いる。
確実に何かいる。
俺は自然とそう直感できた。そして何故だか分からないがそれが危険な存在だとは思えなかった。
扉の先にいる【何か】は微動だにせず、こちらを観察していたのだろう。話に夢中だったから気配に気づきにくかったが、今その存在に集中してみると何となくアズゴアとトリエルに似てる感じがする。
「あら…たしかに誰かいるわね…まって、もしかして…アズリエル?」
「確かに…魔力の波長が似てますね」
「でもなんで隠れてるんだろ…?ガスター君なんかした?」
「いや決して何もしておりません」
「…」
「ほんとですってば…」
ガスターはそんなに信用がないのかという顔で大袈裟に肩を竦めて見せた。
アズゴアは冗談だよといいたげな微笑を浮かべている。
アズリエル…ということは相手は王子様ということになる。なら失礼のないようにしなければ…。
俺は1歩アズゴアの方に進み出た。
「あの…ひとまずアズリエル王子にご挨拶をしたいの────」
バンッ!!
その時、突然扉がいきよいよく開いた。
アズリエルが隠れていたであろう扉からか?
そっちの方に視線を移そうとしたが、その前に突然体を思いっきり押され、バランスを崩してしまい床に倒れてしまった。
「────ッッ!!」
バタンッ!
痛い。
いつもだったらこのくらい平気だったのにどうも怪我のせいで身体中が痛いし立ち上がれない。
上半身だけ起こし、視線を押してきた方向へ向けると、アズゴアとトリエルによく似たモンスターがそこにはいた。
だが明らかこちらを警戒してる。なのにおそらく俺の体を押したであろう手は震えていた。
「ニーベル!大丈夫か!」
慌てて駆け寄ってきてくれたガスターによって俺は何とか立ち上がれたが身体中が痛すぎる。どうやらただ押されただけではないらしい。
「平気…です…」
何とか声を絞り出すが正直キツい。
その光景を見ていたアズゴア達は驚き声を上げた。
「アズリエル!!何をしているの!?!?」
「ダッだって!!あいつが父さんと母さんを傷つけようとしたから!!それにキャラが人間は信用出来ないって…」
そう言いながら俺の方を指さす。傷つけるつもりは全くなかったが…彼からはそう見えたらしい。
それにアズゴアは反発する。
「そんなわけないだろう!彼女は傷つける気持ちなんてなかった!ただ、お前に挨拶をしても良いか聞いてきただけだ!」
「え…?挨拶…?人間が???」
「そうですよアズリエル王子…ニーベルは悪い子ではありません。」
「えっえっ?」と言いながら混乱しているアズリエルをアズゴアとガスターは説教気味に説明していた。
トリエルは俺をガスターから一時引き離し、体のあちこちを触り外傷がないか調べていた。
なんという過保護…いや、これが普通なのか?普通の親に出会ったことがないため分からないが…。
何となく自分の体を見てみると、外傷は無い。おそらく打撲かなんかだと思うが…それにしたってこの体の痛みはおかしいだろう。いくら満身創痍の俺でも打撲なんかで立てなくなるほど弱ってない。
暫く見つめられていると、突然立ち上がった。
「顔色がかなり悪いわ…待っててねニーベルさん!いま回復薬を持ってくるから!」
そう言い放ったかと思いきや、トリエルは直ぐにアズリエルがでてきた扉に向かった。
俺は咄嗟にそれを静止した。薬ぐらい場所さえ聞けば探しに行ける。だから大丈夫だと言った。
トリエルはその言動に驚いたのか唖然としていた。
なにかまずいことでもしてしまっただろうか?
不安になっているとトリエルは怒ったような表情を見せた。
「ニーベルさん??その怪我で、しかも初めて城に来たというのに回復薬を自分で持ってくるですってぇ???」
「それが…当たり前じゃ…?」
そう言い返すとトリエルはさっきとは違った表情になった。
自分の不注意で怪我をしたのだから自分でなんとかするのは普通じゃないのか?まぁ、城に始めてきた点については何も反論出来ないが……。
俺が不思議そうにトリエルを見つめると、トリエルは俺の目を真っ直ぐ見つめた。そして言った。
「───誰かを頼ってもいいのよ。」
さっきの様子とは裏腹に、トリエルは酷く悲しそうだった。いや、憐れんでいるようにも見えた。
「頼ってもいい」だなんて今まで言われたこと───いや、1度だけあるな。数年前に行方不明になった名前も知らない子が言ってくれた。
だが、どう頼ればいい?俺は今まで一人で生きてきた、頼り方なんて知らない。
俺の戸惑いを感じ取ったのかトリエルはにこやかに
「その顔は…頼り方が分からないって顔ね」
と、フフッっと笑った。
図星すぎて何も言えない。というなぜ分かるんだ。
トリエルは両手を腰にかけ、
「なら、まずはここで大人しく待っていること!決して無理をしない!そして…アズリエルに謝ってもらいなさい!」
と言い放った。
最初の2つまではいい。それなら簡単だ。だが……最後のやつはなんだ?謝ってもらう?誰が?俺に?
