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鷹槻れん

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鷹槻れん

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#恋愛
水無月 京
1,300
#オフィスラブ
草原草原

1,286
椅子はリクライニングができ、バックポケットや肘掛けが備わっている。開くだけで簡単に組み立てられるのでストレスなく扱えるとキャンパーから高評価を得ていてロングセラー商品になっている。
バッグに収納されていた中身を取り出すと、ローテーブルはロール式天板と折りたたみ式フレームに分かれていて、シンプルな木製のデザインだ。
フレームを広げた上に天板を乗せて固定をするだけなので、彼は慣れた手つきであっという間にセッティングを終えた。
「車の後ろはこんなふうになっているんですね」
あとで見てみたらいいよと言われていたのでバックドア側からそっと中をうかがうと、足を伸ばして横になれそうなネイビー色のフラットなソファーがあった。
キャビネットの上にはランタンやバーナー、調理器具が置かれているのが見える。
「これ、乗せっぱなしにしてたけど邪魔だよな」
私は笑みをたたえつつ即座に首を横に振った。彼が顔をしかめて指を差したのは、車内の頭上に設置されているサーフボードのことだ。
「専務とサーフィンに行ってらっしゃるんですよね」
私の言葉に彼は小さくうなずき、「それも知ってるのか」と苦笑いを浮かべる。
「朔也は本当にサーフィンが好きだからよく付き合わされるんだよ。あと、冬はスノーボードにも」
「おふたりとも絵になりそうですね。カッコいいんだろうなぁ」
「アクティブすぎる、って伊地知さんにはあきれられてるけど」
部長なら言いそうだなと容易に想像がついて、思わず声に出してアハハと笑ってしまう。
そんな私の様子を見て、彼が「笑ってくれてよかった」と小声でつぶやいた。
「え?」
「なんでもない」
どういう意味なのか気になって尋ねてみたけれど、彼は答えることなく車の中から必要なものを外に出すなどして作業の手を止めなかった。
「コーヒーを淹れよう。自然の中で飲むとうまいんだ」
とても機嫌がよさそうな彼の顔を見られただけで、私は自然と幸せな気持ちになった。
この人にはきっと、他人を幸せにする力が備わっている。そばにいるだけで周りを笑顔にできる人なのだと思う。
ふたり分のお湯を沸かしながら、彼はアウトドア用のコーヒーミルに豆を入れ、手動でぐるぐると回して挽いている。
インスタントコーヒーだろうと予想していたけれど、実際にはずいぶんと本格的だった。
「すごくおいしいです。ありがとうございます」
コーヒー特有のかぐわしい香りと味を楽しみ、身も心も癒された。
たしかに彼が言ったとおり、のんびりとしながら外で飲むから余計においしく感じるのかもしれない。椅子に座っているだけなのに優雅な気分だ。
「川の水、綺麗ですね」
「ここは上流だからな。近くで見てみる?」
笑顔でうなずいて椅子から立ち上がり、小さな石がごろごろとしている河川敷を歩いて川のそばへ赴く。
流れている水は驚くほど透明度が高くて、まさに山紫水明だ。夏は足を着けたら冷たくて気持ちよさそう。
「魚もいるんですよね?」
私のあとを追ってやってきた彼へ上半身だけ振り返って尋ねると、コクリとうなずいてくれた。
「渓流釣りは私はやったことがないけど、すごく楽しそう」
「それ、うちのじいさんの前では言わないほうがいい。絶対に一緒に行こうって誘われるから」
「よろこんで行きますよ」
辰巳さんが満面の笑みで手招きをする姿を想像したら、なんだかほっこりとした気持ちになった。
やっぱりアウトドアは心が躍る。それを実感しながら働けている今の環境に感謝するのを忘れないでいたい。
「それなら俺とふたりで行こう。釣りでもバーベキューでも」
「え?」
「嫌だった?」
好きな男性に誘われて嫌なわけがない。私はあれこれ考えるよりも先に首をブンブンと横に振って否定をした。
半分冗談で言ったのか、彼が私の反応を見ながら楽しそうに笑っている。
「じいさんたちが画策したせいで見合いさせられたような感じだったけど、俺は君と会社以外で繋がれてよかったと思ってる」
「私も、です」
ある意味祖父たちのおかげで、雲の上の存在だった彼とこうして出かけることができているのだ。
強引に引き合わされた形だったものの、今となっては私もふたりに感謝している。彼も同じ気持ちでいてくれているようでうれしい。
「“水清ければ月宿る”っていうことわざ、知ってる?」
「……いえ」
「水が澄んでいれば月がきれいに映るように、心に汚れがない人には神仏の恵みがあるっていう例えらしい。この川の流れを見ていたら、まさに心の綺麗な君のことだなって思った」
なんて素敵な言葉を紡ぐ人なのだろうと、胸がキュンとして仕方がない。この感動を、ずっと頭の中に記憶しておきたい。
「ありがとうございます。過大評価されてる気がしますけど……」
「君はとても真っすぐで、俺にはキラキラして見える」
うれしくてぼうっとしていたら、不意に彼と視線が交錯した。
あわてて目を逸らした途端、彼が私の腕に触れ、その行為に驚いてそのまま視線を戻してしまった。
「目を逸らすな」
腕を引き寄せられて、ふたりの距離がぐっと近くなる。
そう意識したら、これ以上ないくらいに痛いほど心臓がドキドキと鼓動した。
「これ以上、どうやって我慢すればいいんだろうな」
低くこぼれたその声に、息が止まる。
「……え?」
「君のこと、本気で好きになってる」
「あの……」
目力のある瞳で射貫かれる中、蚊の鳴くような小さな声を出した。
だけどそのまま、ゆっくりと彼の端正な顔が近づいてきて唇と唇が重なる。
逃げなきゃいけないのに、どうしても目を逸らせなかった。
ふわふわした状態で心を奪われて……こんなに幸せなキスは生まれて初めてだ。
どうしてキスをされたのかはわからない。
だけど神様がくれたプレゼントだと思って、この幸せを一秒でも長くかみしめていたい。
コメント
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わあ、ついに来たね…!川辺で「水清ければ月宿る」なんて言葉をかける彼、素敵すぎるよ。しかも「これ以上どうやって我慢すればいいんだろう」からキスに至る流れ、こっちまでドキドキが止まらなかった。お見合いから自然に育ってきた関係が、こうして実る瞬間に立ち会えて本当に嬉しい。ふたりの距離がじわじわ縮まっていく過程が丁寧に描かれていて、読んでいて心が温かくなった。良いエピソードをありがとう!