「おかしいなあ、完璧なアリバイだと思ったんですけどね。
吉備津神社に行ったと見せかけて、備中国総社宮の回廊で写真を撮り、犯罪を犯す。
バッチリじゃないですか」
「……いや、それだとお前が犯人だよな」
仕組まれた壮大なトリックに引っかかったんじゃなかったのか、と倫太郎に言われてしまう。
あのあと写真を遡って見たら、ずばり吉備津神社と書かれた場所で写真を撮っていた。
「なんのトリックもアリバイもなかったですね~」
「単にお前が何処に行ったのかも覚えてないマヌケだって話だろ」
と境内に入ってもまだ罵られながら、参拝する。
なんだろう。
ご利益が感じられないんだが……と思いながら歩いていると、問題の長い回廊が見えてきた。
「ほう。
これが事件の起こった回廊か」
と皮肉を言いながら、倫太郎が回廊に立つ。
黒いコート姿で倫太郎が回廊に立つと妙に様になる。
それこそ、ミステリー映画か二時間サスペンスのワンシーンのようだ。
うーむ。
もうちょっと温厚なら、確かに申し分のない人なんだが。
温厚な社長とか、逆に不気味で落ち着かないしな、と思いながら、回廊を歩いて、鳴釜神事のあるお釜殿を見学に行った。
祈祷は二時までに頼まないといけないので、今日はもう無理だった。
外から建物だけ見ながら、冨樫が言ってくる。
「……鳴釜神事か。
自分の耳で聞いて、心のうちで判断するものらしいですね。
ちょっと曖昧な気もしますが。
当たるんですかね、本当に」
そのなにか物思うような顔に、壱花は、ハッとする。
もしや、冨樫さん、お父さんに会えるかどうか占いたいとか?
だが、振り返った冨樫は即行、壱花を睨んできた。
「なんだ、その変に思いやりに満ちた視線は。
うっとうしい」
そこに、さっさと先に進んでいた倫太郎が振り返り、たたみかけるように言ってくる。
「おい、いつまで見てるんだ。
外観だけ眺めててもしょうがないだろう。
温泉は何処だ、入りにいこう。
時間がないぞ、さっさとしろ」
あの~、二人もいて、二人ともドSってどういうことなんですか?
片方やさしいとかないんですか……。
などと考えている間にも、軽く見て歩いただけで満足したらしい、いまいち情緒のない倫太郎に急かされ、壱花たちは追い立てられるように早足で境内を駆け抜ける。
そのまま近くにある大きな温泉施設へと向かった。
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