思わず、結構です───と言う前にアズリエルがアズゴアたちの説教をかき消すほどの驚きの声を上げた。
「ええ!?なんで人間なんかに───」
「……」
トリエルに謝れと言われて思わず反抗してしまったのだろう。しかしトリエルの顔を見たアズリエルは直ぐに後悔したはずだ。傍から見てもわかる。アズリエルの顔が恐怖に染ったからだ。詳しく言えば、トリエルの顔を見てから。
「あ・や・ま・る・わ・よ・ね???」
顔はにこやかなのに、口から発する1文字1文字に何故か圧を感じる。優しい人ほど怒ると怖いという言葉がまさにピッタリだなと心の中で思う。
アズリエルが「コクンッ…」と渋々頷くと、さっきまでの圧が嘘のように消え、トリエルはいつも通りのにこやかな表情を取り戻した。
そして扉の方に再び向き直し、
「じゃ!私はニーベルさんのために薬を持ってくるから!!…アズリエル?ちゃぁんと謝るのよ?」
とやや圧をかけながら早足で移動し始めた時、
ガチャ…
と扉が開いた。そして「回復薬ならここにあるよ」という声もした。
視線をそちらに移すと、入ってきたのはアズリエルと同じ服装の人間。片手には何やら怪しげな液体が入った小瓶を握っていた。恐らくそれが回復薬なのだろう。
トリエルは立ち止まり、その人間に駆け寄った。
「まぁ!キャラ!回復薬を持ってきてくれたの?助かったわ〜!さすがわが子ね!!」
頭を撫でると、照れたのか少し顔が下に傾いた。一瞬目があった気がしたが…気のせいか?
というか、おかしくないか?なぜ回復薬が必要なことを知っていた?ここにいるもの以外知らないはずなのに…。一体…。
俺が凝視していると、トリエルが思い出したかのように回復薬を受け取り俺の方に駆け寄ってきた。
「はい!これ飲んでみて!」
にこにこしながら渡してきた小瓶は明らか薬ではないような色をしていた。少なくとも、普通の人間が飲める代物ではない気がする。普通青色の回復薬なんてあるのか?いやここにあるな。うん。
俺は当然ちゃ当然の反応で飲むのを躊躇ったが、トリエルのキラキラした目を見た途端その迷いは一瞬で消えた。悪意がないということは目を見ればわかった。なら、これは安全なはず……だ。ここは腹を括るしかない。
勇気を出して飲んでみると、色の割にはほんのり果物のような香りがした。おそらく飲みやすくするためだろう。そのおかげか不思議と安心もできた。
そして、身体中が痛かったはずなのにその痛みも気づけば消えていた。本当に効き目が早い、早すぎる。どうやったらこんなものが作れるんだ?
「凄いだろう?私が作ったんだよ。」
ガスターはやや自慢げにそう言った。だが、これはも本当に凄い。自慢げに言われても反論できないほど。
「さぁ、回復できたみたいだし、次は……アズリエル?」
「うっ…え、えと…」
「まさかこのまま逃げられると思ってたんじゃないわよね?」
「信じてますよ?アズリエル王子」
3人に圧をかけられたアズリエルはやや半泣きで俺の前に進み出てきた。そして、口を開きかけた時────。
「ちょっと待ってください。」
俺がそれをさえぎった。どう考えてもおかしかった。
アズリエルが実行犯なのは事実。だが、キャラがどうして回復薬が必要だということに気づいていた件については別だ。そしてアズリエルの不満そうな顔…まるで、「なんで僕だけ怒られるんだ」と言いたげだ。
「もしかして…」
キャラの方を見ると、目が合った。今回はしっかりと。
そして少し笑っている気がした。嘲笑っているかのように口を歪ませていた。
そうだ。こいつだ。キャラがアズリエルに変な入れ知恵をしたんだ。そして自分だけ助かろうとしてるのか?あたかも自分が偶然回復薬を持ってきていてそれを使って俺を救ったと見せかけるのか?
キャラはしばらく俺と見つめあっていると、やがて視線をずらしアズリエルの方を向いた。
アズリエルは何故か気まずそうに目を逸らした。裏切られたことに怒ってるのか?それともそれほどキャラが恐ろしいのか?
