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「おやすみ。お兄ちゃん」
「何かあればすぐに起こしていただいて構いませんので。お先に失礼致します」
ミアとカガリ。それとジョゼフが天幕へと姿を消すと、俺とコクセイだけが取り残された。
「リブレスと違って静かだな……」
リブレスとは違い、耳障りな虫の声も心地よく感じるほど。燃え盛る焚き火を見つめながら物思いに耽るには、丁度良いノイズだ。
「それにしても、ネロの仮面か……」
その名は知っている。二千年前、勇者と共に魔王を倒し英雄となった者の名だ。だが、それは表向きの話。エルザの話ではその後は神と決別し、死霊術を編み出した後、行方知れずとなったと聞いている。
そんな者の名を冠している仮面だ。それに興味がないわけではなかった。
「ジョゼフさんかシャロンさんなら何か知っているかもしれないが、聞くわけにもいかないよなあ……」
王宮とは関わり合いのない二人ではあるが、仮面が祭具として使われているなら何か古い言い伝えが残ってるかもしれない。
とはいえ、あまりツッコんだことを聞くと、色々と怪しまれそうで憚られる。
エルフは長命種だ。人間よりも多くの知識を持っていても不思議ではない。ならばネロのことも当然知っているはず。問題はそれをどこまで知っているのか……。そしてそれをどう捉えているのかである。
世界を救った英雄としてか、それとも神に反旗を翻した裏切り者か……。
エルフたちが神から与えられたであろう世界樹を信仰しているのならば、恐らくネロとは相容れない立場であると考えるのが自然ではあるが……。
「九条殿。そろそろ……」
「おっと、そうだった。時間だな……」
コクセイに呼ばれ我に返る。それは丑三つ時と言われ、最も陰の気が高まる時間帯。
ゆっくりと立ち上がり、お尻に付いた土埃を払うと背を伸ばす。
「行くのか?」
「ああ。留守番を頼む」
「心得た。気を付けるのだぞ?」
焚き火の中から火持ちのしそうな薪を一本選ぶと、それを松明代わりに村の墓地へと歩みを進めた。
そして俺は、八年前のヤート村の惨状を知る事となったのである。
――――――――――
「九条様。何かわかりましたでしょうか?」
「ええ。もちろんです」
次の日の朝。皆が起きて来ると、焚き火を囲みながら八年前にこの村に起こった出来事を全て話した。
「この村に埋葬されているのは、村人だけじゃない。村を襲った盗賊たちも同じように埋葬されている」
ヤート村は二度盗賊に襲われていた。一回目は上手く撃退出来たものの、その報復にと二回目の襲撃で村人たちは帰らぬ人となっていた。
その話の中にはネロの仮面らしき物は出てこない。他にわかる事と言えば、襲撃して来た盗賊たちのアジトの場所と、昨日の女性の霊が自分の娘を探していた事くらいだ。
「これが廃村になった原因です。この話を信じるかどうかは、ジョゼフさん次第です」
「ありがとうございます。その……盗賊たちというのは?」
「彼等は一人の冒険者によって壊滅させられています。グリムロックのギルドに記録が残っているかもしれませんが……直接ギルドに聞いてみなければわかりませんね」
「そうですか……」
頭を下げるジョゼフであったが、その表情は曇っている。結局その仮面の行方はわからずじまい。そりゃ落ち込みもするだろう。捜索は一からやり直しだ。
「九条様。……よろしければその盗賊のアジトまでご同行願えませんでしょうか? もちろん無理にとは言いませんが……」
普段の俺なら断っていただろう。だが、ジョゼフにはアニタの事を黙ってもらっているという恩もある。それくらいであればと首を縦に振った。
「そう遠くはなさそうですし、構いませんよ」
「ありがとうございます」
ほんの少しだけジョゼフの表情が晴れた気がした。
その後、馬車で迎えに来たシャーリーたちと合流し、盗賊たちのアジトがあるであろう場所へと向かう。
途中までは馬車を使い、そこからは深い森の中のため徒歩である。御者だけを街道に残し、道なき道を進んでいく。
「九条殿。大分近づいて来ているぞ」
「予定とは違う行動に焦っているんじゃないか?」
コクセイの鼻に反応しているのはイーミアル。村での調査を終えたにもかかわらず、フェルヴェフルールとは逆方向に進んでいく俺たちを不審に感じているのだろう。
こちらはある意味残業してやっているのだ。大目に見てもらいたいものである。
とは言え、仮面の捜索は絶望的だろう。一縷の望みに賭けたいジョゼフの気持ちもわからなくもないが、八年も前の出来事だ。あったとしても原型をとどめているのかは、甚だ疑問である。
そもそもそんな仮面が、カネになるのかすら疑わしい。祭具なんかを盗んで一体どうしようと言うのか……。
「ねぇ九条。本当にこっちであってるの?」
「ああ。間違いない。あと二キロほどだ」
「ぐえぇ……。あと二キロも歩くのぉ?」
「たった二キロだろ……」
それを聞いて肩を落とすシャーリー。チラチラと目配せしているのは、従魔たちに乗る許可が欲しいのだろう。ミアだけカガリに乗ってズルイ……とでも言いたげである。
そりゃ従魔たちの背に揺られれば楽ではあるが、数が足りない。仮に足りたとしてもジョゼフを乗せるつもりはなかった。案内役としては助かっているし、アニタの事も黙ってくれている。だが、信用とはまた別の話だ。
仕事だからこそ丁寧に接してくれてはいるが、そうじゃなかったら彼も一介のハイエルフ。その思想が俺たち他種族にとっては危険なのは変わりない。
最初から馴れ合いをするつもりはないのだ。仕事だけの関係と割り切って考えた方が無難である。
草木を掻き分け一キロほど歩いたところで、ようやく一筋の道らしき轍を見つけた。所謂獣道だ。
この道が盗賊たちのアジトに続いているとするなら、数年間は使われていない道であるはずなのだが、その割には少々小綺麗なのは気のせいだろうか?
その道の先に見えるのは小高い丘。目的地はその先にあった。
丘を越え、盗賊のアジトがあったであろう小さな盆地を見下ろすと、そこにあったのは今にも崩れそうな小さな納屋。
「どうやら先客がいるらしい……」
その隣で、何者かが俺たちを見上げていたのである。
コメント
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しめさばさん、第371話読みました! 八年前の事件の真相が少しずつ明らかになってきましたね…焚き火の前で霊と対話するところ、めっちゃ雰囲気あって引き込まれました。主人公が割り切った距離感でジョゼフと接してるところも良かったです。最後の「先客がいるらしい」で次回が気になりすぎます!続き楽しみにしてます🔥
#魔法少女
かませ犬S
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百はな🍑
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