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「取り敢えず、行くぞ」
「何処へ?」
「仕事だ」
「仕事·····」
普通の人との会話なら、はいそうですかと頷けるが、相手がマフィア–悲しい事に、今は自分もそうなってしまったが–なら話は別だ。しかも、確か此の人、幹部とかだった気がする。
一体どんな残虐な仕事が待っているんだか、恐ろしい。
まあ、私が云えた事ではないんだけど。
「·····玲沙、好きな奴とかいるか」
「·····随分と突然ですね。女の子でも善ければいますよ」
「は?手前、そういう趣味かよっ!?嘘だろ?」
「勘違いしないでください。らぶ では無く、らいく です」
中也さんの反応が、何だか余りにも驚きすぎているような気がして、先刻の太宰さんの言葉を思い出した。
若しかして本当なのだろうかと思い。少し揺さぶってみようかなという、云ってしまえば好奇心という奴だ。
「と云うより·····もしそうだとしたら、何か問題でも有るんですか?」
「っ。ねえよ、そんなの」
顔を逸らされた。此れは益々怪しい。
「本当に?」
「一寸気になっただけだ」
自分で自分を可愛いなどと思った事は無いが、事務所の皆には、黙っていれば美人と云われていた為、見た目だけは善いらしい。
と云う訳だから、太宰さんの云っていた事が本当だとすれば、可能性が有るのは、一目惚れと云う奴だけだ。
「·····本当に、私が女の子を好きでも問題な」
云い終わらない裡に、腕を引かれた。
其れ以上は、言葉を紡げなかった。
気付けば至近距離に中也さんの顔が在って。
唇を塞がれていると理解するのには時間が掛かった。
「一目見た時に、惚れた」
「は?!な、何して·····っ!」
一瞬、頭が真っ白になった。何も考えず、感情に任せて返事をしてしまいそうになった。単純に嬉しかった。私も、先刻貴方の目に心を奪われました、と云いたかった。
然し、私の中の別の感情が勝ったらしい。
努めて冷静に、私は云った。
「·····御免なさい。私、一目惚れしてしまった人がいるんです」
私は意地悪かもしれない。
「太宰さんと云う方」
彼の困った顔や、悔しそうな顔も見たいと思ってしまった。