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恭香ちゃんはキョトンとしている。
僕は、そんなに変なことを言ったのか?
「……時間ある時でいいから。一緒に行こう」
「……」
やっぱり黙っている。
どうしようか……
「あの、私、一弥先輩のことは本当に尊敬してます。仕事ができて、優しくて、お話も楽しくて……。私がミスした時に助けてくれたり、失敗して怒られた時に励ましてくれたり……一弥先輩には本当に感謝しています。だから私……」
「だから……?」
恭香ちゃんが言おうとして言わない言葉は何?
続きが気になってしまう。
「あっ、いえ。で、でも、さすがに彼女がいる人と2人で映画になんて行けません。いくらなんでも……おかしいですよ」
「えっ?」
恭香ちゃん、どうして彼女がいるなんて……
まさか?!
「すみません。私、見ちゃいました。一弥先輩が菜々子先輩に告白するところを。たまたま通りかかったら一弥先輩が見えて、声をかけようと近づいたんですけど……菜々子先輩もいたので……」
「嘘、あれ、見てたんだ……」
まさか恭香ちゃんに見られていたなんて。
最悪だ――
「すみません、聞くつもりなんて全くなかったんです。でも、動くに動けなくて、そのまま聞いちゃいました。本当に本当にごめんなさい」
「……いや」
「でも、私、一弥先輩と菜々子先輩はすごくお似合いだって思ってます。美男美女だし、お似合いの2人だから応援しなきゃって……思っています。だから……そんな風に誘われてちょっとびっくりしてしまって」
「恭香ちゃん……。ごめん、まさか見られてるなんて思わなくて。でも違うんだ。菜々子とは……もう別れたんだ」
「え? あの……」
「……」
俺は、ゆっくりうなづいた。
本当のことなんだ……と。
「一弥先輩と菜々子先輩がお別れしたなんて嘘ですよね? あんなにお似合いで、あんなに仲良くて……。そんなの、信じられないです」
仲良く……か。
恭香ちゃんにはそう見えてたんだ……
実際は、全く……違っているのに。
「本当、あっという間だよね。確かに、早すぎると思うよ。でもね……嘘じゃないんだ。いろいろあってね、僕はもう……菜々子とは別れた。ちゃんとお別れしたから」
「そんな……。そんなの……」
「……本当なんだ。もう、菜々子はただの同僚。今まで通り、仕事の上だけの付き合いだから」
ずっと悩んでいた。
前から恭香ちゃんのこと……
優しい性格で笑顔が可愛い人だなと思っていた。
穏やかで、一緒にいると心から癒されて。
でも、僕はずっと菜々子からアタックされていて……
同期の菜々子のことは嫌いじゃなかったし、美人だと思っていた。
僕は、どうすればいいか、答えを出せずにいた。
本当に優柔不断で情けない。
恭香ちゃんが好きなのか、菜々子が好きなのか……
いつも近くに居すぎて分からなくなっていた。
あの日――
菜々子に、たまたま一緒に帰ろうと言われ、あの場所に着いた時……
その場の雰囲気になぜか勢いに任せて告白してしまった。もしかしたら、早く自分の中で答えを出してしまいたいと思っていたのかも知れない。
焦る必要なんてなかったのに、本当にいい加減な男だ。
自分でも最低だと思う。
菜々子と付き合ってホッとしたのは確かだ。
だけれど、すぐに違和感を感じてしまった。
一緒にいても、楽しいとか、嬉しいとか、幸せとか……そんなプラスの感情が湧いてこなくて、何だか窮屈だと思うようになってしまった。
もしかして、僕は菜々子のことを好きじゃなかったのか――
そう思うと、心から後悔した。
彼女は美人だし、菜々子と付き合えば周りに対する評判も良くなるとか……そんな浅はかな気持ちもあったのかも知れない。
でも、すぐに思い知らされた。
僕が本当に好きな人は……
菜々子ではない、森咲 恭香ちゃんだと――
菜々子といると余計に恭香ちゃんが愛おしくなった。
誰かと付き合いながら他の人を想うなんて、本当に僕は……
だから……
僕は、菜々子に言った。
「すまない。やっぱり……僕には好きな人がいる。別れてくれないか?」と。