「ねえ、すいちゃんは幽霊って信じるタイプ?」
放課後、燃え盛る夕日に照らされた教室に目の前の白髪の彼女がそんな事を口走る。幽霊?急にそんな事言われても…って話。そもそもすいちゃん幽霊とか心霊系は嫌いだし……。
「実はこの校舎……出るんですよお!音楽室に!!」
「え……あ、うん……。」
「えっ、反応薄くないですか?」
「いやあ…だってさあ。それっていつもの”噂”なんでしょ?」
この学校はそういう”噂”で持ちきり。学校怪談の定番、七不思議のひとつのトイレの花子さんとか、放課後のベートーヴェンとか。今回の噂は『放課後の幽霊さん』って言う話題。
「いやいや!噂止まりじゃないですよ!見た人だって居ますし……。」
「ほんとに見たの〜?嘘じゃなくて?」
「ほんとですって!じゃあ今から行きましょうよ!」
「ええ!?嫌だよ怖いし。すいちゃんもう帰りたい〜!」
「少しだけ、少しだけですって!!白上も行きますから。」
「えー…じゃあ少しだけね。」
「やったー!!行きましょ行きましょ!」
少しの好奇心が見たいと言っていた為、仕方なく提案に乗っては音楽室へと向かう。放課後の学校の雰囲気って静かでなんか怖いなあとか思ったり、階段の登る音すらも広い校舎に響いてて。まあどうせ居ないでしょ。
「失礼しま〜す!!」
「失礼します。」
ノリノリのフブさんを横目にちょっと怯えた様子で部屋を見渡すが、人影すら見当たらない。やっぱり嘘じゃん、この噂。噂は噂だなあ。
「んー、誰も居ないですね。嘘だったのかな?」
「そりゃあ噂だし。幽霊なんて出るわけないじゃん。」
「んー…見た人の話によっては、桜色の髪に鈴の髪飾りがあったらしいですよ。」
「へー。作り話とかじゃない?」
「まあそうなんですかね……さて、帰りますかあ。」
「期待して損したわー……。」
「あ、すいちゃんやっぱり期待してた?w」
「まあ…そりゃちょっとは気になるでしょ!!w」
「ですよねぇ〜 w」
そんな話をしながら教室を出ようとする。
『チリンチリーン……』
「……ん?」
「どうしました〜?」
「なんでもない……よ。行こいこ!」
「えぇ、気になるんですけど!!w」
「何でもないって〜 w」
幻聴か?フブさんには聞こえなかったみたいだし。でもあの鈴の音…。
“鈴の髪飾りがあったらしいですよ”
「……まさか、ね。あはは…。」
幻聴だと思いたい。そう音楽室の扉を閉めては、扉の小窓から部屋の様子が見えた。
……誰かの、桜色の髪の毛のようなものがちらりと。一瞬だけ、視界に入った。
「!……。」
あれはまさか…そう思えば背筋が凍る。……早く帰ろう。足早に階段を降りては学校から出て、それぞれ帰路に着いた。
「失礼しまーす。 」
あの件から数日。放課後に先生に呼ばれ職員室に入ると、音楽室のピアノを点検して欲しい、との事だった。やって欲しい、と申し訳なさそうに頼まれてしまえば嫌でも断れない。
「クッソ、あの先生……ピアノの不具合なんてどこにもないじゃん……!」
真面目に来て点検した私が馬鹿だった、と頭を抱え軽く後悔していれば、不意に後ろに気配を感じた。
「?……気のせい、かな…。」
「ねえ、何してるの。」
「ひぃっ!?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまえば恥ずかしくなる。声がした方を振り向けば、1人の生徒が立っていた。
けれど、どこか見た事があるような、そんな気がした。思い出そうとしていれば声をかけられる。
「……そのピアノの点検?どこにも異常なさそうに見えるけど…。」
「イヤそれは私も思ったよ。…ってか、えーっと……誰?君。」
「……当ててみてよ。」
可愛らしい声でそう言われ、顔を見ると綺麗な翡翠の瞳はこちらを映していた。目の前の彼女はふっと笑みを零して。窓を開けているせいか、秋の風が入ってきては窓際のカーテンと彼女の桜色の髪を揺らす。
「いやあ、そう言われましてもお……。」
「ふふ、ごめんごめん。人を揶揄うのって楽しくって、ね。」
また笑みを浮かべた彼女は、先程よりも頬が緩んでいて。くすくすと笑っている様を見れば遊ばれているんだと自覚する。
「あはは……。」
そんな乾いた笑いしか出来ないことに罪悪感を覚えつつ、再度名前を聞こうとすれば記憶が掘り起こされる。
桜色の髪の毛、翡翠の瞳、鈴の髪飾り…… どこかの噂話として聞いた、そんな特徴。
「……ねえ、あのさ…あなたって、」
「ねえ星街さん、だよね。」
「っ……、」
「みこはみこだよ。さくらみこ。この学園の噂のヒト。いや、噂のヒトならざる者、言わば幽霊。」
「……で、噂の幽霊さんが、何の用で?」
「星街さんのこと気に入ったの。だからさ、毎日昼休みと放課後にみこの為に、話しかけに来てよ。」
「っええ、はあ、?何で……」
「とりあえず、明日からよろしくにぇ。」
そう言い終えた彼女を見ては強い風が吹いた。目を開ければ先程の事が嘘だったかの様に、目の前の彼女はもう居なかった。
「……これまた面倒な事で。」
静かな音楽室にぽつりと零されたその独り言は、教室の中へも入ってくる秋の風に攫われて消えた。
コメント
7件
考察が出来てとても良き…幽霊系すごく好き。物語作るの上手すぎ!!!
初コメ失礼します💬 いくつか物語を見させてもらったんですけど、全部ものすごく素敵な作品すぎて…😭💓 淡い儚い感じ好きです💕mktの謎少女感が良きすぎます…🌸👻
笑みが溢れて家の水道止まった事実が一瞬吹き飛んだ