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翠
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放課後。
いつもなら、とっくに帰っている時間だった。
けれど今日は、五人に過去のことを話していた。
気づけば、外はもう暗くなり始めている。
すち「……やば」
時計を見る。
思っていたより、ずっと時間が経っていた。
らん「あ……もうこんな時間?」
すち「俺、帰る」
みこと「うん。気をつけて」
すち「じゃあ、また明日」
五人に手を振って、すちは急いで学校を出た。
走る。
今日は遅くなった。
家に帰ったら、父親に何を言われるか分からない。
(……早く帰らないと)
家に着いたのは、いつもよりかなり遅い時間だった。
玄関を開ける。
すち「……ただいま帰りました」
返事がない。
靴を脱いで、家の中へ入る。
すると。
父「遅い」
すちは足を止めた。
すち「……すみません」
父「何時だと思ってる」
すち「……すみません」
父「飯は?」
すちは一瞬、答えられなかった。
今日は、帰ってから準備するつもりだった。
けれど。
もう、こんな時間だ。
すち「……まだです」
父「まだ?」
すち「はい……」
父親の声が低くなる。
父「お前、自分が何してたか分かってるのか」
すち「……はい」
父「飯の時間も過ぎてる」
すち「すみません」
父「何してた」
すちは黙る。
学校で話していた。
自分のことを。
過去のことを。
でも、それを父親に言う気にはなれなかった。
すち「……友達と話してました」
父「友達?」
すち「……はい」
父「それで飯も食えない時間まで帰ってこなかったのか」
すち「……すみません」
父「謝れば済むと思ってるのか?」
すちは黙った。
父「今まで何回言ってきた」
すち「……」
父「家のことをやれ。時間を守れ。言われたことを忘れるな」
父「それすらできないのか」
すち「……申し訳ありません」
父「お前は本当に何も分かってないな」
その言葉に、すちは俯いた。
父「自分が遅く帰ってきたせいで、飯が食えなくなったんだぞ」
すち「……はい」
父「それで何とも思わないのか?」
すち「……すみません」
父「もういい」
そう言われて、すちは顔を上げた。
けれど。
続いた言葉に、また固まる。
父「今日は飯なしでいい」
すち「……はい」
父「明日から気をつけろ」
すち「分かりました」
それ以上、何も言えなかった。
自分の部屋に戻る。
鞄を置く。
制服を着替える。
お腹は空いていた。
けれど、何かを食べようとは思わなかった。
ベッドに座る。
今日、五人に話したことを思い出す。
(……言わなきゃよかったのかな)
そう思ってしまう。
でも。
みんなが「一緒に探そう」と言ってくれた。
そのことを思い出すと、少しだけ胸が軽くなる。
(……明日、学校行ったら謝ろう)
そう考えて、眠った。
――翌朝。
すちは目を覚ました。
けれど、身体が重かった。
起き上がろうとしても、なかなか動けない。
時計を見る。
学校へ行く時間が近づいている。
(……行かなきゃ)
布団から出ようとする。
けれど、また横になる。
昨日の夜から何も食べていない。
それでも、学校へ行く準備をしようとする。
しばらくして。
父親から声がかかる。
父「すち」
すち「……はい」
父「学校は」
すち「……今日は、休みます」
少し間があった。
父「……そうか」
それだけだった。
すちはそのまま布団に戻った。
――そして、学校。
朝のホームルーム。
五人はいつものように集まっていた。
けれど。
一人だけ、いない。
らん「……すち、まだ来てないね」
こさめ「寝坊かな?」
なつ「でも、すちって遅刻とかあんまりしないよね」
いるま「……昨日、帰るの遅かったからな」
四人が黙る。
みことも、ずっと空いている席を見ていた。
みこと「……先生に聞いてみる?」
そのとき、先生が教室に入ってくる。
先生「今日は、すち君はお休みです」
五人が一斉に顔を上げた。
らん「……休み?」
こさめ「すっちーが?」
なつ「体調悪いのかな」
いるまは何も言わない。
ただ、昨日のことを思い出していた。
帰るのが遅くなった。
すちの家では、父親が待っている。
そして。
昨日、すちは「大丈夫」と言って帰った。
いるま「……大丈夫じゃねぇだろ」
小さく呟く。
らん「え?」
いるま「……なんでもねぇ」
みことは黙ったまま、すちの席を見る。
昨日の帰り際。
すちは笑っていた。
いつものように。
だからこそ。
その笑顔が、今になって気になった。
みこと「……今日、連絡してみよう」
らん「うん」
こさめ「こさも送る」
なつ「俺も」
いるま「……俺もする」
五人はそれぞれスマホを取り出す。
誰も、まだ知らなかった。
すちが昨日の夜、何を言われたのか。
そして。
今、どんな顔で布団の中にいるのか。
ただ一つだけ。
五人とも、同じことを考えていた。
――すち、大丈夫かな。
コメント
1件
すちくんの「すみません」が何度も繰り返されるのが、すごく苦しかったです。家で言いたいことが言えない息苦しさと、学校で話したことに「言わなきゃよかったのかな」と悩む姿が重なって…。でも五人組が一斉に連絡しようとしたラスト、あの温度差が救いでした。続きが気になります。