テラーノベル
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毎日、限界だった。
同じ家で暮らすようになってから、伊沢の理性は24時間ずっと、薄氷の上を歩くような危うさの中にあった。
お風呂上がりに少しはだけたTシャツ姿でリビングをうろうろする姿。
ソファで隣に座ってスマホを見ながら、無防備に自分の肩に頭を預けてくる瞬間。
当の本人は、自分がどれほど伊沢の理性を削り取っているか、これっぽっちも気づいていない。
izw(可愛すぎるだろ、まじで……)
無邪気に笑う山本を見るたび、伊沢の胸の奥ではどろりとした熱い衝動が暴れ回っていた。
毎日、膨れ上がる性欲を「大切にしたい」という理性だけで繋ぎ止める日々。
だが、ついにその糸がぷつりと切れる瞬間が訪れた。
週末の夜、静かなリビング。
先にベッドに行こうと立ち上がった山本の腕を、伊沢は衝動のままに掴み、そのままリビングのソファへと押し倒していた。
ymmt「うぁ……!?」
背中に受けた衝撃と、目の前に迫った伊沢の、今まで見たこともないほど飢えた肉食獣のような瞳。
驚きと困惑が混ざった山本の短い声が、静かな部屋にやけに生々しく響いた。
その声が、冷水のように伊沢の脳を打ち抜いた。
izw「あぁ……! 山本、すまん……! ごめん、本当にごめん!」
ハッと我に返った伊沢は、弾かれたように山本の体から飛び退いた。
頭を抱え、何度も何度も、壊れた機械のように謝罪の言葉を繰り返す。
izw「驚かせて悪かった……っ、どうかしてた、本当にすまん。嫌だったよな、本当にごめん……!」
ymmt「あ、いや……伊沢さん……?」
izw「……悪い。頭冷やしてくる」
同じリビングにいることすら耐えかねて、伊沢は上着をひったくるように持つと、逃げるように家を飛び出して行ってしまった。
バタン、と静かに閉まった玄関のドアの音を聞きながら、山本はソファの上で、ぽつんと一人取り残されていた。
ymmt「……ちがうのに……」
膝を抱え、まだ熱が残る自分の手首を見つめる。
驚いて声が出たのは本当だ。
でもそれは、拒絶でも恐怖でもなかった。
ymmt(……そろそろかな、って……思ったのに)
同じ家で暮らすなかで、伊沢が時折向けてくる、熱を帯びた視線には気づいていた。
触れ合う肌の温度が上がるたび、山本だって「その先」に進む覚悟を、少しずつ、けれど確かに決めていたのだ。
押し倒された瞬間、心臓が跳ね上がったのは、期待と緊張のせいで。
なのに、伊沢は優しすぎるから、自分の少しの反応で「傷つけた」と勘違いして引き返してしまう。
ymmt(ぼくだって……前に進みたいよ……)
結局、山本自身も、あと一歩を踏み出す勇気が出せないままだった。
夜の冷たい風に吹かれ、すっかり冷え切った身体を引きずるようにして、伊沢はマンションのドアの前に立っていた。
izw(……なんて顔して、家に入ればいいんだよ)
テンパって逃げ出してしまった自分への恥ずかしさで死にそうになりながら、そっと鍵を開ける。
リビングの明かりはまだ点いたままで、静まり返った空間に自分の足音だけが響いた。
izw「ただい……」
言いかけた、その瞬間だった。
トタトタと慌ただしい足音が響いたかと思うと、リビングから飛び出してきた山本が、ものすごい勢いで伊沢の胸に飛び込んできたのだ。
izw「うわっ……!? 山本……?」
衝撃でよろめきながらも、伊沢の両腕は無意識に山本の身体をしっかりと受け止めていた。ぎゅっと服の背中を掴み、胸に顔を埋めている山本の身体は、かすかに震えている。
izw「山本、ごめん、まだ怒って……」
