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……なんだよ、今の。
頭いてぇ。
俺はしゃがみ込んだまま、紫苑を握りしめた。
「忘れないでね、って……誰だよ」
勝手に声が出る。
覚えてねぇって言ってんだろ。
チャイムが二回目を鳴らす。
「くそ……」
立ち上がって校舎へ戻る。授業なんかまともに聞ける気がしない。
◇
六時間目の終わり、俺はクラスを見回した。
……いない。
あの茶髪。
あんな目立つやつ、いたら気づく。
「なあ」
前の席のこさめの椅子を軽く蹴る。
「なにー?」
「今日さ、転校生とか来た?」
「え? 来てないけど…」
「茶髪でさ、ここにピンつけてて。なんか、俺のこと知ってるっぽいやつ」
こさめは困惑したような顔をする。
「いるまくんついにモテ期ー?笑」
「ちげーよ」
少し強めに言う
「ほんとに見てないよ。てゆーか、誰と話してたの?」
「校舎裏」
「あそこ? あんなとこ誰も行かないでしょ。」
――紫苑が咲いてるから。
言いかけて、やめた。
なんで俺、あそこに毎年行ってんだ?
好きだから?
……それだけか?
◇
放課後、俺はもう一回、校舎裏に行った。
いるなら、ここだろ。
「おい」
フェンスの向こうに向かって声を出す。
「いるんだろ」
風だけが吹く。
紫苑が揺れる。
……いねぇ。
「ふざけんなよ」
胸の奥がざわつく。
会ったのは今日が初めてのはずだ。
なのに。
会えないと、こんなに落ち着かねぇのかよ。
フェンスを握る。
そのとき。
「怒りすぎ」
背後。
反射的に振り向く。
いた。
さっきと同じ顔。
「……テメェ」
「テメェってひどくない?」
くすっと笑う。
「消えんなよ」
言ってから、自分で驚く。
なんでそんなこと言ってんだ。
彼は少し目を細めた。
「消えてないよ」
ゆっくり、首をかしげる。
「いるまが、見えてないだけ」
ぞくっとする。
「……は?」
「ねえ」
一歩近づく。
「ほんとに、何も覚えてない?」
距離が近い。
息がかかりそうなくらい。
なのに。
体温が、感じられない。
冷たい空気だけが触れる。
心臓が、嫌な音を立てる。
「……なんの話だよ」
彼は俺の胸に、そっと指を当てた。
触れているはずなのに、感触がない。
「ここ」
静かな声。
「ここで、約束した」
その瞬間。
――赤いブレーキランプ。
――誰かの叫び声。
――血の匂い。
頭が、真っ白になる。
俺は一歩よろけた。
「……事故」
口から勝手にこぼれる。
彼の目が、揺れた。
「やっと、出てきた」
風が強く吹く。
紫苑が、大きく揺れた。