「おはよう」の声が飛び交う中で、私は一人、口をつぐんで、下をむき続ける。
だって私は喋れないからーーーーー
私は失語症で、声が出なかったり、うまく言葉が発音できない。
もちろん生まれつきじゃない。
小さい頃、事故で頭を怪我した時から、うまく声が出ない。
出したくもない。
こんな私なんか、声すら必要ないのだから。
桜 なのは。
名前の通り春生まれだが、名前の印象とは違って根暗だ。
常にネガティブ思考だし、笑ったことなんてもう何年もない。
そんな私は、今日も学校という名の牢獄で生きる。
毎日を、死んだように、ただ時間が過ぎるのを待つように生きるのだ。
ガラッという勢いのいい音がしてドアが開く。
その音で教室は一瞬静まり返るが、みんな担任だと確認すると、またうるさい声が教室に響き渡る。
しばらくして、「はーい、席についてー」と先生が手を叩いて言った。
小川 香
明るい体育系の女の先生だ。
でも、私は嫌いだ。
暑苦しいし、クソみたいな理論を押し付けてくる彼女の、どこが先生なのだ。
はあ、とため息をつきたくなる気持ちを殺して、私はまた下を向く。
「出席とるよー、安藤くん、石野宮さん、………………」
きゅっと唇を噛んだ。
嫌だ、と心が騒ぎだす。
あとちょっとしかない。深呼吸をして………
「小松崎さん」
「はい」
やばい、あとちょっとで………
「小池くん」
「はい」
口を開け、声を出さなきゃ、、、
「桜さん」
「…………は、は、はははいーい」
あ、終わった。まただ。また1日真っ暗で始まる。
いつも通り、みんながくすくす笑う。
「桜さんー、もうそのネタ飽きたんだけどー(笑)」
ネタだったらどれだけいいことか。
「真面目ちゃんはそういうイタイことしない方がいいよー?(笑)」
イタイ?知ってるわ、そんなの。仕方ないだろ、こういう奴なんだよ、私は。
「それなー、マジでおもんない」
ウケ狙ってやってないって知ってんだろ、黙れよ。
制服のスカートを握りしめて、ぐちゃぐちゃにした。
それでも怒りが収まらなくて、今度はポケットに入っているティッシュをこっそりビリビリに破いた。
うざい。迷惑かけてないだろ。黙っとけよ。
そう思いながら、破ったティッシュは今まで数えたらキリがないんじゃないだろうか。
だってそれほど腹が立つんだ、仕方がないだろう?
私はみんなみたいに、生きられないのだからーーーーーー