……」
「!」
す、と風見の背中に白い手がまわってくる。
「苦痛と安寧をもたらす……そして」だっ、とスミスは走りだし、高木に飛び付く。「わっーー…っ!」口付けられた高木がぎゅっと目を閉じた。
「ただの……【女】だ……」くす。と笑うスミスはばさり、と背中に髪を流して歩き出す。
そう。なんにでもなってやる。もう誰にも、何も背負わせないために。
ハインツが青い帽子の下の唇に弧を描く。
「兵器にも……」ばさ、と髪が揺れスミスは押さえて前を向きなおす。
「メシア(救世主)にもな……」
「はい」降谷は電話越しに病院の窓辺で頷いた。「……わかっています」す、と手を窓のへりにやる。「ですが日本の特殊部隊のライフルでは無理でした。距離が離れすぎて……」
ふと夕焼けが雲から出てくる。
「…もちろんです」ふと目を焼ける赤に向ける。「必ず取り返します…こちらから作った【借り】は……ですが」と降谷は前を向く。
「元々アメリカは我々日本の防衛も担っている……今回は助けたのは外務省の息子ーーある程度……そちらにも動いてもらえるはずですがね……」
切れた電話を見て、ふっ、と1度息を吐く。
風見、と電話が震えて出る。
「無事」と言う言葉にすべて理解して、窓辺に降谷は寄りかかった。「ああ」
「それで…」と風見が何か言いたげにする。
「これは…」と降谷は渡された紙を見て何度もよく見る。
「ごめんね」とスミスは悪気もなさそうに言い、髪をくるくるさせる。
「髪や爪はからだの末端。老廃物が排出されるのに時間がかかるわ。だからある意味」
「証拠としては最高だな…」
風見はその低い声に少し降谷と距離をとる。段々彼から出されていく雰囲気まで周囲を巻き込むような大きくて重いものに変わっていき、風見は足に力を入れる。
「これ」と降谷は風見を肩越しに見て、鑑定書と書かれたそれを出す。すぐ受け取った。
知らない単語が並びに並びに、風見はちら、と目を2人に向ける。
「…オキシトシン」
その欄のグラフの線が高くなっている。
「オキシトシンはね」す、とスミスは降谷の顔を傾ける。「…愛してるものを見ると……脳内で大量に作られる」
降谷は顔をこちらに向けた。「通常は脳内でしか作られない」
「え?」と風見は素直に言う。「え…髪や爪は老廃物を出す器官ですから、脳内の物質は出ませんよね?」「そう。だがーー」降谷はスミスの顔を傾けた。
「オキシトシンの次に出るのは」
スミスは碧い目を降谷から離さない。
「アドレナリン……」
「アドレナリン?あぁ…運動した後とかのすっきりした感じの…?」
「かわいい」ふふ。とスミスが笑うので風見は少し眉をひそめる。
「オキシトシンの量が異常だ」
降谷は立ち直す。
「…つまり?」と風見はいろんな場所を見た。
「他にも、興奮物質を出すものが大量に検出されてる」
「つまり」スミスは腕を組んだ「【変】になるくらいハイになっちゃったの。だから…」肩をすくめる。「ごめんね、って…」
はっ!と風見は降谷を見た。彼は見えない何かを見るように、1点を見たまま動かない。
「でも大丈夫。何も喋ってないわ」
「スミスーー」
「違うだろーー」
「あなたたちのこともーー」
「違うって言ってんだろ!」
怒鳴り声にばり、とした空気が風見に張り付き、ぐっと目を閉じる。
つかつかとスミスの前に行き、ぐっ!と手首を引き上げる。
「…何をされた」
降谷の顔は見えない。スミスは顔をそらす。
「言えぇっ!!」
「ーーっ」スミスは苦しそうに顔をそらし続ける。
「降谷さん!」風見はその手を振り払わせる。
「あぁ、そうか……」手首を撫でるスミスは、見たこともない顔をしていた。弱く、一瞬で崩れ落ちそうなほど脆く。
「……言えないようなことなんだな…」
よろっ、と降谷はして壁に背を預ける。
ずる、とスミスもその場にしゃがみこんで顔を覆う。
「ごめんなさい」
「スミス…」
「ごめんなさいぃっ!」やがてスミスは肩を揺らして泣き出した。
風見はどうしていいかわからず、2人を交互に見た。両者共にそのまま動かない。
だが風見にはわかる。だんだんと肩でいきをしだす降谷が、からだじゅうを怒りに支配されていくのを。
「FBIーー」ぐしゃっ!と前髪を握りしめ、彼ははぁ、はぁ、と息をする。
「くそっ……」
「降谷さん……」
「殺してやる……」
はっ、と風見はようやくスミスの肩を押さえた。
「殺してやるーー…!!」
降谷が思いきり両手を壁に振り下ろす瞬間、風見はぎゅっと目を閉じた。開けたときには、壁はパラパラと破片が落ち、にヒビが入っていた。
コメント
2件
ありがとうございます!
うわ、28話、かなり重い展開でしたね…。スミスの「ニトロ」って自称、そして「ただの女」って台詞がすごく響きました。あの狙撃シーン、胸が邪魔でうつ伏せになれないギャグっぽい導入から一転、風見との距離感や「死んでも離さない」の熱量、最後の降谷さんとのやり取りでスミスの過去の傷がちらっと見えたのが切なかったです。オキシトシンとアドレナリンの異常値、あれ何か重大な伏線ですよね…? 続きがすごく気になります。