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「あ、そうか。
私、ひとりなんですね」
と壱花はたどり着いた温泉施設の受付で思わず言っていた。
今まで温泉に来るときは大抵、誰か女の子が一緒だったので、ひとりで入るのは初めてだった。
「なんだ、俺たちと入りたいのか?」
と真面目な顔で倫太郎が訊いてくる。
「そうか。
お前が寂しいのなら、家族風呂を借りてやろう」
とロクでもないことを言い出したが、幸いなことに家族風呂は此処にはなかった。
ホッとする壱花の横で、プランの表を見ながら冨樫が言い出す。
「社長、朝までプランとかありますよ。
仮眠室で寝るんですかね。
いいですね。
温泉出て、そのまま仮眠」
いやいや、仕事はどうすんですか、と思ったが、彼らはもう、くつろぎ切っているようだった。
そのあと、男女に分かれ、ちょっとヒリヒリするという薬湯に入る。
広くていい気持ちだなーと思いながら、壱花は思い出していた。
祖母の家のことを。
……まさかあんなに周りがあやかしまみれだったとは。
七郎さんまで、と思った壱花は、そこで、ふと気づいた。
そういえば、美園さんもあんまり年をとらないな、と。
自分が幼かった頃から、ほとんど変わっていないように見える。
もともと元気なおばさんだからか、あまり違和感なかったが、もしかして……。
「いや、私、全然、ヒリヒリしなかったんですけど……」
と休憩室から出て、土産物を見ている二人のところに行って壱花が言うと、
「さすが、何処までも鈍いな」
と倫太郎に言われてしまった。
そのあと、漫画コーナーで漫画を読んだり、喫茶でビールを一杯やったりしながら、まったり過ごす。
「いかんな。
もう戻らねば。
このままぐだぐだしてしまいそうだ……」
と倫太郎が座り心地のいい椅子から身を起こして言い出した。
「ほんとですね。
ああでも、なんだか帰りたくないです。
そういえば、仮眠室とかで横になったりしなくてよかったんですか?」
と訊いてみたが、
「……仮眠室は男女別だろ。
お前、ひとりじゃ寂しいんだろうが」
と倫太郎が言ってくる。
冨樫もそう思って、一緒にいてくれたようだ。
「い、いや、大丈夫ですよ。
どうぞおやすみくださいっ」
と壱花は言ったが、
「どうせもうおやすみしているような時間はない。
ホテルに戻ろう。
千代子さんに買う最中も探さないといけないしな」
と倫太郎は言う。
「……なにからなにまですみません。
あの、そういえば、明日もし、おばあちゃんとこ行けたら、ちょっと確かめたいことがあるんですよ。
いや、どうやって確かめたらいいのかもわからないんですけどね」
そこで、壱花はようやく、美園があやかしではないかという疑惑を口にした。
「まあ、わからないですけどね。
ただの元気のいいおばちゃんかも。
あ、おばちゃんとか言ってるの、美園さんに聞かれたら殴られますけど」
倫太郎は、少し考え、
「まあ、その可能性もあるな。
ってことは、あれだな。
お前は、やはり、あやかし駄菓子屋で働く運命にあったということだな」
と言い出す。
何故ですか……。
「だって、お前の名前、あやかしが付けたわけだろう?」
「ああ、それで、化け化けなんて名前になったんですね」
と冨樫が倫太郎の言葉に頷いたが。
「いやいやいやっ。
だから、化け化けじゃなくて、花花ですよねーっ」
と壱花は訴える。
男二人はまるで聞いておらず、
「さっ、行くか」
と立ち上がってしまったが。