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「……ねえ芥川、さっきから思ってたんだけど」
敦が、肩を寄せ合うほど至近距離にいる芥川の顔をじっと見つめる。
「なんだ。その薄ら笑いは。……貴様の脳を羅生門で穿つぞ」
「いや、君、睫毛(まつげ)長いよね」
「…………は?」
芥川の思考が停止した。数秒の沈黙の後、彼の顔がかつてないほど真っ赤に染まる。怒りか、困惑か、あるいはその両方か。
「貴様……! 死にたいのか! この状況で何を……!」
「だって暇なんだもん! 他に見るものないし! あと、君の外套、近くで見ると意外と肌触りいいよね、これ高いやつでしょ」
「触るな! 黒獣ッ!!」
狭い空間で「黒獣」が暴れ、シェルターが激しく揺れる。 「ちょ、危ないって! 暴れたら酸素減るから! 落ち着け、芥川!……あ、痛い! 尻尾踏んだ!」
その時。 ガコン、という重々しい音と共に、シェルターのハッチが外側から無理やりこじ開けられた。
「やあ、仲良しコンビの生存確認に来たよ。……おや?」
光の中に立っていたのは、包帯を巻いた見慣れた男、太宰治だった。 太宰の目に入ったのは、狭い空間でもつれ合い、敦の尻尾が芥川の首に巻き付き、芥川が敦の頬をわし掴みにしているという、なんとも形容しがたい惨状だった。
「……二人とも。そんなに狭いところで愛を育んでいたのかい?」
「「違います!!(断じて!!)」」
二人は弾かれたように飛び出し、左右に大きく距離を取った。 敦はぜえぜえと肩で息をし、芥川は乱れた外套を必死に整えながら、地面の一点を見つめて固まっている。
「いいコンビネーションだ。まさに『二人ぼっち』の結束力だね。ねえ、中也?」
太宰が背後を振り返ると、そこには呆れ果てた顔の中原中也が立っていた。
「……手ェ貸して損したぜ。手前ら、そのまま溶接してくっつけてやりゃ良かったな」
「中也さんまで! 違うんです、これは不可抗力で!」
必死に弁明する敦と、殺気すら忘れて真っ白になっている芥川。 ヨコハマの静かな夜明けは、二人の絶叫と、太宰の楽しげな笑い声によって、賑やかに幕を閉じたのだった。