【夜と16とハロウィンと】
次は雪女さんだ。
雑貨屋の扉を開けると、入店したことを知らせるベルの音が鳴る。
「あっ、リィラさん!来てくださったのですね!」
「こんにちは、雪女さん」
「こんにちは…!パンプキンさんとは上手く話せましたか?」
「うん、楽しく話せたよ。」
「よかったです…!」
雪女さんが笑う。
冷気に包まれているはずなのに、なぜか暖かい。
「雪女さん」
「はい?どうかしましたか?」
「トリック・オア・トリート。」
「あっ、そういうことでしたか…!ふふ、トリートでお願い致します!」
雪女さんはそう言うと、両手でグミを渡してきた。
小さい粒系のグミというより、平べったく、千切って食べるようなグミだ。紫色なので、おそらくぶどう味だろう。
「えへへ、美味しく食べてくださいね!」
雪女さんの手を握る。
肌は白く、そして冷たく、いくら人間のようでも雪女なのだと分かる。
「それで…何か質問などはございますでしょうか?」
「質問…、雪女さんってさ、印象的な過去ってある?」
「印象的な過去…ですか。」
「例えば…この町に来た原因に直結すること、とか。」
「なるほど……。あまり良くはない思い出なのですが、リィラさんの為なら語りましょう。」
一呼吸置いて、雪女さんが話し始める。
「私は昔、恋をすることが多かったんです。ですが、そのどれもが人間だったんです。そして、当時の私では人を愛すには冷た過ぎました。」
「恋し、折れ、恋し、折れの繰り返しだったんです。そんな生活にうんざりして、村を飛び出そうとまで考えていたんですが、それと同時に私は狼男に恋していました。」
「彼は、主に炎を吐く狼男で。よく人間をヤケドさせていたそうで、親近感が湧き、そこから惹かれたんです。」
「『そんな彼なら、私が傷つけることもないかもしれない』と思ってしまって。これで最後だ、なんて思いながら狼男に恋焦がれていました。」
「そしたら、彼も私に同じ感情を抱いていたようで。やがて私達は結ばれ、婚約までしました。」
「初夜……って、分かりますかね。説明が難しいのですが…。」
「分からないけど、難しいんだったらそのままでいいよ」
「ありがとうございます…。」
「狼男さんとの初夜、私も彼もドキドキしてしまって。それで、自身の特性の制御が効かなくなったのです。」
「ドキドキが収まる頃には、村は焼け焦げ、焼け焦げた場所は雪で埋もれ、まさに『地獄』という言葉が似合う風景になっていました。」
「当然、そんなことをした雪女と狼男を人間が野放しにする訳も無く、私は火炙り、彼は水責めの刑に処されてしまいました。」
そこまで雪女さんが話すと、少し俯きかけた頭を上げた。
「…というのが、私がここに来た経緯です。」
「…つらいこと、思い出させてごめん」
「いえ!説明したのは私なので!」
「…ありがとう。」
「ふふ、気にしないでください。」
雪女さんが微笑んだ直後、私はとあることを思い出した。
「雪女さんも」
「えっ?」
「あの言葉、だよ」
「あっ!…リィラさん!」
「どうしたの?」
「トリック・オア・トリート!です!」
「ふふ…、トリック」
「ええっ!?お菓子は!?」
「あるよ、冗談。」
驚き、ポカンとしている雪女さんを眺めながら、袋の中からキャンディを取り出す。
「わっ…!これ、ペロペロキャンディですか?」
「そう、ハロウィン仕様。…と言っても、雪女さんが買ってきてくれたやつだけど。」
「えへへ…。大切に食べますね!」
微笑む彼女の長髪が靡く。
少しの間お互いを見つめ合うと、雪女さんが切り出した。
「よし…、そろそろ次の方ですかね?」
「そうだね」
「えーと…次の方はゴーストさん、町広場です。この雑貨屋を出て少し戻って頂き突き当たり右、そこを真っ直ぐ行ったところにあります。」
「ありがとう。それじゃあ行ってくるね」
「はい、お気をつけください!」
手を振られ振り返し、私は雑貨屋を出た。
次はゴーストだ。
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