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「振られちゃったね」
彩寧さんに声をかけられたけど、まだ呆然としていて返事ができない。
「君は誠実な人だね。陸だったら振られた瞬間に、違う女をもう口説いてると思う」
誠実な男なら彼女を突き放すような態度は取らなかったと思う。でも、四人でセックスしただの行為中の動画も撮らせただのと一度に聞かされて、すぐに許すという判断はできなかった。
「今すぐ彼氏になってなんて言わない。でも話くらい聞いてほしいな」
甘えた声でそう言われて断れなかった僕は確かに優柔不断な男なのだろう。
ちょうどお昼どき。彩寧さんの行きつけのカフェに移動した。
「いつも一人で来て一人でさびしく食べてた。今日は本当にうれしいよ」
彩寧さんはクリームパスタを、僕はスープカレーを注文した。
「私、カレー作るの好きだよ。スープカレーが好きなの?」
「なんとなく温かいものが食べたくなって……」
「ナツメ君、突然振られて心が冷え切っちゃったんだね。ごめんね。野暮な質問して」
彩寧さんはハッとしたように、
「年下みたいだから君付けで呼んじゃったけど、君が嫌ならさん付けで呼ぶよ」
「君付けで大丈夫です」
彼女には呼び捨てにされていた。それを思えば君付けでも大昇格だ。
聞かれたからフルネームを漢字で教えた。
「夏梅君のことが好きだから、梅まで好きになりそう。夏バテ防止にもなるそうだから、今日から毎日梅干しを食べようかな」
女子に好きだと言われたのは生まれて初めてだから心臓がバクバク言っている。彼女はトラウマのせいにしていまだに一度も言ってくれない。陸との交際がトラウマになっているのは彩寧さんも同じはず。どうせ恋人にするなら、好きだと言ってくれない人より言ってくれる人の方がいいに決まっている。