自然とその空間は静寂に満ちていた。俺がなぜ謝罪を停めたのか聞くものはいなかった。この異様な雰囲気に気づいているからだろう。
だが、その静寂を最初に破ったのはキャラだった。
「…私、あの人間とはなしてもいい?あとアズリエルとも」
その発言がよほど驚きだったんだろう。それを聞いた俺とキャラを除いた4人は唖然としていた。
「でも…アズリエルがまだ謝ってないわ。どうして停めたのかわからないけど、ニーベルさん、庇う必要はないのよ?」
トリエルは困ったような表情を浮かべながら言ってきた。
庇ってる気なんてない。ただ、1人だけ責任から逃れようとしてる奴がいるのが気に食わない。それだけだった。
「それは…大丈夫、私が謝らせるから。」
謝らせる?よく言うな。私は関係ないと言いたいのか?それを伝えるために俺と話したいのか?
アズゴアは少し考えたあと、行ってきていいよと言った。トリエルやガスターは少し腑に落ちない感じだったが。
俺としては謝罪も弁明も聞きたくない。だが、立場上相手が上。逆らわずにしたがっていた方がいいんだろう。卑怯者にヘコヘコするのは俺の性分に合わないが。
キャラは着いてきてといい扉の方に向かった。それに続きアズリエルも向かう。俺も2人に置いてかれないスピードで追いかけた。
扉から廊下に出るとキャラはアズリエルにコソコソ耳打ちをしていた。何を聞いたのかは聞こえなかったが、アズリエルの顔色はまるで病人のように青白くなり、俺に向かって謝ってきた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
何に怯えているのか分からないが、明らか様子が変わっていた。またなにかキャラに吹き込まれたのか?
その考えを読み取ったのか、アズリエルは「謝るから父さんと母さんを傷つけないで!」と言い放った。訳が分からない。なぜ俺があの二人を傷つけると思ったんだ?
俺がもう大丈夫ですのでと言ってもアズリエルは謝罪を辞めなかった。彼にとって2人は本当に大切な存在なのだろう。別にそこまではいいが…もしこの会話を誰かに聞かれていたら、おれは王と王妃を傷つけようとした不届き者という認識になってしまう。…まさかそれを狙ったのか?
じろりとキャラを見ると、キャラは笑いを堪えているように見えた。何がそんなにおかしいんだ。
冷ややかな視線を送っていると、キャラはそれに気づいたのか今度は声に出して笑いだした。
「あははは!!な、何信じてるんだよ…ククッ…はは!」
それを聞いたアズリエルはさっきと打って変わって顔を真っ赤にしながらキャラを怒鳴った。
「え!?まさか嘘だったの!?ニーベルに謝らないと父さんたちが傷付くって!!」
「フフッ…正直いうと、もう傷ついてると思うよ?だって、大事な客人を怪我させたんだもの。あの温厚なアズリエルが、ね?」
それに何も言えなくなったのかアズリエルは黙った。
「というか…この人間にできるはずないでしょ?こんな奴にそんな勇気ないだろうからね」
俺を嘲笑うかのようにキャラは笑いながら言った。
アズリエルの次は俺かと思いながら、「まだ会って数十分の相手によくそんなことが言えますね、王女様。王子に変な入れ知恵をし、俺に攻撃させたのもあなたの仕業でしょう?」
と言い返した。
喧嘩は避けたいが、バカにされたままでいるのもいやだ。だいたい、勇気とかどうこうの前に傷つけること自体おかしいってことに気づかないのかコイツ。そんな勇気あるなら俺だったらもっとほかのことに使う。
俺は完全に冷めた目で見ると、キャラはまたもや笑いだした。これに関してはアズリエルも何に対して笑ったのか分からず、俺と一緒にぽかんとしていた。
「数十分?まさか…忘れたの?ニーベル。私はニーベルと会ったことあるよ。数ヶ月前まで、一緒に楽しくやっていたのに悲しいなぁ〜忘れるなんてね」
「…は?」
俺は咄嗟にそう答えてしまった。だが無理もないだろう。なんせ、あったことないはずのやつにいきなり「会ったことあるヨ!」なんて言われてそう易々と「そんなんダ!ごめんねわすれてたヨ!」と言い返せるバカはいない。
だが、確かに既視感はあった。誰かに似ているなと思ってはいた。だが、俺にこいつのような知り合いはいたか?いや……いや?
「まさか…」
どうして忘れていたんだ。いや、覚えていた。だけどあの人は数ヶ月前に消えた。だから忘れようとした。なのに…目の前にいる人は…。
「まさか、キャラが…俺を昔助けてくれたあの人…なのか?」
【第7話へ続く】
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すみません馬鹿みたいに長くなってしまって💦
久しぶりに熱が入ってしまってこうなりました💧
あと恐らく3話〜4話くらい続くと思うので…それまでどうかお付き合いいただけたら幸いです!
短編とかも投稿しようかなーとか思い始めてるので更新頻度は保証できませんが…()
次回も読んでいただけたら嬉しいです!🙇🏻♀️´-
コメント
5件
続きが…気になるッ!! そして、お疲れ様( ˙꒳˙ )꜆🍵