「昨日、誰とどこに居た?」放課後会うなり、開口一番にワカが尋ねてきた。
いつもなら明るい声で、嬉しそうに今日の服好きとか髪型かわいいなとか言ってくれるのに。
ワカの声色はいつもよりワントーン低く、ヒリついた空気を纏っている。 「昨日……?」何か、彼の機嫌を損ねるようなことをしてしまったのだろうか。思い当たる節が全くない。何が悪かったのか考え込んでいる間にも、ワカの不機嫌さが増しているのが分かる。「友達とショッピングに行って、アイスを食べて…」ひとまず、昨日あったことを順に説明していく。反応を見て、何が原因なのか探ってみよう。 「……友達、な」一際低い声が発せられたと同時に腰を引き寄せられた。「え、待って、ワ、……んっ」噛みつくような乱暴なキス。角度を変えて深く、深く口内を侵されていく。息継ぎをする余裕もなく、唇を離した一瞬に漏れる声は次第に弱まっていった。口の端から熱っぽい息だけが辛うじて吐き出されていく。
冷たい手が腰を撫で上げた。普段の優しさは感じられない。身を捩っても力でかなう訳がなく、むしろその手は腰から背中にかけてを這っていく。「…っ、ワカ、やだよ、謝るから……」普段のワカとは違う、荒っぽい手つき。怖い。無理矢理身体を暴かれる感覚に、目には涙が溜まっていく。 「はっ?あの男には触らせといて、俺はダメなんだ?」
「へ?何のこと……痛ッ、!」ガリッ、という音とともに、鎖骨に鋭い痛みが走った。直後にざらりとした彼の舌が鈍い痛みを加える。噛みつかれた、と気づいたのはワカの口元に滲んだ血を目視してからだった。 「余所見するんじゃねぇよ。お前が見ていいのは俺だけだからな!!」思いがけない言葉に思考が固まる。それって、もしかして。「もしかして、嫉妬?」図星だったらしく、バツが悪そうに目を逸らすワカ。珍しい姿に笑い声が漏れる。「……何で笑ってんの」
「いや、その、ワカも嫉妬とかするんだなぁって…」
「あのなぁ、俺だって男なの。ましてや可愛い彼女が他の男と仲良く歩いてりゃ嫉妬くらいすんだろ」しかも腰まで抱かれてよー、と彼の不満が次々と溢れ出してくる。けれどその声色はいつものワカに戻っていた。……ん?『他の男と』…?「ちょ、っと待って、ワカ。1つ弁明させて欲しいんだけど」
「なに?」拗ねた子供のようにじっとりとした視線がこちらに向けられている。 「あのね、昨日一緒にいた人、女の子なの」
「……は?」
「カッコいいよね、あの子」昨日、行動を共にした女友達の身長175cm。髪はベリーショートで、Tシャツとジーンズというラフな格好をしていた。スタイルも抜群な彼女の後ろ姿だけを見れば、男性と間違えるのも頷ける。「バレーボール部の子で王子様みたいって言われてるんだけど…」
「……あ〜、まって、わかった…マジか…」思い当たったらしく、あいつか…と呟いてワカは頭を抱えた。「あと、腰を抱かれたっていうのは、走り回ってた子供にぶつかりそうだった時のことじゃないかな…?」疑問だった点が全て繋がり線になったみたい。とりあえず誤解が解けたようで何より。「わりぃ。俺、勝手に嫉妬して酷いことした…」
「ううん、大丈夫」 …ちょっと、怖かったけど。
そう付け加えると、ワカは腫れ物に触るようにそっと抱きしめてくれた。「……これも、痛かったよな」ヒリヒリと痛む鎖骨に触れ、ごめんと呟いた。完全に俯いてしまった彼の表情を伺うことはできない。けれど多少なりとも落ち込んでいるのは何となく伝わってきた。「ワカ…」
「ん?…ッ!!」ワカの膨らんだ胸筋より少し上。肩に近い鎖骨に思い切り嚙みついた。鉄臭い味がじわりと口内を侵食する。 「これで、おあいこね」
「っ、お前……いや、何でもねーワ」参りました、と言わんばかりにワカは両手を挙げた。「痛かった?」
「まあな。でも、なんつーか…」ワカはひと呼吸置いて、熱を帯びた声で続ける。「なんか、すげー興奮した」そう言って私を見下ろすワカの瞳には熱がこもっている。彼の瞳を見つめたまま顔を寄せると優しく、それでいて深いキスが落とされた。
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