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ぱちっ、という効果音が似合う程はっきりと目を開けた。私は木に背を預けて座り込んでいる。
気を失っていたのかと一瞬思ったが、そうでは無いらしい。
私は間違いなく水辺に落ちてきたのに、私が倒れているところは水の音が欠片としてしない。湿り気もない。
なら何処だ、という話になる。私には別世界のように思える。何か、ザワザワとした感触が肌にある。
別に気持ち悪いとかはないのだが、肌に違和感のようなものが付いて離れない。
すると、誰かが近付いてくる音がした。それは私の存在に気付いて、近寄ってきているような音だった。
バレたらヤバい、と反射的に少し足を上げたが、無理に逃げてもどうにもならないと思ってしまって、無意味に体力を使いたくなくて足と体を止めた。
「………。」
そうして私を見付けたのは、巨体に…ランタンの頭を持つ紳士のような服を着た人物だった。体格的に男か。
木の後ろから姿を見せたその人は、こちらを見た。…ような気がする。
目がないからイマイチ分からないけれど、恐らく私の方向を見ている。
「………、……」
なんと呼べばいいか、なんて声をかければいいか分からずに黙ってしまう。
「そこは普通、逃げるところでは」
「私のことご存知なんですか」
ああしまった、と、間違った己を責めた。今の言葉は、この人にとって「は?」となる言葉だ。
それと同時に、頭の片隅で、ぼんやりとこの人の声は男性のものだとも思った。
被せて訂正しなきゃいけないのに。 いや、いきなり言葉を被せるのは失礼か。
「…失礼、どこかでお会いしましたか」
「私みたいな存在について、知ってるのかなって…思って…説明不足で、すみません」
「ほう」
「さっきの言葉から…して、貴方からして私は…変、というか、異端な存在なのかな…と思ったので…変な言葉だったらすみません」
「凡そ合ってますよ」
よいしょ、と私に少し近寄ったランタンの人。敬語…話し方からして、丁寧な、冷静な人だ。けれどあまり物腰が柔らかいわけでもなさそうだな。
この容姿は…というか、頭は…元の世界で言う異形頭、というジャンルに該当するものに近い気がする。
ロンドンとかで街を照らしていそうな、街灯としての役割を果たしていそうなランタン頭のこの人。しかし中の灯りはガス灯ではなく普通の火に見える。
…全く熱くなさそうだ。フライパンに蓋をして加熱すると水滴が落ちるけれど、それとは違う原理なのかなんなのか、水滴のようなものは見えない。
ていうか私、別世界に来ちゃったのか。帰る方法とか探した方がいいのかな。それが普通?
「少しいいですか」
「はい?」
「逃げた方がいいんですか?」
これは大丈夫だろうか。変な質問かもしれないしどうせそうだろうが、私は別世界に来た身なんだし、少しくらい変な言動も許されるかな。
逃げなきゃいけないほど危険な状況なのか、分からない。実はこの人の種族?は、人間を食べる種族で…で、食べられるかもしれないなら逃げた方がいいのかもしれない。
でも、お腹空いてるようにも見えないしなぁ…
不確定要素が多くてどう動いていいのか分からず、座り込んだままだ。
「基本驚いて逃げる方が多かったですね」
「へぇ…」
会話のやり取りも恐らく普通にできる。
…というか、その口ぶりからすると、私みたいな人って結構多いのかな。
「…あの、私ってどうなるんですか」
「あぁ、元の世界に帰る方法なら見つかっていませんよ。発見者に飼われるか施設に入れられるかですが、衰弱死するケースも多いです」
「へぇ…それは、別世界に来た特性上ですか」
「大方、受け入れられないかららしいです」
「成程…」
自殺する人とかも居たんだろうか。駄目だな、私が言うとどうも説得力とかが持つ重みがない。
…この人も、冬の街灯みたいにひんやりしているのだろうか。冬の鉄の匂いがする。触ってみると意外と鉄の感触だったりして。
関係ないことを考えるのは私の悪い癖か。
未練がある、ってことはそれだけ元の世界を愛していたとか…やりたかったことがあるとか…ということなのに。
「私はどうなるんですか?」
「どうしましょうか」
「………。まぁそう簡単には決められませんよね」
「人間を飼いたいとは思っていました。
友人によると感情表現が豊かで、個体差があって面白いと」
「ああ…まぁ、確かに」
「ですが、私の聞いていた人間と貴方は少し違うように思えます」
「でしょうね まぁ…人間関係はあまり広くないです。人間と関わるのは苦手でした」
これは施設ルートかな。まぁいいや。別世界の生活ってどんなものなんだろう。私、何歳で死ぬのかな。
個体差か。私の世界では個人差と言っていたけれど、この人たちからすれば個体差と表現するのが普通なのか。
「ですが却って面白いかなとも思います」
「そうですか」
「どちらでもいいので、貴方の意思を尊重します」
「…っえぇ…」
困ったな。こっちもどっちでもいいし、なんなら私の方がなんにも分からない。決めにくいことこの上ない。
「……分から、ないです…」
「…同じ人間と関わるのが苦手なら、ペットになりますか?そちらの方が楽かと」
「…ご迷惑でなければ…」
「人間は飼いたかったので、構いませんよ」
「感情豊かに振る舞えるよう、頑張ります」
別世界に来るって、普通こんなものだっけ。
普通ってなんだ、いけないいけない。私一人の価値観で普通を決め付けてはいけない、万に一つ、誰かを傷つけては責任を取れない。
…この世界ってどんな世界なんだろう、検討もつかない。
そんなもやもやとした、それぞれに関連性もない、普通であれば考えることもないことを考えながら、立ち上がった。