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第1章
怪物と戦う者は、その過程で自らも怪物にならぬよう気をつけねばならない。深淵を覗き込むとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ──フリードリヒ・ニーチェ
〈0 インタールード壱〉
戦隊ヒーローでなくとも、正義の物語に悪はなくてはならないものだ。
悪意あってこその善意──
それは皮肉のように聞こえるだろう。
だが、ヒーローとはそう言うのものなのだ。
マイナスをゼロに戻す。
不破を正し、世界のバランスを取る。
そういった《波》を起こし、物語を緊張させるのが悪役だ。
つまり、悪役もとい《怪人》をあえて正義と相反するものにするとするならば、それは《分かりやすい悪》だ。
強大なパワーを有し、破壊の限りを尽くす。
手段を選ばず、躊躇なんてしない。
『《迷いの無い悪》が一番恐い。』
──それは、ヒーローにも言えることだろう。
《迷いの無い正義》は、一番優しい。
──だが、あの紺色の制服に、桜を掲げた青年に言わせると、しかしこれは違うらしい。
「あなたの意見は間違っている。しかし、その間違いにだけめを瞑れば、おおむね正解だ」
おおよそ国に忠義を誓う機関とは思えないような台詞を口にしたが、しかし、戯言とも受け取れる紺色の青年の言葉に、俺は納得せざるを得なかった。
「強大なパワーなんて要らないし、正しさなんてのはカンケー無い──そこに必要なのは、どんな悪にも決して屈することのない《最強の意思》だ」
諦めない姿は他者を鼓舞する──
それは、俺の理想の《英雄像》だった。