ymmt「……おかえりなさい、伊沢さん」
山本はきつく目を閉じたまま、消え入りそうな、けれど一生懸命に声を絞り出した。
ymmt「ちがうんです、伊沢さん。……ちがうの」
ゆっくりと顔を上げた山本の頬は、恥ずかしさで耳の裏まで真っ赤に染まっていた。潤んだ瞳で、まっすぐに伊沢を見つめる。
ymmt「さっき驚いたのは、嫌だったからじゃありません……っ。ぼく、そろそろなのかなって、その…… 伊沢さんと同じ気持ち、だったから……。だから、怖くなんてないです」
izw「それ、って……」
山本の精一杯の告白に、伊沢の心臓がうるさいほど跳ね上がった。
嬉しさと愛おしさが一気に限界を突破し、伊沢は思わず山本の細い腰を引き寄せた。
しかし、そこで一度、伊沢の動きがピタッと止まる。またさっきみたいに怯えさせてしまわないかという不安と、これから先へ進むことへの凄まじい緊張で、伊沢の顔は耳の裏まで真っ赤になっていた。
izw「っ……山本、あの……」
ymmt「え、あ、はい……っ」
伊沢は山本の少し丸い頬にそっと手を添え、至近距離で泳ぎそうな視線を必死に繋ぎ止めるようにして、掠れた声で囁いた。
izw「……キス、していいか?」
ymmt「っ……!」
あまりにも真っ直ぐで初心な許可の求め方に、山本はさらに顔を赤くして、小さく「はい……」と呟きながら、ゆっくりと目を閉じた。
その愛おしい承諾を合図に重ねた唇は、驚くほど柔らかくて、少しだけ震えていた。
薄暗い玄関で交わされる、初めてのキス。
一度、二度と、お互いの体温を確かめるように吸い付く、優しくて静かな、けれど熱いキス。
ymmt「ん……っ、」
それだけで頭がじんわりと熱くなり、甘いムードが二人の周りを優しく満たしていく。
どちらからともなく腕を回し、お互いを求め合うようにして、二人はもどかしく唇を重ねたまま、吸い寄せられるように寝室のベッドへと移動した。
シーツの上にゆっくりと山本の身体を横たえ、伊沢がその上に覆いかぶさる。
いよいよこれから本格的に始まるんだ、という空気が部屋を満たし、二人の鼓動はさらに速くなっていく。
顔を真っ赤にしたまま動きが止まってしまった不器用な空気に、山本がシーツをぎゅっと握りしめながら、少し照れくさそうに小さく笑う。
ymmt「ふふ……伊沢さん、クイズ王なのに、すごく緊張してますね」
izw「うるせぇ。……俺だって、山本相手にするの初めてだし、どうしていいか分かんねぇよ。クイズの知識じゃこれは解決しねぇんだよ」
そう言って首の後ろを赤くしながら、伊沢はもう一度、山本の頬を愛おしそうになぞった。
伊沢は山本の耳元に顔を寄せ、低く、少しだけ震える声で囁いた。
izw「……下手くそでも、怒るなよ?」
山本はトロンとした瞳で伊沢を見上げ、さらに顔を真っ赤にしながら、嬉しそうに微笑んだ。
ymmt「ん……、お互い様、です」
その言葉を合図にするように、今度はさっきよりも深く、お互いの舌を絡ませ合う濃厚なキスが交わされた。
カチコチに緊張しながらも、お互いを大切に想う気持ちだけで、二人はゆっくりと、はじめての夜を踏み越えていくのだった。
(おわり)
コメント
1件
うわあ、やっと進んだ…!読んでるこっちまで息が止まるかと思いました。 伊沢が「キスしていいか?」って聞くところ、あまりにも不器用で真っ直ぐで、すごく良かったです。あの緊張感、山本がちゃんと同じ気持ちだったって伝えるまで本当にハラハラしましたね。「お互い様です」って微笑む山本、最高にかわいい。 クイズ王ネタでこの緊張を和らげようとしたのも、この二人らしくて好きです。クイズの知識じゃ解決できないって台詞に笑いました(笑)。