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【夜と16とハロウィンと】
まずはこのバー、パンプキンだ。
「パンプキン」
「お、どうしたの?」
パンプキンが待ち構えたような雰囲気でこちらを見る。
「トリック・オア・トリート」
「そうだなぁ…まずは最初だし、トリート。」
そう言うと、パンプキンはポケットから板チョコを取り出し、私の手に置いた。
なぜポケットに入っていたのか、なぜ全く溶けていないのかは分からない。謎だ。
「あ、でもこのままじゃ食べづらいかな。えいっ」
パンプキンがチョコを割る。
「…え?」
パンプキンは今、チョコに触れず、指をピンと立てただけでチョコを割った。
「ん?…あ、これのこと?魔法だよ」
「魔法?」
「そうそう、妖怪固有のさ。僕達パンプキンは遠隔で物を操れるの」
「カボチャとの関連性は?」
「0だね」
「0なんだ」
遠隔で物を操れる。
非現実的なものだけど、事実であるとするなら辻褄は合う。
「雪女さんとかの他の子は、種族と関連してることがほとんどなんだけど…。」
パンプキンが『なんで僕だけ』、と言いたげに肩を落とした。
「魔法というより、その種族固有の特性みたいなのが正しいけど…人間ってそういうのあるっけ?」
「分かんない」
「分かんないか」
手持ち無沙汰になったのか、首元のネックレスを弄りながらパンプキンが問いかける。
「そうだ、なんか質問とかある?」
「質問…。」
少し考える。
彼の性格からして、急かしはしないだろう。
「…パンプキンってさ、ここに来る前に何かあったりしたの?」
「何かって?」
「例えば…、頭のカボチャが煮付けにされて、それでショック死してここに来た…とか。」
パッと思いついた例え話に、パンプキンが笑って返す。
「あっははは、流石にそんなことはないけど…なるほどね、所謂『過去』か。」
「そう。」
「うーん、あるにはあるんだけどね…なんて言えばいいんだろうか…。」
パンプキンが顎に手を当て、考える素振りをする。
「えーと…、昔々あるところに、人見知りの魔女が居ました。」
数秒した後、癖なのかまた指をピンと立て、話を始めた。
「その人見知りの魔女は、自身が魔女であることにも気付いていない、純粋な少女でした。」
「その魔女は、とにかく人前に出ることが苦手でした。」
「そんな魔女は、小学校の学芸会で、『湖の歌姫』として歌を披露することになりました。」
「魔女は、学芸会の日が近付くにつれて、不安と心配で胸がいっぱいになりました。」
「魔女は、『不安があれば人を笑顔にする歌は歌えない』と思い、母に対策法を聞きました。」
「すると、母は『観客をカボチャだと思えばいい』と言いました。」
「魔女はそれを信じ、学芸会当日。心の中で、『彼らはカボチャ』と唱え、清廉な湖に相応しい歌を歌いました。」
「きっと、それが呪文とみなされたのでしょう。魔女が歌い終わり、瞼を開けると、そこには、笑顔の人々なんて居ませんでした。」
「居るのはただ、頭がカボチャになった人々だけ。脈が止まっているカボチャもあれば、ハッキリと意識を保っていたカボチャもありました。」
「以降、人々は魔女を『大悪魔の使女』と恐れ、死んだカボチャは火葬され、生きたカボチャは意思を持ち、永き生を渡り始めました。」
そこまで話し、パンプキンが深呼吸をする。
「…で、僕達パンプキンが生まれたって訳」
「…そういうことだったんだ」
でも、そうなると1つ疑問が浮かぶ。
「パンプキンは、観客…誰かの親だったの?」
「ううん、違うよ?」
パンプキンの言った通り、私にもそう見えていた。
姿だけだと、パンプキンは20代前半のように見える。無論、顔がカボチャなのでよく分からないのだが、雰囲気がなんとなくそう物語っていた。
「いくつなの?」
「年齢?」
「うん」
「う〜〜ん…まぁ、内緒」
「隠すことないでしょ」
「まぁそれはそうだけど…おじさんどころか、おじいさんって言われちゃうかも。」
「そんなに生きてるの?」
「妖怪だよ?僕」
「そっか」
パンプキンは一体どれだけ生きているのだろうか。
何十年?何百年?何千年?
「あーでも、リィラちゃんの世界の常識と僕の世界の常識は違うかもね。」
「どういうこと?」
世界?それは1つではないの?
「リィラちゃんの世界にはさ、カボチャの妖怪なんて居た?」
「都市伝説だった」
「吸血鬼は?オバケは?」
「それも都市伝説。絵本でしか見たことなかった」
「そういうこと。みんな違う世界からチルドラートに集まったの。」
「つまり、妖怪達は私にとっては不思議でも、妖怪達からしたら不思議でもなんでもなかったということ?」
「それは分かんないよ。彼らの世界がどんな世界かによる。」
「そっか」
「でも、聞いてる感じほんのちょっとは通じてることがあるっぽいけどね。例えば、『食事をしないと死んでしまう』とか。死が怖いことだったかは分からないけど。」
そんな他愛のない話をしていると、何かを思い出したようにパンプキンがこちらに向き直った。
「リィラちゃん」
「何?」
「トリック・オア・トリート。」
一瞬呆けたが、すぐに理解した。
こちらが一方的に要求するだけでは、ただの脅しと強奪だ。それだと、ハロウィンの意味が無い。
「私もトリート」
「お、何くれるんだい?」
「…これ」
雪女さんから貰った袋を漁り、小さいマシュマロをいくつか手渡す。
「お…これ、中にソースが入ってるやつ?」
「そう。何も入ってないやつ、イチゴ、チョコ、ミルク、キャラメル。雪女さんが選んできてくれたから、美味しいと思う。」
「ふふ、ありがとう。」
「それで、次の人の居場所は?」
「雪女さんが雑貨屋。このバーを出て真っ直ぐ、突き当たり左の水色のお店だよ。」
「ありがとう。それじゃあ行ってくる」
「うん、気を付けてね〜」
パンプキンのバーから出て、言われた通りの道で雑貨屋に向かった。
次は雪女さんだ。