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その願いに、菜々子は即答した。
「私も一弥とは別れたかったの。あなたより素敵な人が現れたから」と。
申し訳ないと思う気持ちが一瞬でかき消され、あまりにもあっけなく……僕もフラれた。
僕が菜々子と付き合って次の日に現れた本宮君。
菜々子が好きになったのは彼のことだとすぐにわかった。
それならそれでいい。
本宮君の方が、僕よりずっとイケメンだし、おまけに御曹司でお金持ちだ。
菜々子がそういう男性を好きなことは知っていた。
だから、菜々子が本宮君を狙うことに何の嫉妬もなく、付き合ってすぐに別れた僕達だったけれど、お互いに後悔もなかった。
人間の気持ちなんて、あっという間に変わる――
それは勉強になった。
それからは、ずっと恭香ちゃんを見ていた。
やっぱり……僕はこの人の笑顔が愛しい。
今までそんなことにも気づかず、どうして恭香ちゃんと菜々子を天秤にかけるようなことをしたのかと、自分を責めた。
だけれど、改めて恭香ちゃんを大切にしたいと思った時には、恭香ちゃんは今までよりもずいぶん遠くなっていた。
本宮君と話している恭香ちゃんがあまりにも表情豊かだったから……
笑ったり、戸惑ったり、慌てたり、驚いたり。
こんな顔をするんだって思った。
僕の知らなかった恭香ちゃんの可愛過ぎる女性としての顔。
まさか、恭香ちゃんは彼が好きなのか?
僕はとても不安になった。
あの日、スーツ姿の男性を離れた場所から眺めていた。
その視線の先には本宮君が――
彼は、男の僕でも最高にカッコ良いと思えた。
あんなにイケメンで、大金持ちで、次期社長も約束されていて、仕事ができて、センスもあって……
僕には無いものを全て持っている本宮君。
もし、恭香ちゃんが本当に本宮君に惹かれているのだとしたら、当然、僕には勝ち目はない――
本当にズルいけれど、いっそのこと本宮君と菜々子が付き合ってしまえばいいとさえ思ってしまった。
恭香ちゃんの気持ちが知りたい。
だけれど、聞くのが怖い。
気づくのがあまりに遅すぎた。
僕は本当にバカだ。
でももう、僕は恭香ちゃんを本気で好きになってしまっている。
誰にも……渡したくない。
ずっと一緒にいたいと思うほどに、恭香ちゃんが愛おしい。
「映画……無理かな? 一緒に行けたら嬉しいんだけど」
もう一度念押しした。
必死で笑顔を作ったけれど、引きつっているかも知れない。
「一弥先輩のお誘いは嬉しいです。でも、少し待ってもらえますか? ただ遊ぶだけだとしても、今はいろいろあって……上手く言えないんですけど……」
告白もしていないのだから、こんな風に言われたら引き下がるしかない。
「そっか……ごめん。いろいろ……あるんだね。わかった。また一緒に行けたら嬉しいし、改めて誘うよ」
「……はい。すみません」
「ううん、大丈夫だよ。気にしないで」
恭香ちゃんはうなづいた。
申し訳なさそうな顔をしている。
それが僕をとても不安にさせた。
この人に嫌われていると思ったことはないけれど……
それでも、今ここで本心を伝えるなんてできない。
逸る気持ちを抑え、僕は……恭香ちゃんから離れた。