テラーノベル
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苦塊が消えてからの部屋は、嘘みたいに静かだった。 塔がさっきまで揺れてたなんて信じられないくらい、空気が澄んでいる。
リンは床に座りこんだまま、胸に手を当てて深呼吸していた。
「……なんとか、終わったんだね」
「うん……でも、終わりじゃないよ」
リンが小さくつぶやいた。
その声は震えていて、目はどこか遠くを見ている。
「リン……どうしたの?」
私は隣にしゃがみ込んで聞いた。
リンはゆっくり私のほうを見る。
「ぼくの中にね……まだ“ひび”が残ってるんだ。
苦しさを押しこんだ時間が長すぎて……心の部屋が、傷ついてる」
「傷……?」
「さっきの戦いで、形になってた苦しさは消えた。
でも……根っこはまだ残ってるみたい」
リンは自分の胸に触れながら、弱く笑った。
「だから……完全には、守れない。
この国のことも、自分のことも」
私は何も言えなくなって、ただリンの表情を見つめていた。
そのとき、私の後ろで気配が揺れる。
「リン……やっぱり」
ミルの声がいつもの甘さよりずっと弱く、小さく――消え入りそうだった。
振り返ると、ミルの姿がほんの少し“薄く”なっていた。
体の輪郭がところどころ透けて、向こうの壁が見えてしまっている。
「ミ、ミル!? どうしたの、これ……!」
ミルは慌てる私に笑って見せた。
だけど、その笑顔は涙を隠すためのものだとすぐわかった。
「……のあちゃん。心配しないで。
苦塊がいなくなったから、私はもう役目を終えたの」
「役目って……」
「私はリンの“甘さが作った化身”。
リンの心が元の形に戻りつつあるなら、私は……」
ミルは自分の胸に手を当て、少し寂しそうに微笑む。
「やがて、消える。
甘い気持ちが形になっていた時間が、終わるから」
私は頭が真っ白になった。
「やだ……やだよミル!!
そんなの、絶対だめ!!」
思わずミルの手を握ったけれど、その手はわずかに冷たくて、表面が霞んでいた。
リンが苦しそうに顔をゆがめる。
「ミル……ごめん……全部ぼくが……」
「違うよリン。
私は、あなたの優しさの証なんだよ?」
ミルは優しくリンの頭をなでた。
その手つきは、まるで本当のお姉さんみたいだった。
「あなたが誰かを思って甘くなれたこと。
その全部が私の“生きた時間”なんだよ」
「でも……!」
「のあちゃんのおかげで、リンの苦しさは溶けていった。
甘さだけじゃきっと届かなかった。
でも、のあちゃんの“混ざった気持ち”が……リンの奥まで届いたんだ」
ミルは私のほうへ向き直った。
「のあちゃん。ほんとにありがとう」
急にそんなふうに言われたら、胸がぎゅっと締めつけられる。
(ありがとうなんて……
私、ミルが消えちゃうなんて聞いてないよ……)
コメント
1件
今回も楽しいお話ありがとうございました!!ミルこのまま消えてしまうのかな…?のあさん辛いだろうな。続き楽しみにしてます!!頑張ってください!