「お疲れ様でーす!」
荷物を纏め終えたスタッフさん達がスタジオを去っていく。奇跡的、と言っていいものか、何処のフレーズも失敗することなく弾ききれた。やはり上手く行けると心が踊る。1人頬を緩ませて楽譜を片付けていれば、まだ帰っていなかったスタッフさんの会話が耳に入ってきた。
「ここって屋上あるんでしたよね?」
「らしいですよ〜!確か出入り自由だったような、?」
「屋上入れるって何か珍しいですよね。学校でも立ち入り禁止なところ多いし。」
会話の中に何度も出てきた「屋上」という単語に何故か心を惹かれた。ふと窓の外に目をやれば、運良く雨が止んでいた。確か休憩の時にそれっぽい階段を見た気がする。思い立った時の行動力は凄まじいもので、手早く荷物を纏めてスタジオの扉に手をかける。
「じゃあ、お先失礼しまーす!」
「あれ、涼ちゃんもう帰るの?」
「うん!明日もここでしょ?」
そう、と短く返した元貴に微笑み、スタッフさん達に軽く頭を下げる。つい1時間前くらいの記憶を頼りに、屋上へと歩みを進めた。
「わぁ、…何か新鮮…、!」
屋上への扉らしきものを開けば、直ぐに雨特有の香りが鼻を通った。目前に広がる大きな空。雨が止んだとはいえ、まだ沢山の雲がかかっていた。自身の胸の辺りの高さにあるフェンスに駆け寄り、ゆっくりと街を見下ろす。あまり階数がないからか、人の往来が僅かに見えた。
「……僕、キスされて…。」
イカれたものばっかで呆れるんだ
徐に頭に過ぎったさっきの出来事に頬に熱が集まる。あんなに近かった若井の顔が何故か鮮明に思い出されて、どくどくと胸が煩い。
「俺の事見て、って…もしかしてあの時の、?」
元貴が僕のポケットに手を入れていたあの時、若井の冷たかった視線が記憶にあった。僕と元貴との会話を遮るようなあの行動、まさかとは思いながらも思考が止まらない。
この世界の仕組みも そう貴方も
「本当に嫉妬してた、とか…??」
やり場のないこの感情は
「いやいやいや、そんな訳ないよね、!!…あれ、てかなんで僕若井のこと受け入れて…」
もう空に向かって放つしかない
人の居ない屋上で自問自答を繰り返し、見逃していた重大な事実に気が付いてしまった。勝手に若井の感情ばかり考えてしまい、自分の気持ちには目を向けていなかった。
僕の気持ちは…
「若井のこと、好きなのかな…」
「じゃあ両想いってこと?」
「、!?!?」
色のない空に零した独り言が、後ろから聞こえた馴染みのある声によって返された。あまりの驚きからか、声にならない悲鳴が溢れた。
色が付いた
「なんで若井…」
「この後ご飯誘おうと思ったのに直ぐ帰っちゃうからさ。急いで後追いかけたけど熱心に何か探してたから何も言わずに着いてきちゃった。」
色が褪せた
涼ちゃん、と歩み寄ってきた若井の手のひらが僕の頬に触れた。後ろに広がる雲の合間から日が差し、街を明るく包み込んだ。遠くに見えた綺麗な虹に思わず目を見開く。
「涼ちゃんのこと…」
空が晴れた僕に名前をと
「大好きです。…俺と付き合ってください。」
想いを含んだ瞳が真っ直ぐと僕に向けられる。あの時の君と同じよう、大きく深呼吸をする。頬に触れたままの手に手のひらを重ね、ふわりと微笑んで口を開く。
「お願いします。」
もう傘はいいね 僕はただ 会いに行くから
「っ、、涼ちゃーん!!嬉しい!!」
「あははっ、痛いよ若井〜」
僕を強く抱き締める若井の瞳には涙が滲んでいた。そんな僕たちを祝福するよう、暖かい光が2人を包む。
この日見た虹を、僕はきっと忘れることはない。
La,la,la,la,la,la,la,la,la
La,la,la,la,la,la,la,la
fin.
コメント
3件
わぁ…… きれいだ………… 屋上で虹見ながらとかすごいいい情景です…! このお話読んだらまた曲の印象が変わっておもしろいです ありがとうございました!!
幸せですわー😆