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翠
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昼休み。
五人は、すちに送ったメッセージ画面を何度も確認していた。
既読がつかない。
朝に送ったものも。
少し前に送ったものも。
全部、そのまま。
こさめ「……まだ返ってこない」
なつ「電話は?」
らん「何回かしたけど、出ない」
いるま「……やっぱり、昨日のことが関係してんじゃねぇか」
みことは黙っていた。
ずっと、すちの席を見ている。
空いたままの席。
昨日まで、そこにいた。
笑っていた。
普通に話していた。
なのに今日は来ていない。
みこと「……家、行こう」
らん「うん」
放課後。
五人はすちの家へ向かった。
何度かインターホンを押す。
返事はない。
なつ「……いない?」
こさめ「でも、家にいるんじゃないかな」
もう一度押す。
しばらくして。
家の中から、かすかに音がした。
そして。
玄関の扉が開く。
すち「……みんな?」
五人が固まった。
すちは立っているだけなのに、どこかおかしかった。
顔色が悪い。
髪も少し乱れている。
そして、立っているのもつらそうだった。
らん「すち……?」
すち「……どうしたの?」
こさめ「こっちが聞きたいよ!」
すち「え?」
なつ「朝から連絡してるのに、全然返ってこないから」
すち「……ごめん」
みこと「体調悪い?」
すち「ちょっとだけ」
いるま「ちょっとだけに見えねぇけど」
すち「……大丈夫」
いつもの言葉。
大丈夫。
でも。
今日は、その言葉にいつもの明るさがなかった。
らん「中、入っていい?」
すちは少し迷ってから、頷いた。
五人は家の中へ入る。
すちはゆっくり歩いて、リビングへ向かう。
すち「昨日、帰るの遅くなったから……」
こさめ「……怒られた?」
すちは黙った。
それだけで、答えは分かった。
すち「ご飯、食べられなくて」
なつ「え……」
すち「だから、たぶんそれでちょっと体調悪いだけ」
らんの表情が変わる。
らん「それだけ?」
すち「うん」
らん「本当に?」
すち「……うん」
みことがすちを見る。
みこと「今日はちゃんと休んで」
すち「分かってる」
いるま「飯は?」
すちは少し黙った。
すち「……まだ」
いるま「は?」
すち「食欲ないから」
こさめ「でも、何か食べたほうが……」
すち「大丈夫だよ」
そう言って笑う。
でも。
その笑顔を見ても、誰も安心できなかった。
しばらく話してから。
なつ「今日はもう帰るけど、ちゃんと休めよ」
すち「うん」
らん「明日、学校来れそう?」
すち「……たぶん」
みこと「無理しなくていいから」
すち「分かった」
五人は家を出る。
すちは玄関まで見送った。
すち「来てくれてありがと」
らん「……うん」
扉が閉まる。
五人は家から少し離れたところまで歩いた。
こさめ「……やっぱり心配」
いるま「俺も」
なつ「あの顔、普通じゃなかったよな」
みことも頷く。
みこと「……もう少し近くにいようか」
五人は少し考えた。
そして。
家から見えない場所で、しばらく様子を見ることにした。
――夕方。
父親が帰ってくる。
玄関の扉が開く。
すちはすぐに立ち上がった。
父「すち」
すち「……はい」
父「水」
すち「……分かりました」
ゆっくり立ち上がる。
まだ体調が戻っていない。
それでも水を用意する。
父親に渡す。
父「飯」
すち「……今、準備します」
父「遅い」
すち「すみません」
台所へ向かう。
けれど。
動きがいつもより遅い。
父「何してる」
すち「……すみません」
父「さっさとしろ」
すち「はい」
その様子を。
窓の外から、五人が見ていた。
帰ろうとしていた。
けれど家の近くを窓が少し開いているのが見えた。
そして。
中の声が聞こえた。
でも。
誰も、その場から動けなくなった。
父「昨日遅く帰ってきたせいで、今日学校まで休んでるんだろ」
すち「……はい」
父「だったら今日はちゃんと動け」
すち「分かりました」
父「洗濯もまだだろ」
すち「……今からします」
父「風呂も準備しろ」
すち「はい」
父「あと、明日の準備もしておけ」
すち「分かりました」
五人は言葉を失っていた。
今日、すちは体調が悪いと言っていた。
今も、ふらふらしていた。
それなのに。
休ませるどころか。
次々と命令されている。
こさめ「……嘘」
小さな声。
なつ「これ……普通じゃないだろ」
いるま「……ありえねぇ」
みことも何も言えない。
そして。
らんはずっと窓を見ていた。
すちが、父親の言葉に一つ一つ返事をしている。
「はい」
「分かりました」
「すみません」
その声を聞くたびに。
昨日、すちが言っていたことが頭をよぎる。
――家では、言われた通りにする。
――学校では、作った自分でいる。
らんの手が強く握られる。
父「まだ終わってないのか」
すち「……すみません」
その瞬間。
らんが立ち上がった。
なつ「らん?」
らん「……無理」
こさめ「え?」
らん「もう無理」
らんは窓へ向かって歩き出す。
みこと「らんらん、待って」
らん「だって……!」
振り返ったらんの目には、怒りが浮かんでいた。
らん「すち、あんな状態なのに……なんで誰も休ませてやらないんだよ!」
いるま「落ち着け、らん!」
らん「落ち着けるわけないだろ!」
らんはそのまま窓の前まで行く。
すち「……え?」
家の中にいたすちが、窓の外を見る。
そこに。
らんがいた。
そして、その後ろには。
こさめ、いるま、なつ、みこと。
五人全員。
すち「……みんな?」
らんは窓越しに、すちを見る。
そして。
らん「……すち」
その声は、今まで聞いたことがないくらい震えていた。
らん「もう、黙って見てられない」
らんは窓を開ける。
すち「ちょ、らんらん……!」
らん「ごめん。もう無理」
そのまま、らんは家の中へ入った。
四人も慌てて後を追う。
すち「待ってって……!」
けれど。
もう遅かった。
父親が振り返る。
そして。
突然入ってきた五人を見て、動きを止めた。
らん「……すちに、何してるんですか」
家の中が、静まり返った。
コメント
1件
いやあ…重かったですね。すちの「大丈夫」がいつもよりずっと軽くて、家の中の空気が違うって、五人のみんなも察してたんでしょうね。特にらんの「もう無理」から飛び込むシーン、すごく切実で心が締め付けられました。友達がいるって、本当に大きいなって思います。碧さんの描く距離感と温度、すごく伝わってきました。